コロナ禍で大変身!唯一の生クイズ番組となった『東大王』の功績

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低予算ながら50万人が参加する「高コスパ番組」に

『東大王』のウェブサイトより

「コロナ禍の前後で最も変わった番組」と言えば、『東大王』(TBS系)で間違いないだろう。

3月いっぱいで大将だった水上颯が卒業し、新大将・鶴崎修功のデビュー戦となった4月8日は、従来の内容で3時間スペシャルを放送。しかし、TBSが他局に先がけてバラエティ番組の収録中止を発表したことで、15日は「クイズ界2大スター伊沢&水上!宿命のライバル!二人の死闘の軌跡」、29日は「才色兼備!鈴木光 名場面で振り返る成長STORY」という特別編(総集編)の放送を余儀なくされてしまった。

先行きが危ぶまれる中、日本テレビを筆頭に他局のバラエティがリモート撮影を採り入れはじめたことを受けて、『東大王』も大変身。5月6日に「東大王がリモート出演し、生放送でクイズに挑戦」「視聴者も参加できてプレゼントが当たる」という新コンセプトの2時間スペシャルを放送すると、13日、20日も同じ形式で放送された。

これによって『東大王』は「唯一無二の生放送クイズ番組になった」とともに出演者も激変。スタジオを埋めていた芸能人たちが消えて、クイズ解答者は東大王の6~7人のみになった。

凄いのはMC以外タレント不在の低予算・高コスパ番組になったにも関わらず、Twitterのトレンドランキングで「#東大王」が日本1位・世界4位を記録し、クイズには約50万人がライブ参加していたこと。ネット上には好意的なコメントがあふれ、一定の視聴率を獲得できていることも含めて、ここまでは見事な結果が出ている。

まるで別番組のような現在の放送内容は、どこが支持されているのか? 業界に与える影響はあるのか? などを掘り下げていきたい。

生放送の臨場感と定点カメラの楽しさ

支持を集めている最大の理由は、“生放送の臨場感”にほかならない。生放送になったことで視聴者は、「東大王と同日同時刻に同じクイズを楽しむ」という実感が得られるようになった。実際、ネット上には「(鈴木)光ちゃんに勝った!」「やっぱりジャスコ(林輝幸)は強いな」などのコメントが飛び交うなど、視聴者が東大王と対戦しているようなムードを醸し出す演出が効いている。

また、東大王たちが正解に満面の笑みを見せ、不正解に落ち込む様子を全員同時に見られるのも生放送の醍醐味。定点カメラのリモート出演だからこそ見られる姿であるとともに、「部屋をのぞき見できる」「最下位になった人の私物がもらえる」という自宅出演のメリットが最大限に生かされている。結果的に東大王のパーソナリティを引き出し、彼らの人気を高めていることが何よりの成果だろう。

さらに「ネット回線が止まる」などのトラブルをそのまま見せる正直さは、好感と信頼に直結。テレビ番組の誘導的・恣意的な編集に不信感を抱く人が少なくない中、いい意味で編集のできない生放送なら、そんな懸念を払拭できる。

いずれも収録放送では得られないメリットであり、それをタレントではなく一般人の東大王たちだけで成立させていることに、他局のテレビマンたちは驚いているはずだ。

とは言え、もともとクイズと生放送の相性はよく、SNSとの親和性が高いことは、テレビマンたちにとって周知の事実。リスクを恐れて避けてきただけの話であり、コロナ禍のピンチに思い切ってトライした『東大王』のスタッフがまぶしく見えるのではないか。

思考回路を解説する“らしさ”はキープ

「東大王」たちが通う東京大学の赤門/写真 アフロ

制作サイドは生放送にしただけでなく、クイズの内容も大幅に変えている。

その内容は、「大ヒット曲の歌詞穴埋めクイズ」「正しい日本語クイズ」「ニュース映像満載の5年史クイズ」「意外に答えられない雑学クイズ」「知識不要・発想力勝負のひらめきクイズ」と老若男女に対応したものに大幅リニューアル。コロナ禍以前のような超難問ばかりでは視聴者の参加モチベーションが上がりにくいだけに賢明な判断に見える。

もう1つ挙げておきたいのは、生放送という時間の余裕がない中でも、「問題の解き方を解説する」「知識の身につけ方を明かしている」こと。クイズに限らず学問の最高峰にいる彼らの思考回路を知り、学びを得られるという『東大王』らしさは生放送になっても失われていない。

意外かもしれないが、『東大王』を支えている視聴者層は同年代だけではなく、むしろ中高年層のファンが目立つ。礼儀正しい優等生タイプの彼らは、理想の息子や娘、あるいは孫のような存在であり、温かい目で見て応援しているようなのだ。

また、中高年層は1970~1980年代からクイズ番組に親しんできた過去があるだけに、どんなジャンルのクイズでも難なく正答を重ねる東大王へのリスペクトもあるのだろう。

もちろんクイズの参加者には、ファミリー層やクイズフリークも多く、8~10%程度の世帯視聴率以上にコアなファンが多い番組とも言える。

自前で「番組発スター」を育てた功績

「IQ165の天才・鶴崎修功」「スタンフォードが認めた才媛・鈴木光」「文学部の叡智・林輝幸」「ミスター東大ファイナリスト・砂川信哉」というキャラクターの色分けはTBSバラエティの得意とするところであり、視聴者にとってはわかりやすく、覚えやすい。

「元東大王 令和!最強のクイズ王・伊沢拓司」「東大王候補生・紀野紗良、岡本沙紀、伊藤七海」も含めて、すでに彼らはタレントと同等レベルの知名度を得ている。

つまりTBSにとっては、「ほぼ自前で番組発のスターを育てた」ということ。『東大王』は2017年4月のスタート時は日曜19時台の放送だったが視聴率・評判ともに上がらず、2018年10月に現在の水曜19時台に移動した。辛抱強く番組と彼らを育て、「どのバラエティも同じタレントばかり」と言われがちな風潮に風穴を開けた功績は大きい。

コロナ禍が落ち着いたとき、「現在の生放送を続けるのか」「芸能人を呼ばずに東大王と視聴者参加だけで勝負するのか」は分からないが、少なくとも『東大王』は現時点で業界内にいくつかの気づきを与えている。それだけに『東大王』と同じように、コロナ禍をきっかけに思い切ったリニューアルを仕掛ける番組が現れるかもしれない。

  • 木村隆志

    コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。ウェブを中心に月20本強のコラムを提供し、年間約1億PVを記録するほか、『週刊フジテレビ批評』などの番組にも出演。取材歴2000人超の著名人専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、地上波全国ネットのドラマは全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。

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