コロナで経済を殺さぬために…精神科医が提案する「ある方策」 | FRIDAYデジタル

コロナで経済を殺さぬために…精神科医が提案する「ある方策」

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「変えられるもの」は変えるべき

緊急事態宣言から1ヶ月が経ったが、自粛生活に目処がつくどころか5月31日までの延長が決まった。

一部の国を除き、世界的にコロナとの戦いが長期化の様相を見せる中、海外では感染症の専門家のみならず、様々な専門家が対策に協力している。中でも精神的ストレスの弊害は大きく、精神科医の協力は今後のコロナ対策には不可欠となるだろう。
さらに1ヶ月近い自粛の延長が精神面に及ぼす影響に懸念を示すのは、豊島区にある「ライフサポートクリニック」院長で、PTSDやアルコール依存症に詳しい山下悠毅医師だ。
このままでは次々と会社は倒産し、多くの方が職を失います。住宅や車のローンを抱えた方は、手放そうにも買い手はつかない。最悪、『犯罪に手を染めなければ生きられない』という方も出てきてしまうでしょう」
山下氏は精神科医の視点から、こうした自粛が続くことによる懸念を話す。
「新型コロナウイルス(以下コロナ)によって私が最も心配していることは、二次的なうつ病や自殺率の増加や、自宅待機に伴うアルコール依存症の増加です」
そういった二次的影響を食い止めるために山下医師が提唱するのが、「集団免疫へ向けたハーム・リダクション」という方法である。 いったいどういうものか。
「精神科医療の治療概念のひとつです。これは何か問題が起きた際に、『変えられないもの』と『変えられるもの』とを整理し、まずは『変えられるものだけでも変えていこう』という考え方です」
ハームリダクションは、主に薬物依存の治療に用いられるという。
「オランダでは違法薬物を止められない方に対して、『薬物をすぐに止めるのが難しいのであれば、せめて注射針の使い回しによるHIVの感染だけは防ごう』と、注射針を行政が無料で配布しています」

 

理屈はわかるが、それでは違法薬物の使用が助長されるのでは?

「『理解できない』と思われる方も多くいると思います。しかし、現地ではこうした施策によって、薬物依存症の患者数を増やすことなく、注射針の使いまわしによるHIV等の感染者数を減らすことに成功しています」

薬物そのものを打てないようにしても、結局はどこかで注射針を探して薬物を使用してしまう。その結果、薬物依存に加え、別の病に感染してしまうこともある。それを防ぐための考えが「ハームリダクション」だ。

ではそのハームリダクションという手法を、緊急事態下、どのようにコロナに当てはめるのだろう?

「現状において『変えられないもの』はコロナの人為的な駆逐です。現状、まったく先は見えず、国民の大半がコロナへの抗体を獲得するまでは終わらない。

一方で『変えられるもの』はというと、自粛要請による『経済の破綻』です」

では、経済の破綻を防ぐためには、何を変えていくべきなのか?

「いうまでもなく『自粛』です。これまで自宅に引きこもることが無駄だったとは言いません。しかし、これ以上の自粛は、薬物依存症者が購入しておいた清潔な注射針を、家族が『よかれと思って』捨ててしまうのと同じなのです

コロナに重ねるなら、感染を防ごうと自粛を続けた結果、経済までも死んでしまう恐れがある。 コロナを完全に駆逐することができないことが明らかな以上、経済を殺さない方策を考えるべき、ということだ。

たしかに行政が自粛解除のサインを出せば、明日にでも経済活動の一部は再開し、多くの企業が倒産を回避することができる。

しかし、それでは医療崩壊が起きるのではないか? その疑問に、山下医師はこう回答する。

「医療現場のスタッフが疲弊されていることは私も重々承知しています。しかし、疲弊してしまう最大の原因は、感染を拡げないよう徹底した対応策をとっているからです。現状、コロナの陽性者の多くは『無症状から軽症』ですから、医療者がコロナに対して、冬季インフルと同程度の感染防止レベルで治療に対応することも検討をして欲しいのです」

もちろん前提として、現場で働く人の安全を守ることを考えるべきである。

「治療に当たる方への(報酬などの)インセンティブについての話し合いが必要です。 現場で働く方が重症化した際の専用の呼吸器確保も必須でしょう。

話を自粛の解除に戻しますと、私も『すべてを完全に解除すべき』とは思いません。ライブハウスのような、長時間『三密』となる業種は経過を見る必要があります。ただし、そうした業種は限られますから、公的資金によるサポートが十分可能です。

繰り返しになりますが、大切なのは『変えられるもの』と『変えられないもの』を見極め、『変えられるもの』にのみ全力で対処することです。

その点からも、手洗いやうがい、マスクの着用や自己検温は継続すべきですし、高齢者などの感染リスクが高い方へは予防薬や治療薬が完成するまで、自宅待機できるよう行政が物資のサポートをすべきです」

山下医師の提言

こうした話を理解してもらうためにも、現時点で「正しい」とされているコロナの特徴について、もう一度確認して欲しいと山下医師は言う。

① 感染者のおよそ8割は無症状から軽症。ただし高齢者は重症化し易い。
② 重症者は人工呼吸器や人工肺がなければ死亡率が跳ね上がる
③ 感染者は無症状であっても他者への感染源となる
④ 特効薬となりうる既存の薬剤はなく、ワクチンの開発も1年以上かかる

「以上が新型コロナウイルスの特徴であり、対抗策は、【A案】感染者の体内でしか増殖ができないコロナが、国内で消滅するのを待つ 【B案】特効薬やワクチンが開発されるのを待つ【C案】重症者の人工呼吸器が不足しないよう、順番にゆっくり感染する(集団免疫) 、が導き出されます。

A案に関しては、仮に成功したとしても、海外からの物資や観光客によって感染が再燃することは必至です。またB案・C案に関しても、その間に多くの事業者が破綻してしまうため、『感染者の8割が軽症』であるコロナ対策としてはナンセンスです。

自粛要請・ステイホームアナウンスをする政府の出口戦略は、C案をベースとし、特効薬やワクチンが一刻も早く開発されることを祈ること、なのだと思います。

繰り返しになりますが、この戦いはワクチンや特効薬が完成するか、国民の大半がコロナへの免疫を持つまで終わらないのです。さらに厄介なことに、回復後の再感染の可能性すら報じられています。

であるならば、『自粛して皆で感染しないようにしよう』という戦略を取り続けても、一向に先は見えません。政府は『この戦いは皆が感染するまで終わらない』『コロナに対して現状の私たちは無力である』という現実を受け入れ、せめて自粛が引き起こす二次的なうつや自殺、アルコール依存症の増加だけでも食い止める、避けるという視点も必要なのです」

異論・反論もあるだろうが、前代未聞の危機を乗り越えるためには、様々なアイデアが必要だろう。実際、コロナの影響による生活苦から自殺を選ぶ人も増えてくるだろう。そのようななかで、山下医師の提唱する「ハームリダクション」という概念も、検討すべき案のひとつではないだろうか。

  • 取材・文吉澤えり

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