さんま、松本人志もスベってしまう「特番の特番」はなぜ笑えない? | FRIDAYデジタル

さんま、松本人志もスベってしまう「特番の特番」はなぜ笑えない?

  • Facebook シェアボタン
  • X(旧Twitter) シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン

話題にならず視聴率も1桁の苦境

テレビ業界はコロナ禍で思うような番組制作ができない状態が続く中、レギュラー番組のリモート化だけでやりすごすのは難しく、このところ“特番の特番(総集編、特別編)”が放送されはじめている。

もともと特番は改編期などにレギュラー番組を休んで放送する特別なものだが、現在はコロナ禍で発生した穴を埋めるように放送。しかも新作を制作できないから、過去に放送された特番を再編集した“特番の特番”を放送しているのだ。

しかし、これがことごとく失敗に終わっている。

5月30日『人志松本のすべらない話 ザ・ベスト』(フジテレビ系)は、「15年半のすべらない話から厳選したベスト版」と、うたいながらも世帯視聴率9.9%(ビデオリサーチ、関東地区)。

5月31日『傑作!新作!さんまのあんたの夢かなえたろか 特別編』(TBS系)は、正月のみに放送される貴重な特番であり、25年分の傑作に新たな撮影分を加えたにもかかわらず同8.1%。

6月1日『笑いの王者が大集結!ドリーム東西ネタ合戦超豪華特別編』(TBS系)は、6年分のネタから選んだ4時間特大版ながら同8.3%。

6月8日『令和に蘇る!スポーツマンNo.1決定戦レジェンド』(TBS系)は、各競技のスーパーアスリートを集めた伝説的な番組を令和に復活させたものの同4.6%。

明石家さんまや松本人志の冠番組でも世帯視聴率1桁に留まり、ネット上の書き込みも決して活発とは言えず、番組関係者の落胆は想像に難くない。

本来、特番は「豪華」「贅沢」なもので注目度が高く、それが長期に渡る放送を集約した“特番の特番”なら、なおのこと。つまり、とびきり特別な番組のはずなのに、なぜ失敗続きに終わっているのか?

明石家さんま、松本人志らの力をもってしても、視聴率はとれず…
明石家さんま、松本人志らの力をもってしても、視聴率はとれず…

「豪華」「贅沢」が色あせて見える理由

最大の理由は、“特番の特番”らしい「豪華」「贅沢」なムードやスケールを感じさせられなかったからだろう。そもそも特番は準備期間をしっかり取って制作し、小刻みなPRを重ねて放送していくものだが、今回はコロナ禍の緊急対応であるため、その「豪華」「贅沢」さが視聴者に伝わっていない。

それどころか視聴者は、「何で今これを放送するのか」「自信がある番組の総集編なんだろうけど唐突すぎる」などのコメントがネット上に見られたように違和感を抱いていた。「コロナ禍で視聴者がストレスのたまる日々を過ごしているから、“特番の特番”で思い切り笑ってもらいたい」という狙いは理解できる。しかし、視聴者は彼らが思っているよりも、テレビ局側の苦しい台所事情を感じ取り、笑いづらい感覚なのではないか。

「年月を経ても面白い」「何も考えずに笑える」はずの映像が、どこか色あせたものに見えてしまうのは、コンテンツの問題ではなく、視聴者に与える印象にほかならない。言わば、各局の貴重なアーカイブを安売りするような形になってしまったのだ。

それを分かった上で前述した“特番の特番”をすべて見直してみると、すべて面白く何度も笑わせてもらった。もともと質の高い番組の面白いところを集めたのだから当然なのかもしれない。

通常“特番の特番”は、年末年始や年度末の3月あたりの日本人にとって特別な時期に放送され、だからこそ視聴者も「これは豪華で贅沢な番組なのだろう」という確信をもって見るもの。もし年末年始や年度末の3月に放送されていたら、世帯視聴率もネット上のコメントも、まったく違った結果になっただろう。

芸能人がネット動画に本格参戦した影響

もう1つ見逃せないのが、ネット動画の存在。現在はYouTubeなどの無料動画から、定額制の動画配信サービスまで、ネット上に膨大なコンテンツがあふれているため、テレビの“特番の特番”への期待感はかつてほどではなくなりつつある。

とりわけ芸人たちのネタやトークは、この1年あまりでSNSやYouTubeなどに自らアップするのが当然のようになった。しかも緊急事態宣言中にその数はさらに増え、過去のネタはもちろん新作も多く、スピード感もある。また、好きな時間に好きな場所で見られるだけに、それなりに視聴習慣の定着したレギュラー番組はまだいいとしても、唐突に放送される“特番の特番”、なかでも芸人のネタ番組が厳しいのは当然なのかもしれない。

とはいえ、そのレギュラー番組も、リモート出演を使った企画・演出に視聴者が慣れて飽きはじめているなど、明らかに鮮度が落ちている。元をただせばリモートも苦肉の策に過ぎず、映像の質が通常より下がり、やり取りがぶつ切れで盛り上がりに欠けるなどの問題点に視聴者が気づいているのだろう。

だからこそ“特番の特番”を放送したくなる気持ちも分かるが、使い勝手の良さという点でネット動画には勝てないテレビは、「さらに知恵を絞り、オリジナリティの高いコンテンツを見せていく」という姿勢が求められている。

  • 木村隆志

    コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。ウェブを中心に月20本強のコラムを提供し、年間約1億PVを記録するほか、『週刊フジテレビ批評』などの番組にも出演。取材歴2000人超の著名人専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、地上波全国ネットのドラマは全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。

  • 撮影坂口靖子

FRIDAYの最新情報をGET!

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事