医療従事者を助けたい…飲食店経営者が「宅配弁当」を始めた理由 | FRIDAYデジタル

医療従事者を助けたい…飲食店経営者が「宅配弁当」を始めた理由

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「新型コロナの抗体検査を受けましたが、予想していた通り陽性でしたよ」

そう言って笑顔を見せるのは、イタリア食材輸入卸業の「株式会社ミルトス」の代表を務める他、ジム、焼肉店などを営む盛宗一郎氏。コロナ禍でほとんどの店を閉ざさざるを得ず、大きな打撃を受けている。さらに盛氏は、自身がコロナにかかってしまうという災難にも見舞われた。

「緊急事態宣言前の3月上旬、私が経営するジム、飲食店は、利用者が激減。事業継続のため奔走する日々でしたが、そんなななか、ある日体調が悪くなりまして。ああ、これはなにかおかしいな…と感じた時にはすでに嗅覚がなくなっていました」

その後、体調は悪化の一途をたどり、息苦しさも酷くなっていた。

「部屋のなかを這って移動するほどの苦しさで、肺炎にかかっていることは明らかでした。ところが、病院に行く体力も余裕もなくなっていたんです。なにより、自宅でやらなければならない仕事に追われていて、病院に行っている場合でもない、とも思っていました。いま考えるとあまりよい考えではありませんが(苦笑)。

あまりの息苦しさに死が頭をよぎる瞬間もありましたが、普段から気力と体力はあるのと、運が良かったのか……結果的には病院にいくことなく、自分の免疫力で回復しました」

回復後、念のために病院で抗体検査を受けたのは、陽性であることを確認し、コロナ禍で感染を恐れず働くためだ。結果は前述のとおり陽性。一度感染しそこから復活したなら、気持ちは前を向くだけ。そんな盛氏が、回復して以降力を注ぐのが「絆弁当」だ。

「自分自身の会社も経営難ですから、私もコロナ危機の当事者です。しかし、コロナから回復しただけでも自分は運がいい。自分と同じように経営難に陥った飲食業の仲間が大勢いる今、何かできないかと考えました」

まずは、自身の会社が所有している食材を安価で販売することを考えた。

「保管している食材は、期限が過ぎると廃棄しなければなりません。どうせ廃棄になるなら、利益が出なくても食べてもらったほうがいい。そんなとき、コロナ最前線で闘う医療従事者に『弁当』を届けたら…と考えました」

まさにそんなことを考えているときに、盛氏の目にテレビを通じて飛び込んできたのは、医療従事者たちが時間を惜しんで戦っている姿だった。

「『患者の対応で満足に食事を取る時間がない』『家族へ感染させる危険があるので自宅に帰れない』などの声をニュースで見て、このままでは医療従事者が倒れてしまう、本当に医療崩壊が起きてしまうと思いました。

彼らに私たちの作ったお弁当を届けたい。そう思って始めたのが『絆弁当』です。

経営する飲食店を閉めることも考えたのですが、飲食店の場合、『閉店すること』もハードルが高いんです。借りている店舗の賃貸契約を解約する場合、改装した部分や厨房の設備を元通りに戻さなければなりません。その費用は、簡単には捻出できないのです。

こうした背景から、飲食店のプロが作った栄養ある弁当を医療機関に届けることができれば、両者にとってプラスになると考えたんです。

医療現場を支援し、かつ、飲食店には利益をもたらす。それが『絆弁当プロジェクト』です」

絆弁当箱プロジェクトは、ボランティアや支援を希望する企業からの寄付を募り、集まった資金で弁当を飲食店に発注、医療機関へ届ける仕組みだ。

「なにより、弁当を必要としている医療機関へ届けることが重要です。医療の妨げにならないようにしながら、支援を必要とする病院とのマッチングを行い、納品時にも感染防止対策を万全に、がモットー。基本は、非対面による配送です」

絆弁当プロジェクトへの反響は大きく、企業、個人から現在も多くの寄付が寄せられている。

「5月開始し、6月8日には計2300食を達成しました。飲食店にも医療従事者、そして寄付を寄せてくださった支援者の皆さんにも喜ばれています」

コロナで一時は「死」を感じた盛氏は、絆弁当プロジェクトで気づいたことがあると言う。

「人は、自分のことだけを考えていると、『もうだめだ』とか『どうして俺ばっかりが…』といったネガティブな感情の悪循環に陥ってしまうんですよね。でも、周りをみれば自分よりもつらい思いをしている人がたくさんいる。

自分は生きているだけでこれ以上なくツイているんだ――そう気づいた瞬間から、前向きになれました。人との結びつきを感じることが、このコロナと戦ううえでは欠かせません。絆弁当プロジェクトを通じて、一人でも多くの方に『人との結びつき』を感じてもらえればと思っています」

ウィズコロナを生きる我々は、互いに支え合う気持ちを持つことが必要だ、ということだ。

  • 取材・文吉澤エリ

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