100年前の「スペイン風邪対策本」ポスターが伝える痛烈な教訓
集会禁止、咳のエチケット、手作りマスク、転売の監視…現代にも通じる予防策
〈恐るべし「ハヤリカゼ」の「バイキン」!〉
〈マスクをかけぬ命知らず!〉
〈手当が早ければ直ぐ治る〉
〈「テバナシ」に「セキ」をされては堪らない〉
まるで新型コロナウイルスへの注意を呼び掛けるような文言が並んでいるが、これらは約100年前に作られたポスターだ。
1918~1920年、年号でいえば大正7~9年頃、「スペイン風邪」と呼ばれたインフルエンザの世界的パンデミックが発生。諸説あるが、全世界での死者数は5000万人以上にも上ったとされる。感染症に詳しい長崎大学熱帯医学研究所の山本太郎教授が語る。
「人口約5500万人だった当時の日本でも、約39万人が亡くなりました。有名評論家の島村抱月が亡くなったり、与謝野晶子が感染して政府を批判したり、大変な混乱が起きたとされます。スペイン風邪は毒性にも変化があり、第一波の致死率は1.2%程度でしたが、その後の第二波は5.3%程度まで上がった。おそらく、毒性は新型コロナウイルスよりも強かったと思います」
そんな国家の危機を乗り切った1922年、当時の内務省は感染状況や予防策をまとめた報告書『流行性感冒』を作成している。感冒とは風邪のことで、要するに「スペイン風邪対策本」だ。
この報告書には、本編で掲載したポスターのほか、さまざまな対策が書かれている。たとえば、「親と子でも距離を取る」といった注意もある。「『談話の時は4尺(1.2m)』『咳の時は10尺(3m)』(菌が)飛ぶから注意しろ」といった文言は、現在呼びかけられている「ソーシャルディスタンシング」そのものだ。
当時もマスクは品薄になっていたようだ。ただ、対策はいまより厳格で、報告書には「マスクの品薄によって暴利を得る商人が出ぬように警察に取り締まりを依頼」と書かれている。
さらには、マスクの作り方まで載っている。ガーゼの種類やガーゼを重ねる方法なども記され、煮沸、洗濯等で清潔に保つよう指導している。何十億円もかけておきながら、不良品が多数報告されている「アベノマスク」のことを考えると、100年前と現在、どちらが進んでいるのかわからなくなりそうだ。
さすがに「ロックダウン」という言葉は使われていないが、「3密」に関する注意もある。「多数の集合・集会の禁止」とはっきり書いてあり、劇場や寄席などは閉鎖。学校・幼稚園も感染者が出た場合には休校を命じている。
前出・山本教授が言う。
「最終的に、日本国民の半数近くがスペイン風邪には感染している。しかし、何も対策をしていなければ、もっと悪化していたかもしれません。スペイン風邪における感染症対策は、現代にも通じる普遍的なものが多くあります」
100年前だからと、侮るなかれ。今でも学ぶべき教訓はあるのだ。
『FRIDAY』2020年6月5日号より
写真(5枚目):Getty Images