金正恩が重体説でも姿を見せなかった「したたかな計算」

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昨年6月、北朝鮮、米国、韓国の首脳が板門店に集まったが、その後、関係改善にはつながっていない

金正恩は生きていた――。

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が5月1日に地方の肥料工場の竣工式に出席した、と朝鮮中央通信が報じた。20日ぶりに公の場に姿を現したのだ。一時、正恩氏をめぐっては重体説や死亡説が飛び交い、今回公開された映像さえも影武者ではないかと指摘され、依然として情報は錯綜している。

龍谷大学社会学部教授の李相哲氏は画像と動画を見てこう分析する。

「正恩氏は歩く姿のみならず、タバコを吸う姿を見せるなど、健康に不安がないことをアピールしたかったのでしょう。しかし、私は右手首にこれまで見られなかった『黒い穴』があることが気になりました。

韓国の心血管学会の会長によれば、これは心臓のステント手術の手術痕の可能性が80%。ここから金属製の筒(ステント)を入れて、心臓の血管を広げる手術をしたのではないか。

また、左足を少し引きずるように歩いていたことと、視察にカートを用いたことにも注目です。やはり心臓の手術直後で数十メートルを歩くだけでもつらいのではないか。父の金正日総書記もカートで視察する姿が現地の労働新聞で報じられてから、8ヵ月後に亡くなりました。この後、正恩氏が再び雲隠れをするようであれば、健康に不安がある証拠です」

そもそも、正恩氏の健康不安説が流れたのは、CNNの「誤報」がきっかけだった。軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏が経緯を振り返る。

「4月15日、祖父の金日成主席の生誕記念日に姿を見せなかったのが、正恩氏の健康不安説の発端です。北朝鮮にとって最も重要な式典に現れず、各国の情報機関が『何かがあった』と注視するようになった。4月20日には韓国メディアのデイリーNKが、正恩氏が心血管疾患で手術をしたとの記事を掲載。ただ、この時点ではそれほど注目を集めませんでした。

翌21日にCNNが速報で『重体説』を流したことで状況が一変します。各国のメディアがCNNのニュースを紹介する形で重体説、さらに死亡説を流し、北朝鮮内部にも口コミで伝わっていきました。しかし、ワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズなど他メディアが後追いをしませんでしたので、この情報は信憑性が低かったと私は思います。結局、正恩氏は姿を現して、自国民向けに健在をアピールし、噂を沈静化させました」

しかし、なぜここまで「健康不安説」が広まっていったのか。金正恩氏が健在なら、もっと早いタイミングで姿を見せるという選択肢もあったはずだ。

かまってちゃんの北朝鮮

各国を混乱させた「情報戦」のウラ側には、中国や北朝鮮の思惑があるという。国際ジャーナリストの山田敏弘氏が解説する。

「現在、中国は新型コロナウイルスの発生源として、トランプ大統領をはじめ、世界中から批判を浴びています。中国にしてみれば、『金正恩、重体か』と話題になれば、多少なりとも世界の注目がそちらに移る。まさにそんなタイミングで重病説が浮上したことを偶然と結論付けないほうがいいでしょう。

北朝鮮にしてみても、国際社会にアピールするきっかけになりました。経済制裁が続き、苦しい立場に追い込まれているのに、世界中が新型コロナウイルスにかかりっきりで、北朝鮮をまったく話題にしなくなった。ミサイル発射を繰り返しても、国際社会に相手にされない。そんななかで、重体説で注目を集めたことはマイナスではありません。これを機に経済制裁を緩めさせるため、関係各国に何らかの形で訴えかけるでしょう。中朝両国にとって、重体説、死亡説は好都合だったのです」

世界中が新型コロナウイルスで苦しんでいる最中に、はた迷惑な話である。

肥料工場の竣工式に出席した正恩氏。隣に実妹の与正氏を座らせた。正恩氏に万が一のことがあれば、彼女が後継者になると見られる

『FRIDAY』2020年5月22日号より

  • 写真AP/アフロ KNS/KCNA/AFP/アフロ

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