仮想天国も格差社会!傑作『アップロード』はドラマ版『あつ森』か | FRIDAYデジタル

仮想天国も格差社会!傑作『アップロード』はドラマ版『あつ森』か

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いま、巷で話題を集めているゲーム『あつ森』。『あつまれ どうぶつの森』の略で、無人島の中で思い思いに遊べるシミュレーションゲームだ。3月20日に発売された本作は、新型コロナウイルスの影響で「巣ごもり」状態になったこともあり、世界的に大ヒット(ゴールデンウイークを丸ごと本作のプレイ時間に使った人も多いという)。あの米ニューヨークのメトロポリタン美術館までも正式参入し、ゲーム業界だけにとどまらない広がりを見せている。

『あつ森』の中に映画『ミッドサマー』の世界を再現する人が現れてSNS等で話題になったり、著名人がバラエティ番組で共同プレイをしたり、攻略本が売り切れ続出になったりと、まだまだ人気は衰えそうにない。中には、緊急事態宣言でかなわなかった結婚式や卒業式、葬式をゲーム内で行う人もいるそうで、現実が拡張していくさまを感じさせる。

『あつ森』はいわば、デジタル空間にもう一つの“生活”を構築する行為だ。アバターという「分身」に自己を投影し、虫を捕ったり魚を釣ったり、ゲーム内のキャラクターとコミュニケーションをとったり……。「四季」も存在し、居住空間も自在にクリエイトできる。

そこには「日々」があり、ゲームを立ち上げればもう一人の自分が動き出す。自分の“意識”を現実からデジタルに転送する――。SNSや、かつて流行したネット上の仮想世界「Second Life」にも通じる現象だ。

つまり、現在の私たちは、肉体で過ごす「現実」以外にも、意識ベースで複数の「仮想現実」を生きているということ。それが“死後”にも広がったら?を描き、注目を浴びているドラマが、今回紹介する『アップロード 〜デジタルなあの世へようこそ〜』だ。

『アップロード ~デジタルなあの世へようこそ~』  Amazon Prime Videoにて独占配信中
『アップロード ~デジタルなあの世へようこそ~』  Amazon Prime Videoにて独占配信中

本作は、Amazonが製作・配信しているオリジナルドラマ。コロナ禍のさなかにあった5月1日からシーズン1(全10話)が世界配信され、1週間後にはシーズン2の製作が発表されるという人気ぶりだ。舞台は、近未来のアメリカ。技術の発達で、人々は今わの際に「普通に死ぬ」か「アップロードするか」を選べるようになった。

この「アップロード」とは、デジタル空間に創設された“楽園”に意識を転送し、本人そっくりのアバターで、新たな人生を送る行為。先ほど述べたパターンでたとえるなら、死後に『あつ森』の世界で生き続けるようなイメージだ。魂のありかが「肉体」ではなく、「意識」に帰属する感覚が強まった現代を象徴する作品といえる。

劇中ではアップロードがビジネスとして発達しており、ユーザーそれぞれの経済状況によって、どんな“天国”に暮らすかが変わる。物語のメインステージとなるのは、湖畔に面したホテルで暮らせる「レイクビュー」だ。広々としたベッドが置かれ、暖炉に赤々と火がともるシックな部屋があてがわれ、窓から見える眺望はスイッチ一つで天候や季節を変えられる。まさに、悠々自適の余生を過ごすことができるのだ。

『アップロード ~デジタルなあの世へようこそ~』  Amazon Prime Videoにて独占配信中
『アップロード ~デジタルなあの世へようこそ~』  Amazon Prime Videoにて独占配信中

しかしそこには「課金制」システムが敷かれていて、たとえば日々の食事をグレードアップしたり、利用できるレジャーを増やすには、基本プラン以上のオプションが必要だ(有料会員限定のステージもあり、退屈しのぎに「風邪をひく」などの追加アイテムを実装する居住者もいる)。これらの資金は遺族が負担することもあれば、故人の口座から引き落とされる場合も。

この辺りの描写は、完全に我々がオンラインゲームやスマホアプリなどで体感している内容と合致する。広告がひっきりなしに表示されてうっとうしい、といった状況も見られ、フィクションでありながら実にリアルだ。

また、個人が遺族や友人に連絡を取ることもでき、市販の“ハグスーツ”を使えば、生者と死者が触れ合うことも可能(よって、劇中では「セックススーツ」の愛称で親しまれている)。自分の生前の記憶を映像として再生できるサロンなども完備され、困ったときには「エンジェル!」と呼べば、担当のオペレーターが駆けつけてくれる。このオペレーターは各会社の従業員が務めており、1人ひとりに「お世話役」がつくような形だ。

『アップロード ~デジタルなあの世へようこそ~』  Amazon Prime Videoにて独占配信中
『アップロード ~デジタルなあの世へようこそ~』  Amazon Prime Videoにて独占配信中

本作には、いま挙げたような特徴が無数に存在し、アップロード化がある種の現実味を帯びたものとして、説得力たっぷりに描かれている。『あつ森』のフィーバーぶりも手伝って、「これが人類の未来か」と思わされるのではないだろうか。そういった意味では、決して荒唐無稽な話とは感じられない。

死後の世界にも経済的格差があり、貧困層はひと月に使えるデータの容量が決まっており、上限を超えると強制停止され、食べ物は企業の試供品、部屋も簡素で「画質」が粗い。月末になるとスマートフォンなどの通信制限に苦しむ経験をした者なら、彼らの苦しみが痛いほどにわかるだろう。

しかも、ここでの生活は基本的に永遠。居住者に「三途の川」と呼ばれる自殺スポットも非公式に存在し、死後の生活に耐えられなくなった人々はそこに身を投げる、というブラックな要素も映し出される。

基本的にはコメディの文脈でまとめられているのだが、『万引き家族』や『パラサイト 半地下の家族』が暴き出した「格差」というテーマが、本作にもしっかりと受け継がれているのだ。

また、事故に巻き込まれ、若くしてアップロードされた主人公の死に、陰謀が関わっている……となる展開も、もし仮にこのような技術が生まれたら起こり得そうなものではある。同時に、死者である居住者と、身の回りの世話をするオペレーターの間に生まれる恋愛感情の難しさや、年を取らない死者と、年齢を重ねていく生者のすれ違いなど、所々の問題を細やかに描いた部分は、物語に深みをもたらせている。

『アップロード ~デジタルなあの世へようこそ~』  Amazon Prime Videoにて独占配信中
『アップロード ~デジタルなあの世へようこそ~』  Amazon Prime Videoにて独占配信中

単純にドラマとして非常に完成度の高い作品ではあるのだが、フィクションでは片づけられない「時代性」が、色濃く流れている『アップロード 〜デジタルなあの世へようこそ〜』。技術に擁立された価値観を風刺しつつ、愛や性など人間の本能も照らし出す「デジタル時代が産み落とした」傑作だ。「自分だったらアップロードするか、しないか?」といった問いを念頭に置きつつ、楽しんでいただきたい。

  • SYO

    映画ライター。1987年福井県生。東京学芸大学にて映像・演劇表現について学ぶ。大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画情報サイトでの勤務を経て、映画ライターに。現在まで、インタビュー、レビュー記事、ニュース記事、コラム、イベントレポート、推薦コメント、トークイベント登壇等幅広く手がける。

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