コロナで米大統領選が激変!トランプが苦悶する「3つの大変化」

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高橋和夫氏〔国際政治学者、放送大学名誉教授〕インタビュー

新型コロナウイルスのパンデミックは、アメリカに「トランプ政権の混迷」「米中関係のさらなる悪化」「アメリカの格差や医療保険の見直し」という3つの大きなインパクトを与えた。こう分析するのは高橋和夫氏(国際政治学者、放送大学名誉教授)だ。

全米に拡大し、猛威を振るう新型コロナ。好調な経済をバックに、現職のトランプ大統領が優位とされていたアメリカ大統領選挙の情勢が大きく揺らいでいる。そして、民主党予備選を撤退したバーニー・サンダース上院議員が主張し続けてきた、格差解消や国民皆保険の導入への支持が高まりつつある。

新型コロナが激変させたアメリカ社会、そして11月の大統領選への影響について高橋和夫氏が語るーー。

コロナ対策がカギを握る大統領選

新型コロナウイルスのパンデミックは、アメリカ大統領選挙に3つの大きな変化を生み出した。「トランプ政権の混迷」、「米中関係のさらなる悪化」、そして「アメリカの格差や医療保険の見直し」である。

新型コロナウイルスの感染拡大によって、失業率が14.7%、失業者が4月だけで2050万人になるなど、アメリカ経済は大きな危機を迎えている。一般的に、危機を迎えれば政治リーダーの下に団結しようとする心理がみられる。実際、欧州やアジアの多数の国で、支持率が70%台や80%台になるなど大幅な上昇が見られた。しかし、トランプ大統領の支持率上昇は極めて短い期間で終わり、結局は40%台前後と低迷している。それはなぜか。

まずトランプ大統領は、新型コロナの対策が遅かった。それにより140万人以上の感染者と8万人以上の死者を出す惨状を招いたと批判されている(数字はいずれも5月14日現在)。

また、トランプは経済の停滞を懸念して、共和党の強い州に外出自粛をやめるよう呼びかけ、混乱を巻き起こした。危険性を指摘する感染症の専門家の声を無視する大統領に対して、これまで従ってきた共和党の内部からも不安の声が上がっている。「消毒液を注射」などという発言の影響もあり、このような大統領のもとで経済の停滞や失業者の激増という未曾有の事態を乗り切れるのかという懸念もある。

大統領選挙に関する各州の世論調査では、トランプ大統領は、軒並みバイデン前副大統領にリードを許している。

注目されるのは、民主党と共和党のどちらに触れるかわからない激戦州(スイングステート)である。2016年の大統領選挙では、トランプは全体の得票数ではヒラリー・クリントンに及ばなかったものの、これら激戦州で勝利して大統領になった。

ところが、現在では激戦州が本当に激戦になっている。バイデンに遅れをとっている州もある。バイデンが、ワシントンやニューヨークではなく、自らの出身地であるペンシルバニア州に選挙本部を置き、対策に力を入れていることも影響しているだろう。

一方のバイデンだが、必ずしも支持率は伸びてはいない。毎日の行動がすべてニュースになる現職のトランプとは違い、新型コロナの影響で大規模な集会が開けないバイデンには、できることが限られている。実際、インターネット戦略に習熟していないバイデンは、自宅の地下室にあるスタジオでつぶやいているだけと言う印象を持たれている。

さらに、11月3日の大統領選挙まではまだ半年近く残っていることや、全体で見るとリードしているとはいえ、その差はまだ決定的とは言い切れない。とはいえ、かつて圧倒的に有利、と考えられてきたトランプ陣営にとっては、ここまでの世論調査の結果は想定外かもしれない。

再選の切り札は「中国叩き」

新型コロナがもたらした2番目の変化は、トランプが再選するためには「中国叩き」しか手がなくなったことだ。

米トランプ大統領(左)は「中国の習近平国家首席と話をする気はない」と語り、コロナウイルスへの対応についてライバルの超大国と断交する可能性があると警告。  写真:AFP/アフロ

