ついに「億」越えの新薬が!結局患者はいくら払うことになる…?
1回あたりの投与が、1億6700万円の治療薬とは?
国内最高額となる1億6707万7222円の薬が保険適用された。脊髄性筋萎縮症(SMA)という難病の治療薬「ゾルゲンスマ」だ。保険適用により花粉症や風邪で受診するときのように健康保険を使えことになったわけだが、実際に治療した場合には3割負担の人で約5000万円を支払わねばならないのだろうか……。

1億超えの「ゾルゲンスマ」に対し類似薬「スピンラザ」の価格は949万円
ゾルゲンスマは「脊髄性筋萎縮症(SMA)」という希少疾患の治療に用いる。SMAは特定の遺伝子が原因となって起こる疾患で、乳児期から小児期に発症するSMAの罹患率は10万人あたり1~2人と言われている。
これまでは治療薬がなく、症状を緩和したり、生活の質を保つ治療が行われていたが、2017年に待望の世界初となるSMAの治療薬スピンラザが誕生した。気になる薬価は1バイアルあたり949万3024円だ。
次いで今年5月にゾルゲンスマが誕生した。薬価は先述の通り1億6707万7222円だ。同じSMA治療薬でも価格に大きな差があるが、いったいどのようにして薬価が決まったのだろうだろうか。
ゾルゲンスマの「薬価」はどうやって決まったのか
先ほどから何度か登場している「薬価」とは病院で処方される医療用医薬品の価格のこと。厚生労働省が薬の効果などを考慮して決める。
新しく開発されて発売することになった薬の価格は類似薬の有無によって算定の仕方が異なる。類似薬に比べて高い有効性や新規性が認められると価格が上乗せされる。
ゾルゲンスマの場合は2017年に承認されたスピンラザを比較薬として「類似薬効比較方式(Ⅰ)」という方法によって薬価が算定された。高額になったのは、ゾルゲンスマは1回の投与で高い治療効果が得られることが評価されたためである。
中央社会保険医療協議会の資料「再生医療等製品の保険償還価格の算定について」によると、比較薬のスピンラザは「導入時に頻回の負荷投与を行い、さらに4ヵ月に1回繰り返し髄腔内注射を行う必要がある」。一方のゾルゲンスマは1回の静脈内注射で治療が完結することから、比較薬のスピンラザの11倍の薬剤費(949万3024円×11=1億442万3264円)が薬価のベースとなった。
これに加え、ゾルゲンスマは「正常な遺伝子を細胞に直接的に導入するという原理的には根治の可能性もある」ことや「1回の静脈内注射で投与が完結して患者負担が軽減される」ことなどが評価され、50%の有用性加算が上乗せされた。さらに先駆け審査指定制度加算10%が加わった結果、1億6707万7222円というわが国で最高となる薬価が算定されたのである。
もしSMAになったら3割負担の場合でおよそ5000万円を払うことになるのか?
3割負担の場合、自己負担額5000万円を支払えなかったら、治療をあきらめないとならないのだろうか。
結論からいうと、ほぼ自己負担なしで治療を受けられる。SMAは小児慢性特定疾病や指定難病に指定されており、これらの制度によってさまざまな公的支援を受けることができるためだ。
小児慢性特定疾患や難病の医療費助成を受けた場合の自己負担の割合は2割で、かつ世帯の所得に応じた自己負担上限額(月額)が定められている。政府広報オンラインの「難病と小児慢性特定疾病にかかる医療費助成のご案内」を見てみると、たとえば年収が約430万円~850万円の夫婦2人と子供1人の世帯の方が小児慢性特定疾患の医療費助成を受けた場合の自己負担額の上限は1万円となっている(重症の場合は5000円)。医療費助成制度を活用すれば、高額な医療費のために治療をあきらめなければならないという事態に陥ることはなさそうだ。

高額の医療費に困ったらソーシャルワーカーなどに相談を
ここまで小児慢性特定疾患や難病の方が活用できる医療費助成の制度について紹介したが、こうした疾患以外、例えば長期にわたるがんの治療などで医療費の自己負担が高額になり困った場合に利用できる制度もある。
それが、高額療養費制度だ。公的医療保険における制度の1つで、健康保険加入者(国民健康保険・健康保険組合・全国健康保険協会等)は、同一月内における病院や薬局での自己負担が一定の金額を超えた場合、自己負担限度額(年齢や所得などによって定められている)を超えた分の払い戻しを受けることができるというもの。 69歳以下で一般的な収入の人(会社員で、年収約370万円~770万円程度)なら、医療費が100万円かかった場合、窓口負担が3割負担である人の上限の目安はひと月で8万円強だ。

気をつけたいのは、自己申請する必要があること。健康保険に加入していても、自動的に適用されるわけではないので注意したい。また、申請を忘れていた場合は、診療を受けた月の翌月の初日から2年以内であれば、遡って申請することができる。気になる人は、医療機関の医療相談窓口や医療ソーシャルワーカーなどに相談してみると良いかもしれない。
取材・文:高垣育
毎週100人ほどの患者と対話する薬剤師とライターのパラレルキャリアを続けている薬剤師ライター。人だけではなく動物の医療、介護、健康に関わる取材・ライティングも行っている。