日本は第二波をスウェーデン方式で乗越えられるか…ひとつの考え方 | FRIDAYデジタル

日本は第二波をスウェーデン方式で乗越えられるか…ひとつの考え方

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ステップ2へ移行した翌日に発動された「東京アラート」 

5月26日、安倍首相が緊急事態宣言を全面解除した。発令から解除まで1ヵ月半で流行をほぼ収束させたことを、「日本モデルの力を示した」と表現した。「日本モデル」とは、外出自粛や休業などを強制せず、PCR 検査による感染者の割り出しよりもクラスター対策を重視した手法で、海外からは、この方法で収束させることができたことは不可解だと見られている。

確実に来るといわれている第二波も、この「日本モデル」で大丈夫なのか? 医療ガバナンス研究所理事長の上昌広(かみ・まさひろ)氏と考える。 

6月2日、東京都独自の警戒宣言「東京アラート」が発動された。前日に、ステップ2へ移行し、大学や映画館、劇場、小売り店舗などが再開されたばかりだった
6月2日、東京都独自の警戒宣言「東京アラート」が発動された。前日に、ステップ2へ移行し、大学や映画館、劇場、小売り店舗などが再開されたばかりだった

欧米のロックダウンは効果がなかった?

新型コロナウイルスの猛威に襲われたアメリカやヨーロッパ各都市で行われたロックダウン。イギリスのイースト・アングリア大学の研究チームは、イギリスやドイツ、フランスを含む欧州30ヵ国を対象に、各国のコロナ対策の効果について分析した。

その結果、人々が集まるレストランやバー、レジャー施設、イベント会場の閉鎖は感染拡大の抑制に寄与したが、その一方で、これら以外の業種における営業停止は、感染拡大の抑制にほとんど影響がなかったとみられると考察している。 また、外出禁止の日数が増えるほど、感染者数は増加したという。

実際、ロックダウンを行わなかったスウェーデンの5月27日現在の致死率は11.9%。対してロックダウンを行ったイギリスは14.1%、イタリアは13.9%だった。

感染者を減らすのか? 死者を減らすのか?

「毎日感染者の数ばかりクローズアップされていますが、大切なのは死亡者を減らすこと。

新型コロナウイルスで亡くなった方の8割以上は70歳以上の高齢者。若い人は、持病がなければたいていの場合、感染しても大丈夫なんです。外出自粛や休業要請をすれば、感染者は減らせるかもしれませんが、経済が立ち行かなくなる。死者を減らすことを目的にするならば、高齢者や持病を持っている人を徹底的に守るようにすればいい。

それにはまず院内感染を減らすこと。少しでも新型コロナウイルスが疑われるような人が来院したら、速やかにPCR 検査や抗原検査ができるようにすることです。今、保健所を通さずにPCR 検査ができるシステムが整いつつありますが、まだまだ十分とはいえません」(上昌広氏 以下同) 

「高齢者が多く入院している病院でもクラスターが発生してからでないとPCR 検査ができなかった。それも高齢者の死亡者を増やした要因」厚生労働省『新型コロナウイルス感染症の国内発生動向』(2020年5月27日18時時点)より抜粋
「高齢者が多く入院している病院でもクラスターが発生してからでないとPCR 検査ができなかった。それも高齢者の死亡者を増やした要因」厚生労働省『新型コロナウイルス感染症の国内発生動向』(2020年5月27日18時時点)より抜粋

厚生労働省が発表した「年齢階級別陽性者数」や「年齢階級別死亡者数・重傷者数」を見ると、感染しているのは20代~50代が多いのに、60代以上は感染者数が50代以下より少ないにもかかわらず、死亡者数は多い。この状況を見ると、高齢者に感染させないように気をつければ、若い世代はわりと自由に行動してもいいように思える。

それを実践したのがスウェーデンだ。

集団免疫を獲得するためにロックダウンしなかったと思われているが、スウェーデン政府は公式にはそうは言っていない。医療崩壊を防ぎ、社会の機能を保つために50人以上の集会が禁止、飲食店での混雑禁止、スウェーデンへの入国禁止、高齢者施設への訪問禁止が法律で決められ、手洗いや在宅勤務、国内旅行の自粛、ソーシャルディスタンスを保つことなどが推奨された。高校大学はオンライン授業になったが、保育園や小中学校は通常どおり、飲食店もオープンしている。

集団免疫獲得が目的ではないが、集団免疫獲得にもっとも近いやり方だと言われ、4月27日にはストックホルムで25%の人が抗体を獲得したと、感染対策のリーダーが発表している。第二波がきても、抗体をもった人は感染しても軽症ですむ。

スウェーデンの公衆衛生局で新型コロナ対策にあたる疫学者アンデシュ・テグネル氏は3日のインタビューで、改善の余地があったことを認めたが、基本的な方針に変更はないと語った
スウェーデンの公衆衛生局で新型コロナ対策にあたる疫学者アンデシュ・テグネル氏は3日のインタビューで、改善の余地があったことを認めたが、基本的な方針に変更はないと語った

