壇蜜、大森望がオススメする「巣ごもりにピッタリ」な12冊がこれ
壇蜜、島田雅彦、村田諒太、大森望が「STAY HONE」のおすすめ本を語った
壇 蜜 先行きが見えないつらさを少し忘れさせてくれる本

せっかくのGWだが、今年は「非常事態」。日頃から読書を愛する4人に、外出自粛の今だからこそ、ぜひ読んでほしいと思う本3冊を選んでもらった。まずは、タレントの壇蜜(39)が語る。
最初に明るく意表を突く『ヘンな論文』をご紹介します。古今東西の一見無駄な論文を集め、お笑い芸人のサンキュータツオさんが突っ込んでいく解説書です。
どの論文にしても、そこには研究者の探究心があると思いますが、なかでも〈現役「床山」アンケート〉は謎や驚きでいっぱいです。力士にアンケートを取るのではなく、裏方の床山さんから聞く、という少しずれた視点がいい。〈公園の斜面に座る「カップルの観察」〉という論文では、学生を擬似カップルにして調査に向かわせ、斜面に座らせていたら、彼らが付き合いだしてしまったそう。「いるんかい、それ」というタツオさんのツッコミも面白いです。
他には〈「しりとり」はどこまで続く?〉など、なぜそんなことを真面目に考察しようと思ったのかしら、という意外な論文ばかり。研究論文と聞くと難しそうだと思うでしょうが、この本を読むとハードルが下がります。
2冊目の『もう泣かない電気毛布は裏切らない』は俳人・神野紗希(こうのさき)さんが、自身の暮らしぶりをエッセイとしてユーモラスに綴りながら、俳句も記していきます。生活という幅広い世界を凝縮していくようで、二重に読みごたえがありました。
そして3冊目が藤原新也さんの『メメント・モリ』。折に触れて幾度も読み返しています。人間の死体に?み付く犬を撮った写真に「ニンゲンは犬に食われるほど自由だ」と、脳が痺(しび)れるような言葉が添えられています。新型コロナウイルス感染拡大の中で、この書を手にするのは勇気がいりますが、生きるとは何だろう、と考え直したくて、選びました。
神野紗希(日本経済新聞出版社) 電子書籍あり

藤原新也(朝日新聞出版) 電子書籍あり

村田諒太 人間の強さとは何か、今だからこそ是非読んでほしい

人間の強さを教えてくれる本
プロボクサーの村田諒太(34)。彼は、スポーツ界きっての読書家だ。
1冊目のお薦めは、ヴィクトール・フランクルの『夜と霧』です。強制収容所での経験が書かれているのですが、人生との向き合い方など、この本から受けた影響は大きいです。同じ被収容者でありながら、他者を監視する立場として、時にはナチスの衛兵より冷酷な仕打ちをしてくるカポーと言われる存在。そんな中でも人間性を失わなかった人々……。人は環境に屈しやすいが、決して全ての人を環境によって服従させることは出来ないのだと、人間の強さを教えてくれます。
2冊目は最近読んだ『もしも一年後、この世にいないとしたら。』。著者の清水研さんが、がん患者の方々を精神的にサポートする立場としての体験を書いた本です。実体験なので、その場にいる人達のことがすごく身近に感じられ、思わず涙を流してしまいます。
「どうして自分はこんな貧乏くじを引いてしまうのだ」と嘆いているがん患者の方が、それでも生まれてこなければ良かったとは思わない、と語っている。
自分がそんな気持ちになれるのかは自信ありませんが、生に対する感謝を覚える、素晴らしい本だと思います。
3冊目は、雀鬼と呼ばれた桜井章一さんの『「自然体」がいちばん強い』を。先の2冊に比べて気軽に読めると思います。
勝負の世界に身を置き、運気を味方につけるための方法や、強い人間の特徴など、生き方の指南もしてくれます。
私のお気に入りのフレーズは、人生の軸を作る上で、「〝こういう価値観を持って、こういう姿勢で生きる〟という覚悟を持つこと」。自分が善しとしないことはしない、僻(ひが)み、妬(ねた)み……こういった感情から動くことはしない。そういう軸が、世の中には必要じゃないでしょうか。
ヴィクトール・フランクル(みすず書房) 電子書籍あり

