「コロナ後の未来」に滅びる社員とは…?ベストセラー著者の正論
一気に普及したテレワークの流れは止まらない。大ベストセラー『未来の年表』シリーズ著者・河合雅司が“アフターコロナ”のビジネスモデルを予測
今回の新型コロナ感染で最も変化したことは、人と人の〝距離感〟でしょう。
緊急事態宣言が解除されたとはいえ、新型コロナと私たちは共存していかざるを得ない。当面はアフターコロナではなく、ウィズコロナであるため、物理的な距離を意識したまま、この社会は動いていくということです。
5月25日、北海道と首都圏(1都3県)の緊急事態宣言が解除された。この後、日本社会はどう変わっていくのか。累計90万部に迫る『未来の年表』シリーズの著者、河合雅司氏(57)が、「コロナ後の未来」をこう予測する。
コロナの渦中で普及が一気に加速したテレワーク、リモートワークの流れは元に戻ることはありません。ホワイトカラーの大半の職場では、離れたところでも問題なく仕事をすることが可能だということが明らかになりました。しかも、5G(次世代移動通信システム)が登場し、日本でもまもなくサービスが始まるというタイミングでもありました。今後、技術的な面でさらに利便性が高まるのは確実で、この流れが日本経済、そして日常生活のベースになることは間違いありません。
テレワークの大きな特徴は、個々の責任と成果が明確になるということです。
たとえば人がオフィスに集まって働く場合、ITが得意でない年配社員が、隣に座っている若い社員に「お前、ちょっとこれやってくれよ」とエクセルの打ち込みを頼むといったこともあった。日本の企業文化では互いに依存しあうケースはよくあることで、そこに違和感なくこれまでやってきたのが現実です。
また仕事はさほどできなくても、オフィスを明るくするムードメーカーのような社員は、職場の潤滑油として上司のおぼえもめでたく、重宝がられてきました。ところがテレワークでは、こうしたことは通用しなくなります。
東京都が従業員30人以上の都内企業に対して行った緊急調査(回答数約400社)では、テレワークを導入している会社は24%(3月時点)から62.7%(4月時点)へと激増。各企業内でテレワークを実施する社員の率も2割から5割へと増加した。とりわけ中・小企業でのテレワーク導入率がめざましい伸びを見せ、一部の大企業だけの傾向ではないことが明らかになった。
今後、同時刻にオフィスに一斉通勤するスタイルは廃止されるでしょう。そもそも人口減少社会の中で、貴重な働き手世代を通勤電車の中にカンヅメにして時間を無駄にするのは大きな経済的損失だと、かねてから私は思っていました。今回、通勤がなくなったことで、今までいかにその時間を無駄にしていたか、実感した人も多いはずです。通勤してくる社員が減れば、大企業も都心の一等地に巨大な社屋を構える必要はなくなります。
オフィス環境そのものも変わってきます。ウィズコロナの社会では、狭いスペースにいつも部長、課長、社員、派遣社員がいっしょくたに座るという状況は歓迎されません。人が集まる場所はそれなりにゆったりした面積が必要です。となれば、それだけのスペースを確保するには、例えばJR武蔵野線沿線のような地価の安いところにオフィスを構える、ということが主流になる。通常、都心の本社に通勤する者は少なく、時に多くの社員が集まって何かをする場合には、郊外の広大なサテライトオフィスで実施、という働き方になるでしょう。
住宅事情もやがて変わります。今回、在宅勤務を体験してみて、家族がいる狭い住宅の中でテレワークをしろと言われてもなかなか大変なことがわかったと思います。子どもがいない世帯であっても共働きで二人ともテレワークとなれば、お互いの声がリビングで重なり合ったりもしたでしょう。自宅近くのワーキングスペースを利用するか、あるいは郊外に住宅を確保しテレワーク用の部屋を作るか――少なくとも、通勤の利便性を第一とした住宅ニーズはなくなっていくはずです。
ここ数年、日本はインバウンドブームに沸いていた。外国人観光客が’13年に初めて1000万人を超えてからわずか5年で3000万人に達し、観光地は彼らの消費で潤った。だが世界的な新型コロナの流行で今年4月の訪日外国人数はわずか2900人。実に前年比99.9%マイナスという惨状だ。はたして今後はどうなるのか。
政府が言っていた4000万人の観光客を迎えるのは、まず無理でしょう。人が移動すれば移動するほど新型コロナの感染拡大は高まると考えられますからね。
それだけでなく、コロナ後、日本に来る外国人労働者は激減すると思います。各国とも新型コロナで経済が揺らぎ、再建のために自国で労働力を使わなければなりません。また、感染拡大防止のために、国境を越えた人間の移動制限が、まだまだ世界的に続くでしょう。
人口減少の中、外国人労働者に頼ることのできなくなる日本はどうすべきか。
これまでの日本は高度経済成長の余韻を引きずり、大量に作って大量に売る〝量的拡大モデル〟で豊かになってきました。人口が減少し、消費が縮小する以上、このモデルは破綻します。だとすれば、今後の日本経済の命綱は、「産業構造の変換」と「働き手の生産性の向上」です。
長らく日本人を縛ってきた通勤という習慣が消滅して無駄な移動時間がなくなり、自由な働き方が主流になる。企業も副業禁止などと言っている場合ではありません。これからの働き方は、一つの会社のオフィスで8時間働くのではなく、たとえば午前中はA社の仕事を行い、午後からはB社のために働く。テレワークはその実現を容易にします。経済効率化、一人の人材による生産性の向上が人手不足を緩和することになるのです。
▲河合氏の新著『「2020」後 新しい日本の話をしよう』(講談社刊)は5月30日に緊急発売
- 撮影:結束武郎、松井雄希