50代で”踏み迷う”本木雅弘の心に響いた「樹木希林さんの金言」

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‘18年に亡くなった義母・樹木希林さんを見送る本木雅弘

5月10日に放送された大河ドラマ『麒麟がくる』第17話。「長良川の対決」から一週間がたった今も、本木雅弘演じる狂気に満ち溢れた斎藤道三の姿が頭から離れない。

勿論、本木演じる道三は、称賛に値する。しかし、道三の最後。家督を譲った息子・高政との一騎討ちの場面に、違和感を覚えたのは私だけだろうか。

「『我が子、高政、愚か者。勝ったのは道三じゃ』と呟き力尽きる道三の姿に、『もしかすると最初で最後の、父と子の抱擁に見えたかもしれません』と本木自身もツイッターで呟いているが、”親子の情”の邂逅を挟むほど、戦国時代の親子関係は甘くはない。そこに違和感を覚える人がいたようです(制作会社プロデューサー)

少し話を振り返ってみたい。第15話で頭を丸め道三となった本木は、家督を譲った長男・高政(伊藤英明)に次男・三男を謀殺され、顔に隈取のような鮮血を塗り「家督を譲った褒美がこれか」と烈火の如く怒り狂う。それは高政への呪い、そして息子を甘く見た自分自身への憤り。その感情を押し殺すのは、並大抵ではない。

「しかも一介の油売りから成り上がり、美濃一国の国盗りを果たした”油売り成り上がり説”が新たな資料の発見により覆され、油売りとして美濃に流れてきた父の志を継いだ二代目道三が美濃を手に入れたとする説が主流になった今、父の思いを胸に一国を手にした二代目道三の無念さは察して余りある。それなのになぜ、あのような最後が生まれたのか。疑問を投げかける声が上がるのも無理からぬことです」(前出・制作会社プロデューサー)

そもそも”蝮”と恐れられ、戦国の梟雄と呼ばれる道三と純粋で真っ直ぐな印象のある本木雅弘とは、真反対のタイプ。なぜNHKは本木をキャスティングしたのか。

同時に22年前の大河ドラマ『徳川慶喜」』で主役の慶喜役を演じた本木が、ミスマッチとも思える道三役をなぜ引き受けたのか。この件について、本木自身は3月28日に放送された『プロフェショナル 仕事の流儀』(NHK)の中で、意外な言葉を口にしている。

「番組の中で本木は、この仕事を引き受けた理由について『長い間、役者として踏み迷っている感覚が抜けない。半年間にも及ぶ密着ドキュメンタリーを引き受けたのは、あえて嫌なことをすれば、化学反応が起きて新しい気付きがあるかもしれない。次に進む真実が見つかるかもしれない』とした上で、道三を引き受けた理由についても『自分とは正反対な悪役を演じることで新境地を開こうとした』と断言しています」(テレビ局関係者)

50代に入った本木は、役者として踏み迷い、明らかに変化を求めていた。そうした理由から、本木は自分と正反対の”悪役=蝮の道三”を引き受けたのか。

しかし、”踏み迷う”のは、俳優・本木雅弘の生来の姿ではないかとする意見もある。

「義理の母で女優の樹木希林さんは生前、『自分には愛がない。だから自分も愛せない』と頭を抱える本木に『もっと、楽に生きたら? 自分が疲れない?』とアドバイスを送り、演技に苦悩する本木のことを『悩んでいることが好きなのよ』と揶揄しています。

そんな本木が興味を持ったのが、亡き人を棺に納めその魂を見送る納棺師という仕事。絶対にヒットしないという周りの反対を押し切って映画化した『おくりびと』(‘08年)は、アカデミー賞外国映画賞を受賞。この映画で主役を演じた本木は『私にしては珍しく人間に愛情があったんじゃないか』と手応えを感じています」(ワイドショー関係者)

「不惑」という言葉もあるが、50歳にしてなお”踏み迷う”本木雅弘の姿は目指すべき理想が高く、自分の可能性を探し続けるまるで行者のようですらある。しかし”踏み迷う”行者・本木には、”天の声”ともいうべき声なき声を聴く。

「『プロフェショナル 仕事の流儀』の中で本木は、亡くなった希林さんの部屋を整理していた折、残された雑記帳に『美によって神に到達するこの道がもっとも優しく望ましい。虚飾なく、それでいて心を動かす何か一芸を見せるんではなく、心を込めて自分を出すんではなく、無念な魂を鎮めていただけるよう演じる』という言葉を見つけ、心を奪われたと告白。

この言葉と出会い『演じる時は”踏み迷う”自我を脇に置き、素直に祈る気持ちで演じるべきじゃないの』と希林さんに諭されているような気持ちになったとしても、おかしくはありません」(放送作家)

親子で美濃一国を争い、息子に殺された道三。しかも「大きな国」を目指すビジョンを託せるのは、我が息子ではなく織田信長や明智光秀であることの無念さなど抱える道三の魂を鎮めるように演じた。そう解釈するのであれば、まるで親子が抱き合うかと見間違うような本木道三のラストシーンにも納得がゆく。

演じることこそ、鎮魂。亡き樹木希林さんの辿り着いた境地を知ってしまった本木雅弘。その境地に近づくことこそ、義理の息子であり選ばれし者の定めなのかもしれない。

  • 島右近(放送作家・映像プロデューサー)

    バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ケ原で死んでいた』(竹書房新書)を上梓

  • PHOTO蓮尾真司

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