定額で全国に住み放題!アフターコロナに拡がる「デュアルライフ」
狭い家でテレワークするよりも……二拠点生活
新型コロナウイルスによる緊急事態宣言解除後に提唱された「新しい生活様式」では、テレワークやオンライン会議が推奨されている。自粛期間中と同様にテレワーク中心に仕事ができるなら、人が多く、住まいの狭い都市部に住み続ける必要性は薄れる。
とはいえ、住まいの広さだけを求めていきなり地方に移住するのもハードルが高い。そこで浮かび上がってくるのが、自宅とは別にもう一つの拠点を構える「デュアルライフ(二拠点生活)」だ。二拠点生活、多拠点生活を手軽に実現できるサービスも充実してきた。
月額4万円で住み放題の「ADDress」
「ADDress(アドレス)」は、月額44,000円(税込み)から全国約60拠点の家が利用できるサービス。会員にはいつでも使える専用ドミトリや専用個室が割り当てられる一方で、その他の拠点をどこでも予約して利用できる。
定額料金で予約できるのは、1ヵ所につき連続7日、合計最長14日まで。会員本人だけでなく、パートナー1名も追加費用なしで利用可能。カップルで滞在すればお得だ。
物件は、別荘や古民家をシェアハウスのように改装した家が中心。滞在する部屋はほとんどが個室になっているのでプライバシーが保てる。仕事をしたい時は、個室または各物件に備えられているコリビング(リビング兼ワーキングスペース)を利用する。
アドレスの大きな特徴は、各拠点に必ず1人いる「家守」の存在だ。「家守は管理者であり、地域と会員をつなぐコンシェルジュです。周辺のお店や地域イベントを紹介したり、地域住民との交流の機会をセッティングしたりもします」とADDress取締役の桜井里子氏。
緊急事態宣言の最中には、「今は地元の人がピリピリしているから利用しないほうがいい」と注意喚起を行う家守もいた。地元とのトラブルを回避し、円滑なコミュニティづくりを促す役割として、家守は欠かせない存在といえそうだ。
そもそもADDressは、人口減少や空き家増加といった社会課題を解決する目的で2019年4月にスタートした。登録会員はフリーランサーなど自由業が多かったが、新型コロナ禍の4、5月で会社員も増加した。テレワークを想定した利用者が増えているのだろう。
「会員数の増加に拠点数が追いつかない状況です。観光客で悩んでいる旅館・ホテルなどとも提携し、全国に拠点を増やしていきます」(桜井氏)


国内外でデュアルライフが楽しめる「HafH(ハフ)」
「HafH(ハフ)」は国内だけでなく海外でも利用できる点が特徴の定額居住サービスだ。その数は163都市・260拠点(2020年5月現在)。自社直営拠点に加え、各地のゲストハウスやホテルなどとの提携による拠点開設でサービスを拡大してきた。多くの拠点にはコワーキングスペースが設けてあるので、テレワークにも対応できる。
定額プランは、2日だけ利用できて月額3,000円の「おためし」から、1ヵ月まるまる使えて月額82,000円の「いつもHafH(風)」まで4段階(いずれも税込み)。今週は釧路、来週はゴールドコースト、来月はバリ……と世界を股に掛ける“アドレスホッパー”な生活が(コロナ禍が落ち着けば)満喫できる。
「価値観の多様性が求められる時代において、住む場所ももっと自由に選ぶべき。そんなふうに人々の価値観を変えたい、という思いでHafHを始めました。ユーザーターゲットは、旧来の価値観に不満を抱いているような若者を想定しています」とHafHを運営する株式会社KabuK Styleの大瀬良亮代表取締役は語る。
実際の会員も30代以下が7割を占める。英語にも対応しているので外国人会員も少なくない。職業では会社員が中心だ。会社に所属して、普段はテレワーク中心で仕事をこなしつつ、HafHを使って国内外を旅するように生活する。そんな新しいライフスタイルを実践している人が増えているのだろう。
月数回だけ利用できるライトなプランを契約し、仕事での出張と合わせて数日の休暇を楽しむ「ワーケーション」的な使い方も多く見られる。そうした流れを加速するために、HafHはNECネッツエスアイやパソナなどと提携し、法人向けワーケーション実証実験にも乗り出した。
「テレワーク、リモートワークは本来、自宅で仕事をすることではなく、場所にとらわれずに働くこと。HafHでは“#テレワを止めるな”を合い言葉に新しい働き方・暮らし方の支援に取り組んでいきたいですね」(大瀬良氏)


1棟丸ごと、1ヵ月間借りる「全国渡り鳥倶楽部」
2020年7月からサービス開始予定の定額多拠点居住サービスが「全国渡り鳥生活倶楽部」。不動産コンサルタントでホテルのプロデュースも行っている牧野知弘氏が、各地の不動産会社や地方自治体と連携しながら準備を進めてきた。
「渡り鳥倶楽部の特徴は、高品質な住宅を一戸丸ごと提供していることです。たとえば阿蘇にある豪華な別荘や、京都の町屋、都内のタワーマンションの1室など、12拠点ほどでスタート予定です」と牧野氏は説明する。
会員はこれらの物件を、1ヵ月単位で利用する。会費は月額150,000円から(予定)とやや高額だが、定員までは何人で利用しても同額だ。家具・家電などが備わった住宅をファミリーで借りられると思えば決して高くはない。
1ヵ月も同じ場所にいると飽きるのではと心配になるが、それこそが同サービスの狙いだ。長期の滞在のなかで、趣味や体験、地域住民との交流をじっくりと味わってもらうことを想定しているのだ。
「各地域にいるコンシェルジュが会員に対して、陶芸や釣り、歴史散歩などの趣味や体験メニューを案内します。それも観光地によくある簡易なものではなく、本格的なものです。また、地域イベントにサポーターとして参加することや、地域の仕事を副業として見つけることもあるでしょう。短期間の滞在では体験できないユニークなメニューを提供していきます」(牧野氏)
月額料金や滞在先での腰の据え方を考えると、現役サラリーマンがデュアルライフ実践のために使うには難易度が高いかもしれない。実際に、同サービスが狙う層はリタイア後のシニアなど時間に余裕のある人たちだ。
ただ、法人会員という手もある。会社で法人会員に加入し、新型コロナの余波が残る都市部を避け、海を望む古民家で1ヵ月間エンジニア合宿を行う、そんな使い方もアリではないだろうか。


ADDress、HafH、渡り鳥倶楽部など、いずれも特徴のある定額住み放題サービスが次々と出てきた。
アフターコロナ、ウィズコロナの今、都市に住むでもない、地方移住でもない、第三の選択肢としての「デュアルライフ」がトレンドになりつつあるのかもしれない。
◆取材・文:平 行男(たいら ゆきお)
フリーライター。社内報などの企画制作会社を経て2005年からフリーランスに。企業の広報・販促コンテンツの制作を支援するほか、各種メディアでビジネス、IT、マネー分野の記事を執筆している。ブックライティングも多数。