アクセス不能、情報漏洩…高校生向け学習アプリにトラブル続出の怪
ずっとつながらない
画面にずらっと並ぶ「大幅に遅延」の文字。この画面は学校教育をサポートするインターネット上のシステム、「Classi」のサービス稼働状況を示したものだ。ポートフォリオ、学習記録、webテストなどの項目が軒並み「大幅に遅延」となっているのは、アクセスしようとしてもつながらない状態にあることを示している。
「Classi」とは、ソフトバンクとベネッセホールディングスが共同出資して作られた教育サービス。来年から実施される大学入試改革で、出願の際に学校が提出する「調査書」の活用が強化される方針を受けて開発された。部活や課外活動などの活動記録をデジタル化して残すポートフォリオ機能を備えるほか、家庭でも勉強できるための学習動画などを配信している。
サービスは有料で、契約内容にもよるが、生徒・保護者は年間4000円前後の利用料を払っているケースが多い。「Classi」のホームページを見ると、2019年5月時点で高校や中高一貫校の2校に1校、2500校以上が導入していると書いている。相当なシェアを握っていると言っていい。
オンラインを活用した「Classi」を使えば、新型コロナウイルスの影響で休校になっている状況でも、課題の受け渡しや、学校からの連絡がスムーズに行われる。いまこそその真価を発揮するチャンス……と思われていた。しかしいざ4月になってみると、生徒がサービス画面にアクセスしようとしてもつながらない。その状況はなんと5月中旬まで続いている。
毎日午前中には、Twitterに高校生たちの嘆きや怒りがツイートされている。
「ログインは出来るけど何回もやってんのに全然開けないんだが、おかしすぎる 課題提出遅れるじゃん!!」
「Classi、エラーしか発生しない」
接続エラーの画面には、「通信圏外であり、あるいは機内モードになっている可能性があります。ご確認ください。改善しない場合は、サーバーが混み合っている恐れがあります」と表示される。このような状況が毎日繰り返されていたのだ。
情報流出も
疑問に感じるのは、なぜ多くの高校で有料のサービスである「Classi」が使われているのか、ということだ。高校の教員が次のように解説する。
「3年前に、大学入試改革で調査書の活用強化が決まった際に、『これを使えば、全て解決します』といって売り込みが来ました。本来、活動記録を残すだけのシステムなら年間数百円で済むはずですが、学習動画のオプションも含めて標準のパッケージであるかのように説明されて、多くの学校が年間4000円前後のプランに入っているのです。
似たようなサービスは他にもありますが、なぜか『Classi』だけは学校単位での契約に。高校では模試や学力分析など、様々な場面でベネッセのサービスが浸透しているので、教員の側も麻痺していますが、よく考えれば学校で有料のサービスを使うのは不健全ですよね。しかも、休校の時に使えるかと思っていたらこの状態です」
「Classi」の問題点は、つながりにくいことだけではない。4月5日に外部の攻撃により不正アクセスが行われて、122万人分のIDとパスワードが暗号化された文字列、それに教員の公開用自己紹介文2031件が漏洩した可能性がある、と発表された。122万人は大規模な情報流出だ。先述の教員はこう呟く。
「一般入試で調査書を活用する大学は現時点ではわずかで、入試には意味がありません。改革は形骸化しています。新型コロナウイルスの影響で、調査書に書けることもほとんどないでしょう。この機会に調査書の活用強化という改革自体を見直すべきではないでしょうか」
大学入試改革に伴って参入した民間のサービスが、新型コロナウイルスで休校が続く大事な局面で高校生に迷惑をかける結果になっている。122万人分の情報流出も「不正アクセスによるもの」と説明しているだけだ。
文部科学省はこの事態を重く受け止めるべきではないだろうか。
- 取材・文:田中圭太郎
ノンフィクションライター
1973年4月生まれ。大分県出身。97年、早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年からフリーランスとして独立。雑誌・WEBなどで大学をめぐる問題、教育、社会問題、障害者雇用・バリアフリー 、パラリンピック、宇宙ビジネス、飲食ビジネス、医療、働き方、大相撲など幅広いジャンルで執筆。