味わい深い記録の話!「右の強打者」の勲章でもある「併殺打」 | FRIDAYデジタル

味わい深い記録の話!「右の強打者」の勲章でもある「併殺打」

「併殺打」は実は強打者の証だった!

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プロ野球の併殺打記録保持者、野村克也。この写真の打撃結果は不明だが、打球が足元でバウンドしているので、内野ゴロの併殺打だったかも?
プロ野球の併殺打記録保持者、野村克也。この写真の打撃結果は不明だが、打球が足元でバウンドしているので、内野ゴロの併殺打だったかも?

併殺打は、野球の公式記録の一つ。フェアグラウンドに転がった打球で併殺が成立した時に打者につく記録だ。

英語では「grounded into double play(GDP)」という。英語表記でわかるように、ライナーやフライ、三振などが絡んで併殺が成立しても打者には併殺打はつかない。あくまでゴロで併殺が成立した時だけだ。

野球ではごくまれに、三重殺(トリプルプレー)がある。三重殺になったゴロを打った打者には「三重殺打」がつきそうなものだが、三重殺打という記録はなく、併殺打がつく。

併殺打は打率などの計算には関係がない。併殺打がついたからといって打率が打数以上に下がることはない。しかし野球の新しい指標であるセイバーメトリクス系の「RC(Run Create)」や「WAR(Wins Above Replacement)」などでは、併殺打はマイナス評価につながるデータとなっている。

なお、日本プロ野球では併殺打は、1950年から記録されている。戦前、1リーグ時代は併殺打は記録されていなかった。またMLBでも記録していない年があった。

いずれにせよ併殺打は、打者にとってマイナス評価でしかない指標ではある。しかし併殺打は、ある属性の「価値ある打者」を浮かび上がらせる指標でもあるのだ。

NPBの通算併殺打10傑 その打者の通算本塁打数もつける

1.野村克也 378 併殺打 657本塁打
2.衣笠祥雄 267 併殺打 504本塁打
3.大杉勝男 266 併殺打 486本塁打
4.長嶋茂雄 257 併殺打 444本塁打
4.中村紀洋 257 併殺打 404本塁打
6.新井貴浩 242 併殺打 319本塁打
7.落合博満 236 併殺打 510本塁打
7.谷繁元信 236 併殺打 229本塁打
9.土井正博 235 併殺打 465本塁打
10.山崎武司 230 併殺打 403本塁打

右打者の通算本塁打数1位の野村を筆頭に右の長距離打者がずらっと並んでいる。錚々たる顔ぶれだ。野球では、左打席の方が右打席より一塁までの距離が数十センチ短い。そのために、左打者の方が右打者よりもセーフになる可能性が高くなる。

わずかの差だが、そのために通算併殺打は上位10人までがすべて右打者だ。左打者の最多併殺打は、11位タイに駒田徳広が229併殺で入ってくる。さらにその次は30位に昨年限りで引退した巨人、阿部慎之助の190併殺打だ。

しかし右打者ならだれでも併殺打が多くなるわけではない。スイングが速く、打ちそこないが速いゴロになる打者、つまり強打者が併殺打が多くなる傾向にあるのだ。

さらに、無死、一死で走者一塁、一二塁などのケースでは、普通の右打者は併殺を避けるために右打ちを指示されるが、中軸に座るような強打者の場合、そういう併殺機でもベンチの指示が出ずフリーで打つことが多いので、引っ張った当たりなどで併殺打が増えるのだ。

併殺打が増えるもう一つの要因は「鈍足」。当然ながら、足が遅い打者は併殺が多い。鈍足が多いと言われる捕手や捕手出身選手が通算併殺打の上位に多いのはそのためだ。

左打者の併殺打2位の阿部慎之助も捕手である。

そういう意味で「併殺打」と真逆の指標は「内野安打」だ。足が速い左打者で、ぼてぼてのゴロが多かったり、バントがうまかったりする打者が多い。長距離打者は内野安打が少ない。

「併殺打」は、右打者で打球が速く、打席で自由に打たせてもらえる強打者に多くなる。足は遅いが、打線から外すわけにはいかない選手も併殺打が多くなる。ある意味で併殺打は「右の強打者」の勲章のようなものだ。

ちなみにMLBの通算最多併殺打は、大谷翔平の同僚で、エンゼルスの強打者、アルバート・プホルズの395併殺打2位は連続試合出場記録保持者で知られるカル・リプケンジュニアの350併殺打。3位は、強打の捕手イヴァン・ロドリゲスの337併殺打。いずれも右打者。リプケンとロドリゲスは野球殿堂入りしている。プホルズも殿堂入りが確実視されている。

MLBでも、併殺打はやはり「右の強打者」の勲章なのだ。

しかしながら、いくら「勲章」であっても、併殺打はチャンスを一瞬で消してしまうから、多すぎるのはチームにとって迷惑だ。

1試合での併殺打の個人記録は「3」だ。過去に31回記録されている。

最近では、2015年4月11日、鹿児島でのソフトバンクー日本ハム戦で、日本ハムのレアードが1試合3併殺を記録している。レアードは残る1打席も三振。日本ハムは2−4で負けたが、レアードは一人で27アウトのうち7アウトを相手チームに進呈したことになる。

レアードはもちろん右打者、この年、日本ハムに入団したばかりの新外国人で三塁守備は光るものがあったが、打つ方はMLB通算6本塁打と未知数。

開幕早々、アウトの山を作った新外国人レアードに「大丈夫かいな」という視線が集まったが、栗山英樹監督はレアードを我慢して使いフル出場させた。この起用に応えてレアードは34本塁打97打点をたたき出し、チームのポストシーズン進出に貢献した。

シーズン最多併殺打は、1989年、オリックスの右の強打者ブーマー・ウェルズが記録した「34」。この年ブーマーは.打点、首位打者の二冠を獲得している。ブーマーは三冠王を獲得した1984年もリーグ最多併殺打(21)を記録している。

こうしてみると、併殺打は右の強打者の打撃好調のサインにも見えてくるのだ。

シーズンがまもなく始まる。試合を見るときに「併殺打」にも注目してみてはどうだろうか?

  • 広尾 晃(ひろおこう)

    1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイーストプレス)、『球数制限 野球の未来が危ない!』(ビジネス社)など。Number Webでコラム「酒の肴に野球の記録」を執筆、東洋経済オンライン等で執筆活動を展開している。

  • 写真岡沢克郎/アフロ

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