コロナ禍で自殺者が減ったのはなぜ…?医師・学者が解説 | FRIDAYデジタル

コロナ禍で自殺者が減ったのはなぜ…?医師・学者が解説

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コロナの緊急事態宣言で、小売、飲食店を中心に、様々な業種・業態が経済的打撃を受けた。自粛期間が長引くなか、多くの有識者などが口々に「このままでは経済死による自殺者が増える」との懸念を示した。

しかしながら厚生労働省の発表によると、4月の全国の自殺者数は前年比19.8%減。短期的には自殺者が減ったといえる。コロナ禍において人間の意識になにか変化が起こったのだろうか。

精神科医でブレインケアクリニック名誉院長・今野裕之医師に、考えられる理由について聞いた。

自粛による心理的変化が…

「コロナウイルスの流行とそれに伴う外出自粛要請などは私たちの心身に大きなストレスとなったと思います。実際、私が勤務するクリニックでも患者さんから『自分も感染するのではないか』『この状況がいつまで続くのか』『仕事がなくなるのではないか』などといった不安を抱える患者さんからの相談が増えたのは事実です。

しかし一方で、『周りも外出を自粛しているから、自分も気兼ねなく休める』ということで精神的に落ち着いた患者さんも少なからずいました。人によってずいぶん受け止め方が違うものだと改めて感じています」

STAY HOMEの号令のもと、家で過ごす時間が増えたことで、SNSにも変化が見られた。コロナ以前は、キラキラした生活を誇示するような写真に溢れていたが、「おうち時間の過ごし方」のような癒しの投稿が増え、ハッシュタグには「今日の感謝」や「ありがとう」など「心を和ませる言葉」をよく目にするようになった。コロナがもたらした「ポジティブな効果」も少なからずあったと今野氏は指摘する。

「素敵なレストランで食事をする、好きな時に海外旅行を楽しむといった『キラキラした生活』は、一時的には『羨ましいな、素敵だな』といったポジティブな気持ちになりますが、続けて見ていると自分の生活と比較してしまい、ストレスの原因にもなります。

コロナの自粛下で、きらびやかな投稿を上げる人が少なくなった結果、そうしたストレスが減ったことが考えられます。そのような投稿より、ポジティブな気持ちを伝え合う投稿が目立つほうが、SNSの状況としては好ましいと感じています」

根本への回帰

コロナがもたらした心理的変化を考察すると、「安全欲求」が強くなっている傾向を感じる。

有名なマズローの欲求段階説では、安全欲求は「低次欲求」と言われるが、安全欲求を持つ人が増えることで社会はどう変わり、我々はどう対処していくべきか。明治大学教授・堀田秀吾氏に聞いた。

「安全欲求は、食欲や睡眠などの生理的欲求の次にある、人間の根本的な欲求に近いものです。この裏返しには『不安』があります。人間の行動原理の根本は、不安を解消したいがための行動とも言えるのです。

人間の根本的な心、行動原理は、石器時代からほとんど変わっていません。文明が発達したのはここ数千年の話です。ホモ・サピエンスが登場した20万年という人類の歴史からすると、数千年なんて、ほんの30分くらい前の話で、進化が追いついていないのです。

現代では何の問題もないようなことでもすぐに命の危険につながった大昔では、不安を抱きやすいほうが、その予防や対策を取りやすいため、生存競争に有利だったのです」

コロナ以前を振り返れば、日常生活においては「命の危機」を感じにくい社会だった。しかし、コロナで「安全欲求」が刺激されたことで、人間の根本へと回帰した。だからこそ「STAY HOME」を受け入れ感染拡大を収束へと向かわせる事ができたのだろう。

しかしながら、「不安」により一時はパニックが起きたのも事実だ。

「コロナ禍により、心身の健康だけでなく、私たちがいままで当然のように享受していた色々なものが制限されたり失われたりした結果、安全欲求のレベルまで脅かされるようになり、今まで経験したことのないような不安に襲われました。
 
当たり前にあったものが失われそうになると、執着心が生まれるのが人間です。食料品や日用品の狂気のような買い占めが起こったのは、これが原因です。不安がストレスになり、不要な衝突なども散見されるようになりました」

新しい価値観

しかし、不安に押し流されるばかりで無く、その一方で、色々な気づきや新しい価値観も生み出された。

「企業であればテレワーク、教育で言えば遠隔授業のように、今まで経験しなかったからこそ『そんな社会が成り立つのか…?』と不安に感じていたものが、実際に体験してみると、それほどハードルが高くないことに気づいたりもしました。そうした積み重ねと慣れによって、徐々に不安は減っていきます。この状態が定着すれば、自然と『安全欲求』も満たされていくのではと感じています」

緊急事態宣言解除後、減少したとはいえ新たな感染者の報告もある中、6月1日にはステップ2ヘとさらに規制を緩めた。withコロナを生きる我々の社会は、これまでの常識が色々と「リセット」されていくだろう。

多かれ少なかれ、これまでとは違った日常の風景が現れていくことは間違いないと思います。そこに順応できるかどうかで『生きづらさ』の違いも生じると予測しています」

接客、コミュニケーション、伝統的礼節、ビジネスマナーなどあらゆる場面で『これまでの当たり前』が変わっていく中、躊躇せずその変化に順応していくこと。それがウィズコロナ時代に生きづらさを感じないための秘訣となるだろう。

  • 取材・文吉澤エリ

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