高田純次が70歳過ぎたいま、歴史小説にハマる理由 | FRIDAYデジタル

高田純次が70歳過ぎたいま、歴史小説にハマる理由

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歴史上のヒーローより魅かれるもの

『テキトー男』の看板でひたすら突っ走ってきた高田純次が、芸能界きっての「読書家」であることを知る人は少ない。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、列島全体が「巣ごもり」をした2カ月余で、30冊以上を読破した。70歳を超えたあたりから歴史小説にハマっているという。

「浅田次郎さん、藤沢周平さんなど単行本を10冊、文庫本20冊ぐらいかな。本を読むとね、ほらっ、難しい漢字はこう読むんだと気づいたり、覚えたりするでしょ?だからね、たくさん読めばきっとクイズ番組の出演オファーがたくさんくる‼思っちゃったんだなぁ(笑)これが。ほんとだよ、この話!」

開口一番、得意の笑いから入る。高田流の照れ隠しだ。新型コロナによる自粛期間中に、自宅での「断捨離」がはやったが、高田もそのひとりだった。

「文庫本で700冊、単行本で300冊を中古本屋さんに引き取ってもらったんですよ」

73歳でトータル1000冊の蔵書。現在のようにタレントとして1本立ちする前に劇団にいたとき、本や映画の内容を元にした即興劇が多く、おのずと本を手にする機会は多かった。ただ歴史小説にハマったのはここ数年のことだという。

「3年、いや4年くらい前だったかなぁ、偶然入った本屋さんで出会った本があってね。それが佐伯泰英さんの『居眠り磐音』でした。これが、まぁ面白くて、面白くて。50巻ぐらいかな、3年ぐらいかけて一気に読んじゃいました。まず主人公が殺されない、それを生かしていろんな話をもってくる、剣術も強くてね。歴史小説の剣客の話って、次男の設定が多いんだよ。僕も純次で次男だから(笑)昔から仇討ちもの、復讐ものっていうのは、われわれ庶民からするとスカッとするもん」

佐伯泰英だけでなく、歯科医と作家の〝二刀流〟の上田秀人、辻堂魁、司馬遼太郎、池波正太郎なども読み漁る。百田尚樹の「影法師」にいたっては「126頁から泣けます。究極の友情のお話ね」とページ数まで覚えている。

お気に入りの作家の新作を新聞広告でみつけて書店に走り、読みまくるのがルーティーンだ。でも、歴史上に名を残した誰もが知るヒーローにはあまり興味がわかない。

「(織田)信長、(豊臣)秀吉、(徳川)家康みたいにどんどん出世していくストーリーは、それはそれで面白いんだろうけどさ。たとえば今年の大河ドラマの主人公にもなっている明智光秀や忠臣蔵の吉良上野介も『いい人だった』いう説もあるじゃない? 悪役じゃなきゃいけないという背景があった気がしちゃうんだよね。日常生活に置き換えても、たとえいいことをしたとしても、人には伝わりづらいってことあるじゃない」

高田がおのずと手が伸びるのは、いつの時代にもあった、ごく普通のありふれた光景。ストーリーが展開していく中で必ず人生の機微にぶつかる。その瞬間、心が打たれるという。

「悲しい話になると引き込まれる」

定着しているイメージからは考えられない言葉だった。しかしその理由をきくとうなずける。

「佐伯さんの剣客ものは、ただ裏切られて、切って、張って、捨てるっていうのだけではなく、ストーリーの中に必ず人情をみせてくれるから。人間って昇り詰めていく時ではなく、落ちていくところにこそ、いろんな機微があるものでしょ? 人生が落ちていくの中で、どこから、どうあがっていくか、そこに期待感があるんだよね。『居眠り磐音』の主人公、坂崎磐音の人生が落ちていく中で、周りにいる人たちによって磐音が上昇していくように導いてくるストーリー、これがたまらないのよ。浪人が出世していく話なんか、当時は絶対にありえなかったかもしれない。でも小説だから書けるお話なのかもしれない」

『居眠り磐音』の主人公、坂崎磐音は藩内騒動で許嫁を残して脱藩、浪人となる。長屋暮らしをはじめた江戸で、剣術を教えながら、うなぎ屋、両替屋や用心棒として働いていた。やがて幕府が流通させた新貨幣をめぐる陰謀に巻き込まれた磐音に、周囲の人が復讐を思いとどまらせたり、仕事を紹介したりして磐音の人生が開けていくように導いている。

「いつかは普通に戻りたい」といつも思っている

高田がハマったのは、小説の中に書かれている世界と、自分が歩んできた人生が重なるからに違いない。大学受験は2年にわたってすべて不合格。東京デザイナー学院にすすみ、宝石商の道を選んだ。

しばらくサラリーマン生活を送っていたが、その後、若い頃に夢中になった劇団に「胸がくーっと熱くなっちゃって」、脱サラして劇団・東京乾電池に入った。当時30歳。生まれたばかりの子供を抱いた妻からは罵声を浴びた。

「家族は食わせていく、って説得したから、公演と稽古の合間にテレビの大道具の仕事もしてました。こうやって釘を口にくわえながらさ。給料もよくて、ご飯も出たから助かったなぁ。工事現場で〝生き埋め〟になった経験もあるんだよ。僕の人生はずーっと負の遺産みたいなもんばっかりでしたからねぇ~。それでもね、『いつかは普通に戻りたい』といつも思っていたんだよ」

昨年10月に5年目に突入した「じゅん散歩」(テレビ朝日)に加え、バラエティーや、司会に芝居、時には下ネタをおりまぜるトークで「テキトー男」というキャラを確立させた。途中、高田の担当コーナーがあまりウケず、番組から外される危機もあったが、その都度、視聴率や担当プロデューサーに救われながら、40年をこえる歳月を生き抜いてきた。高田の笑いは、『普通』であることを求め続けたからこそ生まれたものなのかもしれない。

「すごい方の領域の人に近づきたくて真似をしても、なかなか追いつけなくてね。たとえば高橋英樹さんに『台本は書いて覚えるといいよ』と教えていただいたからやってみたんだけど、かえって時間がかかっちゃってね(笑)。

剣客を役者として演じるとか、そんなオファーがもしあるならやらせていただきたいけど、僕はまだ芝居もバラエティーもすべて中途半端。だからこっちの方でまだまだ生きていかなきゃならないのよ。たけちゃん(北野武)みたいな才能もないから、小説も書けない。頭とお尻を毎日掻く日々だね(笑)」

緊急事態宣言が解除され、6月に入れば高田の仕事も再始動する。本を読むために割ける絶対的な時間は減るが、むしろ好意的に受け止めている。

「これで(生活が)元通りになったなんて皆さん思っちゃうだろうけど、それは絶対ないよね。不思議なもので、仕事の調子悪いと、本を読んでも全然頭に入ってこないんだよ。パチンコもさ、出るときに限って30分でやめなきゃないけないことが多い。時間がない時にほど出るじゃない。人間なんて、そんなもんだと思うんだけど…どうかなぁ?(笑)」

忙しいからこそ、読書の時間を確保する。実際、限られた時間で飛び込んできた活字の方が血肉になってきた。高田は仕事に向かうカバンに、お気に入りの老眼鏡と本を忍ばせ、散歩を楽しむかのように新しい世界を歩んでいく。

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