『JIN』『ハケンの品格』…再放送でも強いドラマの根本的特徴 | FRIDAYデジタル

『JIN』『ハケンの品格』…再放送でも強いドラマの根本的特徴

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13年ぶりに復活する名作『ハケンの品格』で主人公を演じる篠原涼子(2018年10月29日) 写真:2018 TIFF/アフロ
13年ぶりに復活する名作『ハケンの品格』で主人公を演じる篠原涼子(2018年10月29日) 写真:2018 TIFF/アフロ

コロナ禍の影響で、春ドラマの多くがロケ・収録が止まり、代わりに過去作が再放送されている。

これら再放送ドラマを、初放送時の視聴率・今回の視聴率・前4週平均との比較で評価すると、『JIN-仁-』『ハケンの品格』の存在感が抜群だ。

再放送で強いドラマとは何か。どんな特徴を持っているのかを考えてみた。

再放送でも強いドラマ

4月7日に発出された緊急事態宣言は、5月6日を期限としていたが、政府は1ヵ月ほど延長する方向とした。

この状況の中、春ドラマは次々に放送が延期され、過去のドラマが再放送されている。しかも5月中も新作のロケや収録が出来なくなり、GP帯(夜7~11時)のドラマ枠は、今後も再放送が増える一方だ。

これまでに、GP帯と週末に3本以上再放送されたドラマは以下の通り。

『野ブタ。をプロデュース』(日本テレビ・3本平均10.1%)

『ハケンの品格』(日本テレビ・10.6%)

『BG~身辺警護人~』(テレビ朝日・10.8%)

『恋はつづくよどこまでも』(TBS・9.7%)

『下町ロケット・特別総集編』(TBS・9.4%)

『コウノドリ』(TBS・7.8%)

『JIN-仁-』(TBS・4月26日までの一挙放送11.2%)

『グッド・ドクター』(フジテレビ・4本平均6.0%)

『素敵な選TAXI』(フジテレビ・3本平均5.5%)

これらの中で、初放送時のシリーズ平均が20%を上回り、再放送でも二桁を維持しているのは『JIN-仁-』と『ハケンの品格』の2本。

『JIN-仁-』は第一期が2009年秋、完結編が11年春に放送された。第一期の平均視聴率が19.0%、完結編は21.3%と大台を突破した。共に当時のドラマとして圧倒的に良く見られたドラマだった。

今回は4月18日から3週連続で土日の6回にわたって放送された。4回までの平均視聴率は11.2%。前4週の同枠平均視聴率が6.4%だったので、長時間に渡り5%ほど数字を押し上げた格好だ。

ドラマの一挙再放送は、先の年末年始に10作以上と大ブームだった。

その中でTBSは、『逃げ恥』『ギボムス』『ノーサイド・ゲーム』『アンナチュラル』など6作が上位に入り、独壇場となった。

今回の『JIN-仁-』は、TBSの勢いが今も健在であることを示していると言えよう。

一方、日本テレビの『ハケンの品格』は、2007年冬に放送され、シリーズ平均が20.2%だった。日テレの水曜ドラマとしては、最終回が40%だった『家政婦のミタ』(11年秋)に次ぐ高視聴率を記録している。

今回の再放送でも、3話平均で10.6%。同枠は過去1年の新作ドラマでも高くて10%台なので、再放送で10.6%は大健闘と言えよう。

ドラマは番組から作品へ

業界では、テレビドラマはあくまで番組で、映画のような作品ではないという見方が従来は一般的だった。

ところが近年、その位置づけが変わりつつある。

「映画は後々まで残る作品で、テレビは“送りっ放し”の一回性の表現だったので、作品と位置付けていませんでした。ところがDVDや動画配信など、リアルタイム視聴以外に家庭で見る技術や画質の進歩で、後々まで残る作品作りを意識する時代になりました」(民放ドラマ関係者)