清水 研(文響社) 電子書籍あり

桜井章一(日本実業出版社)

島田雅彦 人間を見つめ直す時、助けとなる本がある

支配と被支配の本質をつく名著
作家・島田雅彦(59)は以下を薦める。
『この道』は、2月に82歳でお亡くなりになった古井由吉(ふるいよしきち)さんの遺作です。
文学のひとつの役割は死を想うこと、あの世を想像することだと思います。生死というものは人を不安にもさせるし、昨今のようにパニックにも陥らせる。ですが古井さんの死生観に触れると、死というものが相対化されて、不安や恐怖というものが何となく薄らぎ、清々しい気持ちになるんですね。同時に古井さんの作品は、言葉の緊張感、詩的な凝縮感が素晴らしい。一種の辞書のように、時々引っ張り出しては創作の起爆剤、発想の出発点にさせてもらっています。
『森は考える 人間的なるものを超えた人類学』は、人類学者であるエドゥアルド・コーン氏のフィールドワークをもとに書かれた本。表題にあるように、ものを考えるのは人間だけといった人間中心主義に大きな違和を唱えています。人の意識の中には本来、人間ではないものと向き合い、それらに意思や理性を感じ取る繊細な自然観があるはず。本来自然の一部である人間というものを見つめ直す時に、この本は助けになると思います。
『自発的隷従(れいじゅう)論』は、支配と被支配の奇妙な協力関係、その本質をついた名著です。16世紀フランスの裁判官であるエティエンヌ・ド・ラ・ボエシが書いた古典ですが、ある意味タイムリーな内容だと思います。著者の時代は君主制下ですが、民主制の現代においても、安倍首相やトランプ大統領といった、権力志向が強く、愚鈍な指導者が現れ、被支配者は困惑させられている。支持率が4割というリーダーがなぜ成り立っているのか、その疑問のひとつの答えが本書に記されています。
古井由吉(講談社) 電子書籍あり

エドゥアルド・コーン(亜紀書房)

エティエンヌ・ド・ラ・ボエシ(ちくま学芸文庫) 電子書籍あり

大森 望 ふだんなかなか読めない本も今なら読める

エンタメ大作に挑戦しよう
書評家の大森望(59)は、エンターテインメントの傑作を挙げる。
家にこもっている機会に、長い小説にチャレンジするのもいいかもしれません。宮部みゆきさんの『この世の春』は、時代小説の超大作です。時は江戸時代中期。乱心を理由に座敷牢に監禁された元藩主の世話係を命じられた若い女性を軸に、事件の謎が少しずつ明らかになってくる……。実はこれ、「現代的なサイコサスペンスを時代小説の枠組みの中でどう書くか」という難題に挑んだ野心作。ですから、時代小説が苦手な人もご心配なく。
どんどんページがめくれるエンターテインメントを読みたいという人は、恩田陸さんの『ドミノ』をどうぞ。真夏の東京駅で27人と1匹の運命がクロスし、いろんな出来事がドミノ倒しのように連鎖してゆく小説です。同書は恩田さんのコメディ系列の代表作。超絶技巧が冴え渡り、あっという間に読めます。
そして3冊目は小松左京氏の『復活の日』。日本SFの古典的名作です。人工的につくられた猛毒の新型ウイルスが洩れて、あっという間に全世界に広まり、人類の大半が死滅してしまう。かろうじて生き残った南極大陸の人々が、絶滅を免れようとする話です。半世紀以上も前の本なのに、すごくリアルで面白い。2月ごろから急に売れ出して、今、最もヒットしている国産SFと言えるでしょう。
宮部みゆき(新潮社)

恩田陸(角川文庫) 電子書籍あり

小松左京(角川文庫) 電子書籍あり



『FRIDAY』2020年5月8・15日号より
撮影:鬼怒川 毅 結束武郎 森 清写真:朝日新聞社