「避難所後進国ニッポン」の不安すぎるコロナ集団感染対策 | FRIDAYデジタル

「避難所後進国ニッポン」の不安すぎるコロナ集団感染対策

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西日本豪雨(2018年)で設置された、岡山県倉敷市真備町の避難所(©️ピースボート災害支援センター)
西日本豪雨(2018年)で設置された、岡山県倉敷市真備町の避難所(©️ピースボート災害支援センター)

大規模な避難所は感染拡大の温床

新型コロナウイルス問題が収束の気配を見せない中、風水害が起こる季節を迎えつつある。いま大地震や水害が発生すれば、ただでさえ劣悪な環境の避難所で、新型コロナの集団感染が起きるという最悪の事態も想定される。

災害とウイルスの両方から命を守るために、国や自治体はどんな対策を急ぐべきか、そして私たちは何を心がければいいのか? 専門家に聞いた。

災害時、不特定多数の人々が密集する体育館などの大規模な避難所は、感染症が極めて広がりやすい環境だ。通常は避難所でインフルエンザ患者などが出た場合、近くの病院に救急搬送され隔離されるが、今回は医療機関も逼迫しており、迅速な受け入れができるか見通せない。また、外部から医療関係者や専門家が駆けつけにくい状況でもある。

「体育館」から小さな施設に分散避難 「教室」の使用も選択肢

公衆衛生の専門家である浜松医科大学の尾島俊之教授に、集団感染を防ぐためのポイントを伺った。尾島教授は、「大規模な体育館などの避難所から、ウイルスの拡散しにくい、より小さな施設に分散避難する必要性」を指摘する。

もっとも重要なことは、人が密集する空間を作らないことだ。例えば、学校では教室の活用が選択肢に入ってくる。従来は、授業再開を見据えて教室の使用が許可されにくかったが、今後は避難者を教室に分散して、体育館で生活する人の数を少しでも減らす工夫が求められる。

また、小さな公共施設や町内会の集会所お寺や神社を含めた民間施設の活用も検討すべきだ。

特に、感染症対策のルールに沿って生活するのが難しい小さな子どもたちや、感染症のリスクが高い妊婦、持病のある高齢者などは、小さな施設に優先的に入れるよう配慮したい。特に、国も提言しているホテルや旅館の活用は、個室が確保できるので有効だ。東日本大震災のときは、一部の自治体で旅館を二次避難所に指定し、活用された。自治体が事前に宿泊施設と協定を結んでおけば、より迅速な対応も可能になるはずだ。

ただ、小規模な避難所を多数設置すると、行政職員が回りきれず、避難所の状況が把握できなかったり、物資や情報が行き届かないといった別の課題も出てくる。自治体側には、情報提供や物資の配布などが小規模な避難所に行き渡るしくみを検討・準備するなど、避難者自身で運営できるような柔軟な対応が求められる。

「避難所」では2メートルの間隔確保が理想 床からの感染に注意!

大規模な避難所では、通常時以上に飛沫感染と接触感染の対策、換気などの徹底が必要となる。飛沫感染を防ぐには、マスクの着用はもちろん、人との距離をとることが必須となる。

尾島教授は、「理想的には2メートル、最低でも1メートルの間隔を空けて欲しい」と言う。テープで床にゾーニングをしたり、布や段ボールでパーテーションをつくることで、個別のスペースを確保するのがいいだろう。

見逃されがちなのは、床からの感染だ。

避難所では、裸足や靴下で廊下を歩く人が多い。しかもそのまま寝床とつながっているので、ウイルスにかかるリスクが高くなる。対策としては、必ずスリッパを用意し避難者に履いてもらうよう徹底したい。また、床に直に寝るとホコリを吸い込み、呼吸器系疾患に結びつきやすい。近年増えてきたダンボールベッドの活用は非常に有効だ。なお、各生活スペースの掃除や消毒は、スタッフ任せではなく避難者自身がこまめに行う方がいいだろう。

接触感染対策では、ドアノブやトイレのドアなど、大勢が触る部分の定期的な消毒が欠かせない。また物資を配るとき、運営スタッフや避難者に無症状の感染者がいた場合、物資を通じて感染が広がりかねない。配布前に手洗いと消毒の徹底をするのはもちろんだが、受け渡しの際も長い行列を避けるため、代表者を決めてグループごとに受け渡すといった工夫がいる。

避難所の受付時はもちろんだが、その後も定期的に体温を測り、発熱やせきといった症状が出ていないか確認する体制も設けたい。疑わしい症状が出た場合は、すぐに移れる別の部屋を準備しておく必要がある。また、オンラインで診療ができる準備をしておけば、患者と医師の双方にとって負担軽減につながる。

国は3月、自治体に向けて、できるだけ多くの避難所を開設し、避難者のスペースを確保することや、基本的な感染対策を徹底することなどを通知している。指摘はもっともだが、こうした対策すべてを、人的資源や財源が限られ、さらに職員自身も被災する可能性のある自治体だけでカバーするのは不可能だ。国は通知に加えて、マスクや消毒液、パーテーションやダンボールベットなどの物的支援や、医師や専門家などの人的支援の両面で、迅速なサポートをしていく必要がある。

布とダンボールでパーテーションが設置された様子(©️ピースボート災害支援センター)
布とダンボールでパーテーションが設置された様子(©️ピースボート災害支援センター)

「体育館で雑魚寝が当たり前」 災害大国なのに劣悪な日本の避難所

尾島教授は、私たち自身がまず気をつけるべきこととして、「他に手段がある場合には、できるだけ大規模な避難所に行かないようにすることが大事」と言う。

これまでは、災害時にまずは大きな避難所へ行こうとする人が多かったが、これからは本当に必要かどうかを慎重に判断し、密集を避けることが求められてくる。身の危険を感じたり、家が被災して住むことのできなくなった場合でも、親戚や友人宅に緊急避難したり、短期間であればホテルや旅館に自主避難するという手もある。

ただし親戚・知人宅の場合は、狭くて人数が多いとかえって感染リスクが高まるため、比較的広めのスペースがある場合に限られる。また、ホテルや旅館は日数が長引けば費用がかさむので、数日だけ泊まり、その後の行動計画を立てるのに利用する範囲になるだろう。もちろん、緊急の場合は一時的に大規模な避難所に行くことをためらってはならない。

ーー筆者の持論だが、日本は災害大国にもかかわらず、避難所の劣悪な環境が放置されてきた。特に体育館など大規模な避難所は、夏は猛暑、冬は極寒で、感染症なども発症しやすい。新型コロナウイルスの対策は当然としても、これを機に、避難所をめぐる状況そのものを見直していく契機にできないか。「体育館で雑魚寝が当たり前」という避難所の常識を、変えるべき時がきている。

  • 取材・文高橋真樹

    (たかはしまさき)ノンフィクションライター、放送大学非常勤講師。映画「おだやかな革命」アドバイザー。『ぼくの村は壁に囲まれた−パレスチナに生きる子どもたち』『そこが知りたい電力自由化』ほか著書多数。

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