黒川検事長 コロナ禍の「賭け麻雀」報道で陰謀説が飛び出す背景
またまたとんでもないタイミングで“文春砲”が炸裂した。
今、一番“時の人”であると言ってもいい人物のスキャンダル発覚に、驚嘆の声を上げた人は多いだろう。外出自粛が叫ばれている中、黒川弘務・東京高検検事長が新聞記者たちと賭けマージャンに興じていたというから驚かずにはいられない。
黒川検事長は訓告処分を受け、現職を辞した。金額が少ないとはいえ法曹界に身を置く人間が違法行為を行っていたことに対する処罰が訓告だけ、また懲戒免職ではなく辞職ということに納得がいかない人は多いだろう。
『週刊文春』(5月28日号)が報じたスクープ(https://bunshun.jp/articles/-/37926)に対する世間の反応はやはり大きく、ネット上でも様々な意見が飛び交っているが、その中でも目を引くのがこのスクープが何らかの意図をもって作られたのではないかという“陰謀説”だ。
「記事中にも産経新聞の関係者のコメントがありますが、情報は産経新聞関係者から寄せられたのではないかと言われているようです。黒川検事長と同席していた産経新聞記者の同僚によるリークだという話が、業界でも流れていました」(スポーツ紙関係者)
との話があるが、たしかに腑に落ちない点もいくつかあり、その背景を推測したくなる気持ちもわかる。それで“リークではないのでは?”という疑念が生じることになったのだろう。
まず、よく目にするのは、「実は黒川氏本人は一刻も早く辞めたかったのに、それができないから自ら情報を流した」というもの。
5月10日、元文科省事務次官の前川喜平氏がツイッターで、
《黒川氏が普通の常識人なら、これだけ批判を浴びれば自ら身を引くはずだ。辞めるに辞められぬ事情があるのではないか》
とツイート。同氏は19日にも、
《黒川氏はやはり何かを官邸に握られているのだろう。それが辞められない理由なのではないだろうか?》
と。そして、20日には、
《僕の穿ったみかた:黒川氏は辞めたかった。しかし官邸との関係で辞められない事情があった。彼は辞める理由が欲しかった。だから自分の賭け麻雀を産経の記者にリークさせた(…考え過ぎか?)》
と連日、ツイートしていた。
なるほどとも思えるが、この本人リーク説の前提となっているのが、前川氏のツイッターにあるように、《あれだけ世間の非難を浴びたら、普通なら「もういいです」と言って辞めるだろう》という、黒川氏はさほどメンタルが強くない人間と見たことだ。
また『文春』の記事中にもあったが、《コロナ禍の最中に“次期検事総長”がマージャンに興じるなど、あり得るだろうか》という一般的に感じる疑問だ。
彼は渦中の人になってから、何度となく週刊誌に写真を撮られている。常に自分はマスコミに張られていると用心深くなるはずだ。賭け麻雀がバレたら、悪くすれば懲戒免職となり、数千万円と言われる退職金もパーになるからだ。
次に、官邸が意図的に黒川氏を外しにかかったとする説。
安倍官邸の“守護神”と言われている黒川氏だが、多くの国民の反対にあい検察庁法の改正案を通すことが難しくなった今、彼を検事長に留めておく必要がなくなったからだというもの。さらに、
「ガス抜きの意味もあるのでは。検察庁法改正案に反対する声があまりにも大きく、法案可決は延期となりましたが、同法案と黒川氏はセットと見られていました。黒川氏を退任させることで、法案は彼とは関係がないと見せ、世論を沈静化させようと考えたのかもしれません。
また、安倍政権に反抗的と言われている現検事総長の稲田伸夫氏に黒川不祥事の監督責任を取らせて、辞任に追い込む腹なのでは…と見る向きもあります」(全国紙政治部記者)
だとすれば、国民を舐めた話だが、黒川氏がいなくなっても第2、第3の“黒川”が登場することは十分考えられる。現に新たな“守護神”の名前が囁かれ始めている。さらにこんな説も……。
「論点のすり替えですね。用済みとなった黒川氏を利用して、“検察とマスコミの癒着”という問題をほじくり出し、世論をそっちに誘導しようとしたのではという話もでています。実際に検察と記者の癒着を問題視する声も出てきて、ニュース番組でマスコミ批判するコメンテーターがいましたね。呆れた話です」(週刊誌記者)
こう聞くと、どれもあり得そうな話だ。実際のところは上記のように義憤に駆られた産経新聞記者がリークした、というのが正解ではないかと思うが、そうなれば黒川氏は危機管理能力もない、何も考えていない底抜けの「ギャンブル狂」だったことになる。
いずれにせよ『文春』の取材力によるものであることは論を俟たないが、記事では黒川氏がハイヤーの中で《このあいだ韓国に行って女を買ったんだけどさ》と話していたことも報じている。巷で見かけるしょうもないオッサンと同じだ。結局、こんな人物を検事長に据えておくわけにはいかないだろう。
一時的にせよ、『文春砲』が安倍政権の暴挙を食い止めた。しかし政権は次なる手をあれこれ考えているだろう。監視の目を緩めてはいけない――。
取材・文:佐々木博之(芸能ジャーナリスト)
宮城県仙台市出身。31歳の時にFRIDAYの取材記者になる。FRIDAY時代には数々のスクープを報じ、その後も週刊誌を中心に活躍。現在はコメンテーターとしてもテレビやラジオに出演中
PHOTO:田中 俊勝