コロナ禍で見えた「オンライン授業」の意外な限界 | FRIDAYデジタル

コロナ禍で見えた「オンライン授業」の意外な限界

実は都内より地方のほうが充実?

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休校期間中、子どもたちにタブレットでオンライン授業を見せているが「すぐに飽きてしまう」という声も多い…(写真はイメージです)/アフロ
休校期間中、子どもたちにタブレットでオンライン授業を見せているが「すぐに飽きてしまう」という声も多い…(写真はイメージです)/アフロ

「学び動画」はありがたいが正直…

各地でコロナ休校が続く中、オンライン授業をはじめたという学校を目にするようになっている。だが、実態としてはかなり大きな「格差」があるという。

都内の公立小学校では、渋谷区などは早くからタブレット学習を導入しており、休校中もこのシステムを使い学習の継続が行われているようだが、その他の自治体はほぼ家庭に丸投げという状況。また、オンライン授業という言葉の捉え方にも揺れがあるようだ。

いち早く「オンライン授業導入地域」として名前の上がった港区も、今のところ授業などの動画を配信する視聴型の取り組みだけ。内容は新一年生に向けて校内の様子を伝えるものや、家でできる簡単な運動の仕方などだった。

同区在住で小学6年生と3年生の子を持つ母親は「これでオンライン授業と呼べるのかは疑問です」と語る。子どもも一度見た動画が面白くないと次からは見たがらないという。

「相変わらずゲームばかりになりそう。学校から紹介のあった東京都の『学びの支援サイト』も見ましたけど、ログイン段階でトラブルが起きて分からなくなってしまって…。それからはやっていません」

世田谷区教育委員会もYouTube上に『せたがや まなびチャンネル』を作り、体育「ひまひま体操」や音楽「ラップ講座」、家庭科「キーマカレーの作り方」など、多種多様な授業動画を配信しているが、同区に住む5年生男児の母親は「よっぽど話の上手い先生でない限り、ただの授業動画の配信では子どもは飽きて見なくなります」と話す。

休校当初は、学校HPに掲載された学びの支援サイトなどを見ていたが、親側でどのページを見せるか、どのドリルをやらせるかという事前作業にけっこうな手間がかかり、その後はHPすら見なくなった。

「中にはおもしろがって見るページもありましたが、塾で先取り学習をしている息子にはあまりにも簡単すぎて物足りない。それからは学校が薦めたものはやっていません。YouTubeでの授業配信もたしかに『オンライン』かもしれませんが、なんだか『オンライン』という言葉でごまかされている気がする」

ネット上でドリルを公開しダウンロードして学ばせる方法でも、取り方によっては「オンライン」と呼べてしまう。オンラインは〝まやかし〟なのだろうか。

都内より圧倒的に進んでいる「熊本市」

だが、同じ公立でも双方向型のオンライン授業をすでにはじめている自治体もある。熊本市だ。市内の公立小学校に子どもが通う母親は「全国どこもみんな始まっていると思っていた」と都内の様子を聞いて驚く。

学校の休校がはじまった直後には、以前から取り組んできたタブレット学習を継続、4月15日からはZoom を使った双方向オンラインでの学習がスタートした。宿題の提出もオンライン上で行っており、子どもがログインすることで出席をとっている。

一回の授業は30分から1時間程度。双方向で行われているのは今のところ算数と国語の授業のみだ。生徒側のマイクの設定をミュートにすることで雑談にならないよう配慮がされていたという。教室での授業と同じように、先生に当てられた子はマイクのミュートを外して発言するという具合だ。

「同じオンラインでも、好きな時間にできてしまうドリル形式だと親にやれと言わなければならない。双方向型の授業は決まった時間に受けないといけないので、そこがいいです。それに、友達の顔が見られ、声が聞けるから子どもはうれしそうです。親の方もテンションが上がりました。双方向型がはじまって、やっと新学年になれた気分です」

教育ジャーナリストの佐藤明彦氏は「勉強の仕方がある程度分かっている中高生の場合は試聴型のプログラムでも学びを進めることができますが、小学生では難しい。オンラインの学びについては管轄の自治体により取り組みに差が出ている」と指摘する。

公立小中学校の方針や対応を決めるのは文部科学省ではなく、設置者である各自治体だ。それまでICT化にどれだけ取り組んでいたかによっても進み方は変わってくる。

熊本市の場合、震災を機に小中学校のICT化を強化、2018年度から3年をかけて市内の小中学校134校に2万3500台のLTE通信タブレット端末を導入する計画で動いていた背景がある。すでに小学校では昨年度から市内全ての学校で3年生以上を対象にタブレットを使った授業をはじめていた。

東京都が公開している『学びの支援サイト』
東京都が公開している『学びの支援サイト』

実は6年生より5年生のほうが心配

都内で算数に特化した教室を開いている大迫ちあき氏は「小学生の場合、視聴型と双方向授業の両方をやらなければ学習の定着は難しいと思う」と話す。動画視聴型の場合、見ても理解できなかったものがあると子どもはそこで飽きてしまい、学びを止める可能性があるからだ。一度面白くないと思った学習に再び取り組ませるのは容易なことではない。

「分からないところの解説が聞けたり、直接質問できる機会が必要です」(大迫氏)

中学受験を目指す子どもにとってはこれが大きなネックとなることもある。実は大変なのは6年生よりも5年生だ。

6年生の場合、今の時期はすでに6年生までの学びを終えているところも多く、あとは演習問題などに入る時期だが、5年生は中学受験の肝となる算数のインプット学習が格段に難しくなる時期だからだ。

「数学の問題を算数の知識で解く抽象的な問題へと内容が高度化します。授業動画配信だけでは理解ができずに遅れを取る可能性もありますし、ここで躓きを感じるとその後の学びでかなり苦戦することになります」(大迫氏)

双方向型や、講師に直接質問のできる策を講じている塾の場合はよいが、動画配信だけなど、一方的なコミュニケーションで終わってしまう指導についてはどれだけ親が手をかけられるかで学力に差が生まれる。

「中学受験をしない場合は小学生のうちは、基本の確立さえすれば大丈夫だと思います。中学になってから学習に目覚めるタイプの子もいますから焦る必要はありません。ただ、受験を考えている場合は躓きをそのままにしないために、親側の努力が必要だと思います」(大迫氏)

御三家を目指す上位層の子どもたちの間では、すでに自主的にZoom を使った自主勉強会もはじまっているという。だが裏を返せば、中学受験とは、そういう子どもたちと同じ土俵で戦うことになるということだ。

授業動画の視聴だけで内容を理解し、テキストをすらすらと解いていけるタイプの子どもはよいが、親に言われてもなかなか授業動画も視聴せず、テキストにも自分だけでは取り組めないという子どもにとっては、オンライン学習だけでは不十分だ。コロナ騒動によってあぶりだされた学校や塾の対応の格差が、将来にわたって影響しないことを願わずにはいられない。

  • 取材・文宮本さおり

    地方紙記者、専業主婦を経てフリーランスの記者・ライターに。教育や女性の働き方、子育てなどをテーマに取材・執筆活動を行っている。2019年、親子のための中等教育研究所を設立。

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