では、10年後も見られる作品の条件は何か。

民放の編成マンは、3つの条件を挙げる。

「時代性を持っているか。テーマに普遍性があるか。見る者の心をリリースする娯楽性を備えているかの3点です」

なるほど幕末を舞台に、癌やコレラ・梅毒などの感染症との戦いを描いた『JIN-仁-』は、新型インフルエンザが世界的に流行した2009年の放送で、時代性もテーマの普遍性もあった。

しかもタイムスリップあり、命の大切さに向き合う主人公・大沢たかおと綾瀬はるかの奮闘や、幕末を駆け抜ける坂本龍馬(内野聖陽)の活躍ありと、娯楽性も感動も兼ね備えていた。

「番組販売でも国内外で売れた、強いコンテンツです。週末昼という競争相手のいない時間帯も良かったのかも知れません。いずれにしても時代性と普遍性のあるエンタメ作品は、10年経っても良く見られますね」(同民放ドラマ関係者)

時代にジャストミート

『JIN-仁-』同様、10年の時を経ても色褪せなかったのが2007年放送の『ハケンの品格』だ。

初放送時は、バブル崩壊後の「失われた10年」から「失われた20年」。

終身雇用と年功序列を前提にした日本の雇用形態が崩れ始めていた。代わりに企業は、スリム化するため労働のアウトソーシングを進め、非正規雇用者(通称ハケン)が増えていた。

こうした時代状況の中、主人公・大前春子(篠原涼子)が信じるのは、自分のスキルとお時給。会社組織や正社員の理不尽に屈することなく、正しいと思うことを主張する強い意志を持つ。社畜を否定し、働くことの意味を突き付けた普遍性に富むドラマだった。

今春は、『ハケンの品格』以外に、『SUITS/スーツ』『BG~身辺警護人~』『半沢直樹』など、人気ドラマの続編がたくさん放送される予定だった。

パイルアップ社が3月下旬に実施した「2020年春に放送される続編ドラマで最も見たいものは?」というアンケートでは、最終回が42.2%と一般劇で歴代2位の視聴率を誇る『半沢直樹』がトップだった。

ただし4月に前シーズンが再放送されたものの中では、『ハケンの品格』がトップに躍り出る。男社会の不条理を斬るスーパーハケンが主人公だけに、男40~50代の受けは今一つだった。ところが当時、悔しい思いをしたであろう女30~50代の期待は高く、特に女40代は『半沢直樹』も凌ぐ視聴意欲となった。

調査を実施したパイルアップ社の高木章圭メディア研究員は、テーマの普遍性だけでなく、一見無表情でアンドロイド的な主人公の、もう一つの姿が女性の支持につながっていると分析する。

「ふと垣間見える気遣いや優しさなどが、とても素敵な女性に感じられます。このキャラクターが、女性からの共感や憧れを得ているのではないかと思います。旧作放送当時は幼く今社会人として働いている私のような世代にも、刺さるドラマだと思います」

日本テレビ制作局の福士睦局次長は、再放送がヒットし、新作が期待される理由をこう説明する。

「労働基準法改正、AI導入、そしてコロナ禍など、これほど働き方や会社のあり方が様々な角度から問われている時代はありません。そんな中、決して暗くならずに、痛快で爽快なお仕事エンターメイントとして、13年経っても色褪せずに、しっかり視聴者の皆さまに届いているのだと思います」

緊急事態宣言が延長され、ドラマの新作が作れないのは憂うべき状況だ。

ただし結果として、10年を経ても色褪せるどころか、再評価できるドラマを発見できるのは貴重な経験だ。

旧作の再放送は、「レジェンド」「傑作選」「特別総集編」など、各局が大人の事情で苦肉の策を弄して漕ぎつけていることが多い。

しかし『JIN-仁-』や『ハケンの品格』のように、タイミング次第で価値が拡張する再放送もある。テレビの幅を広げる編成戦略として、こうした路線を積極的に進めるのもありではないだろうか。

  • 鈴木祐司

    (すずきゆうじ)メディア・アナリスト。1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。

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