【平成凶悪事件】元暴力団員が一人旅20代看護師絞殺の呆れた目的

平成を振り返る ノンフィクションライター・小野一光「凶悪事件」の現場から 第46回

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大分県内の山中を調べる警察官ら。130人規模の捜査態勢がとられた

20代の若い女性が、温泉地の山中で変わり果てた姿で見つかったーー。2010年に大分県で起きた殺人事件。捜査は難航したが加害者として浮かび上がったのは意外な人物だった。ノンフィクションライターの小野一光氏が深層を追う。

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大分県別府市にある秘湯「鍋山の湯」へと続く山道沿いの雑木林で、女性の遺体が発見されたのは10年9月4日のこと。

女性の身元はすぐに兵庫県神戸市の看護師・横内由美さん(仮名、28)だと判明する。由美さんは8月28日から自家用車を使って、単身で九州を巡る旅行中だった。ところが同月31日の夜に、母親が何度メールを送っても返信がなく、友人からも「メールが通じないのですが、どうしているか知りませんか?」との問い合わせがあったことから、9月2日の夜に捜索願が出されていた。

兵庫県洲本市に住む彼女の祖母は、私の取材に次のように答えている。

「(8月)28日に神戸から博多まで7時間かけて車を運転して行き、土日にかかっていたから(ETC割引きで)『1000円で福岡まで行けた』と喜んでたんですよ。29日には母親に『今、鹿児島に来てんねん』とメールがあり、それからも桜島に来たからと、背景に桜島が入った写メが送られてきたりしていました。

あと、宮崎の県庁前で撮った写メも送られてきていて、30日の午後10時ごろ、『いま宮崎にいる。明日別府に行くつもり』という連絡があったりと、それまでは連絡が取れていたんです。携帯が繋がらなくなったのは(9月)1日のこと。それで捜索願を出したら、3日の晩に別府警察署から由美の車が見つかったという電話があり、4日の朝一番に母親が別府に向かいました。そこで、『おばあちゃん、(遺体で)見つかった』と連絡があって……。ほんとうに優しくて素直な子なんです。そんな子が、なんであんなひどい目に遭ってしまうんでしょうか……」

兵庫県南あわじ市の看護専門学校を卒業後、看護師の仕事を続けていた由美さんは、09年12月から神戸市にある総合病院に勤務していた。同病院の事務部長は語る。

「横内さんは病棟担当で、外科などで入院されている患者さんのお世話をする仕事でした。仕事ぶりは一言で言うと、真面目で優しくて親切。手際も良く、患者さんからの評判も良い人でした。もちろん、誰かに恨まれることや犯人の心当たりはありません」

加害者の“恐ろしい素性”

神戸で看護師をしていた由美さん。礼儀正しく職場での評判も良かった

温泉とドライブが趣味だという由美さんは、夏季休暇と年次休暇をあわせて取り、一人旅に出ていたところで、凶悪な犯罪に巻き込まれてしまったのだ。在京の報道情報番組ディレクターは言う。

「由美さんの遺体が発見されたのは『鍋山の湯』まで約200mという地点で、その約200m手前に彼女の乗る軽自動車が施錠されたまま残されていました。9月3日の午後4時40分頃、交番に『2日前から停められている車がある』との届け出があり、捜索の結果、翌4日の午前9時15分ごろに遺体が発見されました。

遺体は上半身がTシャツで下半身は下着という姿で、乱暴された痕跡はなかったようです。頭蓋骨の一部に陥没が見られ、遺体の近くで血のついた石が発見されましたが、喉仏の位置にあたる舌骨と甲状軟骨が骨折しており、解剖の結果、手で首を絞められた扼殺だと断定されています。また、所持品のうち財布や免許証、携帯電話、車のキーなどが持ち去られていて、長期の旅行に必要なはずの衣類は車内から発見されていません」

由美さんの遺体が発見された現場について、別府温泉の関係者は説明する。

「『鍋山の湯』は山裾にある明礬(みょうばん)温泉からさらに山の中腹にまで入っていった斜面にある秘湯で、脱衣所はもとより照明などもありません。そのため夜は温泉に向かう道も含めて真っ暗になります。ただし、そこからは別府市街と別府湾が一望できる絶好のロケーションにあるため、夜景を楽しむために日没後に訪れる客もいるようです」

過去に何度か「鍋山の湯」に行ったという男性は、取材に次のように答えている。

「『鍋山の湯』のある辺りは、日中でもひと気が少なく、夜ともなればほとんど誰もいなくなる山中です。そのため、停めていた車の窓ガラスを割られて、荷物を盗まれる車上荒らしの被害が起きていて、注意を喚起する看板が立てられています。また囲いがないため、当時は女性客を狙って、ノゾキや盗撮を目的とした男性が現れていたという話も聞きました。地元の人間はそういうことを知っているから、女性が一人で訪ねたりすることは、ほとんどありません」

県外から旅行中の由美さんは、そうした事情を知らずに、”秘湯”だということで、立ち寄ろうとしたのではないかと推測される。大分県警担当記者は明かす。

「8月31日の午後6時15分ごろ、温泉の約4km手前のガソリンスタンドにある防犯カメラが、温泉方面に向かう由美さんの乗っていた車と同じ車種で、同色の軽自動車を撮影していました。この時期の大分市内の日没時間は午後6時半ごろ。もしその車が彼女のものであれば、到着時の現場はかなり薄暗くなっていたと思われます。

大分県警は別府署に130人態勢の捜査本部を設置して捜査を進めていますが、(前もって準備が必要な)ヒモなどで首を絞めておらず、遺体を雑に遺棄していることなどから、計画的ではない“流し”の犯行である可能性が高いと見ています」

対象の絞りにくい”流し”の犯行による捜査は難航し、情報提供を求めるビラが配られるなどしたが、捜査本部は11年8月31日に、別の女性に対する傷害罪などで公判中だった元暴力団組員・安藤健治(当時33)を死体遺棄容疑で逮捕した。同年9月23日には犯行を認めた彼を強盗殺人容疑で再逮捕し、大分地検は強盗殺人罪及び強制わいせつ致死罪で起訴している。

大分県大分市出身の安藤は、高校卒業後に地元の建設会社に就職。やがて暴力団組員になったが、犯行時は神奈川県川崎市に移り住み、建設会社に就職していた。そして10年6月から9月に会社を休職し、別府市の母親宅に滞在中、今回の犯行に及んだのだった。

その際に安藤は、当初から金品を奪う目的で、車で追い越して待ち伏せをした由美さんに声をかけたという。そこで無視をされたことから、彼女の首を絞め、鉄製工具で頭を殴って殺害。現金や携帯電話などを奪ったのである。

大分地検は「極めて悪質で、一生をかけて罪を償うべき」として無期懲役を求刑。12年3月14日に大分地裁は、求刑通り無期懲役の判決を下している。この判決に対し、検察側、弁護側ともに控訴はせず、同判決が確定した。

由美さんは温泉やドライブが趣味だった。長期休暇の一人旅で災厄に見舞われた
  • 取材・文小野一光

    1966年生まれ。福岡県北九州市出身。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーライターに。アフガン内戦や東日本大震災、さまざまな事件現場で取材を行う。主な著書に『新版 家族喰い 尼崎連続変死事件の真相』(文春文庫)、『全告白 後妻業の女: 「近畿連続青酸死事件」筧千佐子が語ったこと』(小学館)、『人殺しの論理 凶悪殺人犯へのインタビュー』 (幻冬舎新書)、『連続殺人犯』(文春文庫)ほか

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