ノムさんがチームの士気を見るときに必ず見た「意外なプレー」 | FRIDAYデジタル

ノムさんがチームの士気を見るときに必ず見た「意外なプレー」

  • Facebook シェアボタン
  • X(旧Twitter) シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン
2008年7月29日、ロッテ戦で降板した長谷部康平選手をベンチに立たせて戦況を見守る野村克也監督と橋上秀樹ヘッドコーチ(右)
2008年7月29日、ロッテ戦で降板した長谷部康平選手をベンチに立たせて戦況を見守る野村克也監督と橋上秀樹ヘッドコーチ(右)

24年間、プロ野球のチームを率いた野村克也さんが監督としてこだわり続けたもの―――。それは威厳だった。チームに注目を集め、球界を盛り上げるためにメディアの前では明朗な姿も見せたが、選手、コーチとは明確に一線を引き、最後までその姿勢を崩すことはなかった。

野村監督時代に選手、コーチとして計12年間仕え、巨人、西武では作戦コーチとしてチームの優勝に貢献、5月18日に出版される「常勝チームを作る最強ミーティング」(カンゼン)を書いた橋上秀樹氏によると、監督の威厳がなくなると選手がしなくなる「あること」に常に厳しい目を向けていた。

選手だけでなく、コーチ陣とも距離をとった

ヤクルト監督時代はキャンプ中にコミカルなダンスを踊ったり、歌を披露するなどして、メディア、ファンを楽しませてくれた野村さんだが、選手にはそうした一面を見せることはなかった。当時、選手だった橋上氏が振り返る。

「メディアの方々にはふざけたポーズを取ったりもしていましたが、選手の前では監督・野村克也を崩すことはまずありませんでした。私は楽天で野村さんのもと、ヘッドコーチなどをやらせてもらったので選手のときには聞けなかった、わからなかった真意や本音に触れる機会に恵まれましたが、薫陶を受けた選手でも本当の野村克也がわからないままで終わっている人も多いはずです。

野村さんはあえて理解させないような距離感を保っていた部分がありましたから。教え子が解説者として球場に訪れた際も、懐かしがることはあっても、接し方は変わりませんでしたね」

実際、野村さんの指揮下で活躍した、あるピッチャーも「ユニフォームを脱いでからも野村さんと会うときは緊張する」と話していたことがあった。尊敬の念などもあるだろうが、おいそれと近づける存在ではなかったようだ。

「実像は情に厚くて、人間味がある。私なんかはそれを出してもいいんじゃないかなと思っていましたが、知られることによって監督としての威厳を保てなくなると考えたんじゃないですかね。本来の陽気さを抑えて選手たちと接していた分、その発散としてメディアへのああいう姿になったところもあるんじゃないかなと思います」(橋上氏)

そうした関係性はコーチに対しても同様だった。たとえば遠征時は試合後、ホテルで食事をするのだが、楽天監督時代は野村さんが座る6人掛けの円卓には、橋上氏、監督付き広報、広報兼マネジャー、チームマネジャー、帯同していれば球団代表。それ以外の人には座らせなかったという。

「夜の食事のテーブルでは、その日の試合のことなど、いろいろな話になるんですが、野村さんからは『おまえ以外のコーチは入れるな』と釘を刺されていました。まわりからは『うらやましい』と思われていましたが、夜11時くらいから2、3時間やる。そのうち、『大変だな』に変わっていきました(笑)。

また、(当時、楽天の)ピッチングコーチの紀藤真琴が私に『監督と野球の話がしたいんだけど』と相談してきたことがあったのですが、それを野村さんに伝えると『ピッチャーのことに関しても全部、ヘッドのおまえに言う。おまえからコーチに言ってくれ。選手も含めて、俺からの話の窓口はおまえ1つにするから』とも言われました」

みずからの”素”を見せたがらなかったワケ

コーチ陣とも驚くほど距離を置き、必要以上のやりとり、みずからの“素”を見せることを避けた野村さん。それほどまでして威厳に固執した理由とは、なんだったのか。橋上氏が野村さんからなにげなく問いかけられた場面を回想する。

「私がヤクルトの選手時代、監督の野村さんは選手に全力疾走の徹底をよく指導されていたんです。どこのチームでもよく言うことで、当時はそのことについて深く考えることはありませんでしたが、楽天のヘッドコーチのとき『橋上、俺はおまえが選手だったときから全力疾走の話をしていたよな。全力疾走しないやつは、なんでしないと思う』と聞かれたんです。よくわからず、『選手のモチベーションとかですかね』と返すと『違うんだ。監督の威厳なんだよ』とおっしゃったんです」

監督の威厳が保たれているうちは誰でも全力疾走をする。怠る選手が出てきたときは、監督の威厳が薄れてきた証なのだと説いたという。

「それ以来、相手チームも含めて選手を見るようになったんですが、たしかに監督の威厳が保たれていないチームほど全力疾走をしない選手が多いんです。そして、そうなったら部下のコーチが選手になにを言ってもダメ。トップが威厳を回復するための策を講じない限り、修正することはできないんです。

野村さんがそのこともよくおっしゃっていましたが、野村さんが監督として率いたチームの選手が緩むことはありませんでした。ほかにも挨拶のしかた、普段の練習で監督のいる場所や視線を気にしているかどうかなどもバロメーターにされていた。選手の緩みはすべて監督次第。そのことを学ばせていただきました」(橋上氏)

組織はリーダーの威厳によって保たれる。野球に限った話ではないだろう。

  • 写真時事通信

FRIDAYの最新情報をGET!

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事