それ以前なら、トランプは経済の好調さで闘えた。しかし雇用が崩壊された現在ではそうはいかない。そこで、惨状を招いた責任は政権の対応ミスではなく、中国がウイルス発生に関する情報を隠していたからだと批判する。5月14日、トランプは中国との断交も示唆する発言をするまで踏み込んでいる。

それだけではない。その中国に甘い政策をとったオバマ政権を批判する。バイデン候補はそのオバマ政権の副大統領だったので、当然責任は前副大統領にもあるという「論理」で選挙戦を闘うだろう。

逆にバイデンは、トランプが中国との貿易交渉の妥結を急ぐ余り、コロナの問題を過小評価してきたと批判する。昨年11月にアメリカの諜報機関は、武漢で新型コロナが発生したとの情報をホワイトハウスに上げていた。しかしトランプは警告を無視して、現在の惨状を招いたとバイデン陣営は主張し、SNS上で流している。

そのような流れから、どちらの陣営も、中国を叩きながら相手を攻撃するという手法を取りそうだ。どちらが勝つにせよ、これからの米中関係はますます厳しい段階に入るだろう。

国民皆保険制度の重要性

3つ目の変化は、民主党の大統領予備選挙で撤退したサンダース上院議員が訴えてきた、格差解消や国民皆保険をめぐる主張が、説得力を増したことである。

米民主党指名争い バーニー・サンダース氏(右)が撤退表明(2020年4月8日)。 ジョー・バイデン氏が指名確実に。写真は第11回民主党2020大統領討論(CNNワシントンスタジオ)の前に、安全な肘で挨拶した二人(2020年3月15日)。写真:AFP/アフロ

アメリカの医療保険制度は、危機を前にして極めて脆弱だ。しかし、これまで就業中の労働者は、企業の医療保険に守られているため、必ずしも国民皆保険制度の必要性に賛同していたわけではなかった。ところが、新型コロナの影響で失業者が増え、企業の医療保険の保護を受けられない層が激増したことで、その必要性が受け入れられるようになった。

さらに格差問題も追い打ちをかけている。パンデミックを前に、たとえ富裕層だけが新型コロナの脅威から逃れたとしても、貧しい人々が感染している限り緊急事態は続く

特に黒人やヒスパニックなど、十分な医療を受けることのできないマイノリティの感染率や死亡率が非常に高くなっている。そのことが、貧しい人も含めて、すべての人々を医療保険でカバーする必要があるという主張に、強い説得力を与えている。この状況になって、さすがにアメリカでも新型コロナウィルスがらみの治療費無料化の動きが進んでいる。

サンダースは大統領選からは撤退したが、その影響力はむしろ増している。

サンダース支持者の票を取り込みたいバイデンは、サンダースの公約の一部を自らの政策に取り入れている。例えば、医療保険制度がサンダースの主張にすり寄ってきた。また所得の少ない家庭の学生に対して大学の学費を無償とすることなどのバイデンの新しい政策もサンダースの大学教育の無償化という提案を踏まえている。

大統領選のゆくえは、今後の新型コロナウイルスの感染状況と、その対策の成果が握っていることは間違いがない。広がり続けるアメリカの格差の問題を、新型コロナウイルスがあぶりだしている。

高橋和夫(たかはし・かずお)

高橋和夫 放送大学名誉教授(撮影:家老芳美)

北九州市出身、放送大学教養学部教授(中東研究、国際政治)。1974年、大阪外国語大学ペルシャ語科卒。1976年、米コロンビア大学大学院国際関係論修士課程修了。クウェート大学客員研究員などを経て、1985年から放送大学教員(現在は名誉教授)。2018年よりフリーに。著書に『イランVSトランプ』(ワニブックス)、『中東の政治』(放送大学教育振興会)など多数。2020年6月に最新刊『アメリカ大統領選と中東の運命〜バーニー・サンダースが遺した革命の萌芽〜』(ワニブックス)を出版予定。

  • 取材・文高橋真樹

    (たかはしまさき)ノンフィクションライター、放送大学非常勤講師。映画「おだやかな革命」アドバイザー。『ぼくの村は壁に囲まれた−パレスチナに生きる子どもたち』『そこが知りたい電力自由化』ほか著書多数。

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