夜の街で感染者が増える

対して、日本はどうか。

厚生労働省の依頼を受けて、日本赤十字社が4月に行った抗体検査では、東京都内、東北6県で採取した、それぞれ500検体を調べ、その結果、都内では500検体のうち陽性だったのは3人(0.6%)、東北6県では2人(0.4%)だった。

これとは別に、東京大学最先端研究所、大阪市立大学付属病院でも同じ調査が行われたが、それぞれ0.6%、1.0%だった。

「日本赤十字社が調べたのは、献血に訪れた人たちで、このような人たちは日ごろから健康意識が高く、さらに献血をする前に海外からの帰国後4週間経過していない人、発熱や咳などの症状がある人には、献血を遠慮してもらうよう、呼びかけています。東大や大阪市立大学付属病院での調査対象者は入院・外来患者で、多くは高齢で持病をもっていると考えられます。このような人たちはステイホームを実践し、市中で感染するリスクはきわめて低い。 

私が勤務しているナビタスクリニックで、抗体検査を希望する人202人を検査したところ、12人が陽性でした。陽性率は5.9%です。千駄ヶ谷インターナショナルクリニックの調査結果は8.0%でした。一般にクリニックで抗体検査を希望する人は、若く、持病を持っている人は少ない。ナビタスクリニックでの受診者は平均年齢は約30歳でした。 

これらの結果から、あくまで私の推察ですが、平均すると陽性率は3%前後なのではないかと考えられます」

この抗体検査の結果から、もう一つわかることがある。それは、感染リスクはコミュニティで異なるということ。夜の街で働いている人や遊んでいる人、医療従事者は感染のリスクが高いということだ。

6月2日に発令された東京アラート。夜の街、とくに新宿・歌舞伎町で感染者が増えたと言われている
6月2日に発令された東京アラート。夜の街、とくに新宿・歌舞伎町で感染者が増えたと言われている

日本で蔓延している新型コロナウイルスは毒性が弱い? 

抗体検査は世界各地で行われていて、ニューヨーク州では12.3~27.0%、ロンドンでは17%などと報告されている。仮に今回の第一波で日本では3%が抗体をもったとしても、欧米諸国に比べて感染者は圧倒的に少ない。これはどうしたことだろう。

「ウイルスが変異を繰り返すのはインフルエンザウイルスでも、よく知られています。今、世界中のウイルス研究者が調べていますが、新型コロナウイルスも変異を繰り返していることがわかっています。新型コロナウイルスは大きく欧州型とアジア型に分かれ、欧州型は感染力や毒性が強く、アジア型は感染力も毒性も弱いと考えられます」 

5月16日現在、人口10万人あたりの死亡者数は日本が0.56人、インド0.20人、中国0.32人、韓国0.51人というアジアに対して、スペイン58人、オランダ、スイスでは20~30人と、ヨーロッパではけた違いに多い。

感染しても無症状の人が多いとはいえ、20代の男性が新型コロナウイルスに感染して髄膜炎を発症したケースもあった。甘く見てはいけないが、経済活動を止めたことによる犠牲を考えれば、ソーシャルディスタンスを保ちつつ、社会機能を維持するスウェーデン方式でいいのかもしれない。

「新型コロナウイルスは最初、鼻や喉に多くいると思われていたけれど、実は消化管組織にもウイルスがいて、唾液や大便にも多いことがわかってきた。いちばん危険なのは、病院のトイレですが、公共のトイレも気をつけたほうがいい。コンビニエンスストアでトイレを貸さなくなっているところもありますが、スタッフの健康を考えれば、これは理に適っていることです。

唾液が飛散しなければ感染しないのですから、満員電車でも、話さずに乗っていればほとんどの場合は大丈夫なんです。屋外でも、密集しなければほとんど危険がない。 

また、新型コロナウイルスは人口密度が高いところほど感染しやすいことがわかっている。外出自粛するにしても、東京だけ、北海道なら札幌だけ外出自粛するという考え方もできるわけです」

スウェーデンで死者が増えたのは、高齢者施設でクラスターが発生したことが主な原因だ。

スウェーデンの人々も他の北欧3国に比べて死者が多いのは認識していたが、政府を信じて政策に従っていたという。スウェーデンの疫学者アンデシュ・テグネル氏は「改善の余地がある」と述べたが、このように正確に現状をとらえ、包み隠すことなく発表する態度が、国民から信頼を得るのだろう。PCR 検査が少なかったこと、院内感染が多かったことなど日本にも反省すべき点は多い。日本モデルが本当に功を奏したのか、しっかり分析して、第二波に備えてほしいものだ。

上昌広 特定非営利活動法人 医療ガバナンス研究所  理事長。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の診療・研究に従事。2005年より東大医科研探索医療ヒューマンネットワークシステム(後に 先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年3月退職。4月より現職。星槎大学共生科学部客員教授、周産期医療の崩壊をくい止める会事務局長、現場からの医療改革推進協議会事務局長を務める。著書に『病院は東京から破綻する』(朝日新聞出版)など。

  • 取材・文中川いづみ写真アフロ

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