早大ラグビー部エースの葛藤「あの地獄のハードワークが懐かしい」 | FRIDAYデジタル

早大ラグビー部エースの葛藤「あの地獄のハードワークが懐かしい」

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今年1月、大学選手権準決勝・天理大戦。力強い走りでトライも奪った河瀬諒介
今年1月、大学選手権準決勝・天理大戦。力強い走りでトライも奪った河瀬諒介

感染拡大が止まらない新型コロナウイルスにより、大学ラグビーも完全にストップしてしまった。昨年11シーズンぶりに大学王者に返り咲いた早稲田大学は3月下旬から部活動の自粛をしており、都内の練習場から学生の姿が消えて1か月以上が経過した。そんな中、昨年の優勝に貢献し、将来は日本代表入りも期待されるバックスのエース、河瀬諒介がZOOMによるインタビューに応じた。

再集合はいつになるのか

早大ラグビー部3年の河瀬は、都内の寮を離れて大阪の実家にいる。

「一応、5月11日からウェブでの授業が始まる。いまのところ(チームは)5月10日には再集合と言われているけど…わからないです、こんな状況なので」

大学側からは、3月下旬に部活動の自粛を言い渡されていた。新型コロナウイルスの感染拡大防止のためだ。

同時期には4月中旬からの関東大学春季大会の中止も決まり、「新型コロナが流行りだした時に『(春季大会は)なくなるかなぁ』とは思っていました」。4月7日に日本政府が翌日以降に向けた緊急事態宣言を発令するより先に、大阪の実家へ戻っていた。

外出は近所のひとけのない広場で家族とキャッチボール、バドミントンをする時など、ごくわずかに限られている。

当初の戸惑いを、改めて口にした。

「ここまでひどくなるとは思っていなかったので、何していいかわからないというの(気持ち)は、ありました」

クラブは昨季、大学選手権で11季ぶり16度目の日本一に輝いた。ハードワークのたまものだった。

短期集中型のトレーニングが多かった一昨季までと比べ、全体練習中、もしくは全体練習後の走り込みを増やした。就任2季目を迎えた相良南海夫監督が、運動量、こぼれ球への反応、鋭い仕掛けにこれまで以上にこだわった。

ハードワークを80分間、体現するための基礎体力向上にも妥協がなかった。2007年度に主将として自らも優勝した権丈太郎フォワードコーチは、個々の身体の幹を鍛えるため、地道ながら苦しさの伴う練習を課した。

たとえば、味方を「亀」の格好で背負って前に進む動き。「亀」とはもともとスクラムの姿勢を強化するための練習だが、タックルなどすべてのプレーに通じるとして、早大が伝統的に大切にしているボディポジションのひとつだ。スクラムを組むように四つん這いになってひざを地面から数センチだけ浮かせる。前を見て、腰に楕円球を乗せても落ちない姿勢で「亀」のようにゆっくり進む。

一般の人であれば50cm進むのも大変だろうが、権丈コーチは「亀」の姿勢をとった選手の上に体重100㎏近い味方選手を乗せた。

この「亀」はおもにフォワードの選手に課していたが、バックスを含めた全選手に向けてもひたすら身体をいじめぬく「権丈タイム」なるセッションを提示。前主将でスクラムハーフの齋藤直人は、初めて権丈の指導を受けた時期に「これを1年間、できるのかな…」と気が遠くなる思いをした。

「いつかグラウンドに立つ日のために」

ZOOMインタビューに応じた河瀬諒介
ZOOMインタビューに応じた河瀬諒介

泥臭く戦ったこのチャンピオンチームでエースとなったのが、フルバックの河瀬だった。

高校ラグビーの名門、東海大仰星で全国優勝を経験し、大学入学後も1年時から筋力強化に注力した結果、前年度は身長183センチ、体重86キロの身体とスピードを活かして再三のラインブレイクを披露。大学選手権連覇が期待される2020年度は、プレーへの参加回数やスキルの精度を高めたいと決意していた。

選手個人として狙うは日本代表入り。2023年のワールドカップフランス大会を目指す。

「今年は追いかけられる立場になる。自分としてもチームとしても成長を止めないシーズンにしたいとは思っていました。4年後に(日本代表へ)選ばれるためには自分はどう変わったらいいのかな…と、ちょっとずつですけど考えるようにはしています。雑なミスが多いのを修正するのは大前提です」

3月上旬には若手主体のジュニア・ジャパンとしても活躍。帰国後もさらなるレベルアップを図りたかったがいまは、練習の辛さではなく練習のできない辛さを味わっている。

もっとも、歩みを止めたわけでは決してない。

東京を離れる前には、クラブのストレングス&コンディショニングコーチから水入りのペットボトルを使ったウェイトトレーニングのメニューを入手。腕立て伏せや腹筋などの自重トレーニングと交互におこなう。

もともと春先は「ミスを減らす」ためにハンドリング練習を増やすつもりだったので、自宅にふたつあるラグビーボールを常に触ってもいる。裏を返せば、身体を動かす方法は限られている。ただそれだけではなく、「ラグビーIQ」を高めようともしている。丸尾崇真主将が発案したオンラインミーティングを通じ、たくさんのゲームを観ているのだ。

今季はかねて、部員を学年、ポジションがばらけるように6~7人のグループに分け、会話量の増加を目論んできた。全体練習の自粛が決まってからも、この枠組みを活用。トップレベルの試合、同じグループ内の選手の過去の試合などをお互いに見たうえで、オンライン会議システム『ZOOM』を使って感想を伝え合う。

週に2回ある話し合いに備え、河瀬もさまざまな試合映像をチェック。アイルランド代表で自分と同じポジションのジョーダン・ラーモアが短いフェーズ(攻撃回数)の間に左端、右端でラインブレイクしていたのを見て、休まずに流れを予測し続ける重要性を再確認した。

同級生に助言したら「自分でも気づけなかったことに気づけた」と言われ、やりがいも感じられた。

これらひとつひとつを、飛躍のきっかけにしたい。

「外で皆とラグビーをすることができない。いまはトップレベルの試合を観てラグビーの勉強をしたり、仲間や自分が出た試合の感想を言い合ったりして、ラグビーIQを高める時期だと思っています。トップレベルのチームの同じポジションの人を見ると、自分と比べて運動量が豊富でボールをもらう機会が多い。イングランド代表、フランス代表の試合を観て、『フォワードにはこういうことをして欲しい』と伝えもしました。勉強になります」

小学4年で始めたラグビーとイレギュラーな形で距離を置くことになった20歳の大器。思うに任せぬ状況に葛藤を抱えながらも、いつかグラウンドに立つ日のために養分を蓄える。

  • 取材・文向風見也

    スポーツライター 1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』(双葉社)がある

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