教育のデジタル化に自治体差!熊本の対応が早かった意外すぎる理由 | FRIDAYデジタル

教育のデジタル化に自治体差!熊本の対応が早かった意外すぎる理由

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新型コロナの影響を受けて教育現場のICT化を望む声が多いが、現場ではそう簡単にはいかないようだ…/写真 アフロ
新型コロナの影響を受けて教育現場のICT化を望む声が多いが、現場ではそう簡単にはいかないようだ…/写真 アフロ

ICT化の設備が揃う前に休校が終わりそう…

緊急事態宣言が全面解除となり、徐々に首都圏の学校でも授業が再開される見込みだが、通常通りとなるまでにはまだ少し時間がかかりそうだ。

公共交通機関を使って登校する生徒の多い私立の小学校や中高一貫校などでは早々と6月からの分散登校を決めているところもある。公立小学校もしばらくは分散登校との方針を出したところもあり、子どもたちの日常が完全に戻るまでには至っていない。

そんな中、大人のリモートワークが進んだように急速に広がりを見せているのがネットを介して行う遠隔学習だ。なかにはPTAや有志の保護者らが署名やアンケートを集め、「オンライン化してほしい」と学校にお願いするケースも現れていた。

中野区在住で小学5年生の息子と中学1年生の娘を持つ父親はGW前、有志の保護者と共に学校に授業動画を作ってほしいとお願いに行った。

「隣の学校がすでにやっていると聞いて、うちでもやってほしいと思いました。校長先生がやる気になってくれたのが良かったと思います」

この学校ではGW開けから10分程度の学習動画が配信されるようになったと言う。

だが、未だ手つかずの地域もある。都内在住で4年生の息子を持つ母親によれば、最近では今年度もらった教科書を読んで問題を解く課題も出始めた。細かい時間割が出るようになったものの、その分新しい単元が増えたため「誰が教えるの?」という感じだと話す。

「学習前の単元だから、〝読んでもわかんな~い〟って、子どもにすぐに声をかけられます。在宅勤務は勤務ですから、仕事中なわけで、これって昼間に見てくれる人がいることが前提ですよね。なんとかしてほしいです」

完全休校の解除は何よりも嬉しいが、分散での短時間登校が続く場合、こうした親への負担があとどれくらい続くのか、不安は拭えない様子だ。また、コロナ第1波が収まったとしても、2波がくるとの予測もある。

ある教育関係者は「今年はどれだけ通常通りの学校運営ができるか、本当に分からない。なんとか子どもたちの学びを継続してやりたいとは思うのだけれど」と苦しい状況を話してくれた。都は急ピッチで教育のICT化に動こうとしているのだが、質の確保を考えた場合、事はそう簡単ではないようだ。

熊本市がいち早くICT化できたワケ

コロナ禍で公立小での双方向型のやりとりをいち早くはじめたことで注目される熊本市もここまでくるのに2年の時間をかけていた。震災前の熊本市は教育のICT化にはそれほど力を入れていたわけではない。改革が進むまでの整備状況は政令都市20市の中で19番目という遅さだったのだ。

これを打開しようと声を上げたのは熊本市長の大西一史氏。震災後の復興の際、子どもたちこそ熊本の未来だと語り、非常時にも学びを止めないことを念頭にトップダウンで教育ICT化を一気に進めていったのだ。ある学校関係者は「あのトップダウンがなかったら、ここまでスピーディーに進まなかったと思う」と話す。

昨年度までに市内全小学校に在校児童の3分の1が手にできる数のiPadを設置、3年生以上を対象に授業支援アプリ「ロイロノート」を使った授業をはじめ、修学旅行などでも活用を進めてきた。コロナの休校下にあってもここでの経験、知識をベースに学校側が素早く対応、Zoomなどを通した双方向でのやり取りが実施されたのだ。

熊本市でICT教育の推進を担っているのが熊本市教育センター。同センター教育情報室室長の本田裕紀氏は学校ICT化についてインスタントにできるものではないと指摘する。

「iPadなど機器の整備に加え、学内インターネット環境の整備などハード面の取り組みはもちろん、それを使って教える教員側の機器を使っての授業スキルの向上、生徒への指導なども必要なため、すぐにできるものでもない」と言う。

なかでも教員側の知識は欠かせない。動画を作るにしても、何を見せるか、どう語り掛けるか、どのくらいの時間が適切かなど、授業を組み立てる上では綿密な計画が必要だ。これがなければただ情報を垂れ流すだけで終わってしまうからだ。

ポイントは「教師のスキル向上」と「セルラーモデル」

同市の場合、まずは何のために機器を使うのかの理解を図る管理職研修を始め、各学校に推進チームを発足し導入のための研修を進めてきた。教育委員会だけでなく、地元大学や産業界の力も借り、産学官連携の事業として進めてきた経緯がある。

「コロナの休校にあたり敏速に動けたのには昨年度までにすべての小学校の先生に対する研修が終わっていたことも大きく関係しています」(本田氏)

休校後には保護者に向けてネット環境についてのアンケートを素早く実施、環境のない家庭には無料で機器を貸し出すことで平等な教育機会の確保を行った。

「熊本市の場合、端末をセルラーモデルで整備していました。ルーターの貸し出しの必要がなかったこともよかった。ネット環境がないと双方向はできませんから、セルラーモデルにしていたことは大きいと思います」(本田氏)

都内では熊本市と同じくタブレット端末を使った学びをはじめていた渋谷区でネットを介した学びについての検討がはじまっている。同区教育委員会によれば、まずは校長会など、内部の会議で双方向オンライン型のやり取りを試みる予定だと言う。

果たして、都内の小学校で熊本市なみのオンラインでの学びが始まる日はくるのか。地域による学習格差が生まれる中、街で飽和状態になり出した頃に届いたマスクのように、手遅れにならないことを祈るばかりだ。

  • 取材・文宮本さおり

    地方紙記者、専業主婦を経てフリーランスの記者・ライターに。教育や女性の働き方、子育てなどをテーマに取材・執筆活動を行っている。2019年、親子のための中等教育研究所を設立。

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