『エール』裕一と音を支える名脇役たちを休止期間中に総ざらい!

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「次の曲が売れなかったら、契約金を一括返済しろ!」とコロンブスレコードの廿日市(はつかいち)(古田新太)にどやされていた主人公・古山裕一(窪田正孝)が、周囲の人の協力により大ヒット曲を誕生させた。一方で音(二階堂ふみ)は、妊娠・出産のため、歌手になるという夢をいったん裕一に預けることに。

6月5日放送の第10週「響きあう夢」では、古山家に元気な女の子が誕生するなど、前半の集大成ともいえる内容だった。

主人公・古山裕一を演じる窪田正孝 写真:アフロ

そこで、これまで裕一を叱咤激励(?)してきたコロンブスレコードの面々や、音を支えてきた音楽学校の関係者を演じる役者と、モデルになった人物についてまとめて振り返ってみたい。

ミュージックティーチャー・御手洗清太郎(古川雄大)

前半でもっとも話題となったのが、「ミュージックティ」のワードでツイッターのトレンド入りを果たした、古川雄大演じる御手洗清太郎(みたらい・きよたろう)。めちゃくちゃイケメンで、女性的志向があって、会話にちょいちょい英単語を挟んでくるという、癖が強すぎるキャラクター性だけでおもしろ要素がてんこ盛りだが、決定的だったのは4月28日放送の第22話での一幕。

音から別れの手紙をもらい、居ても立ってもいられず音の故郷・豊橋を訪れた裕一は、音に御手洗を紹介される。御手洗を「先生」と呼んだ裕一に対して、自分を「ミュージックティーチャーと呼ぶように」と言おうとしたセリフが、コント的“お約束”演出により、「ミュージックティ」でバッサリと切られてしまったことが、視聴者に大ウケ。「おもしろい」「笑える」と、SNSで話題を呼んだのだ。

イケメンを最大限に活用したギャップでお茶の間を沸かせた古川雄大は、“テニミュ”の略称でおなじみの大ヒット舞台『ミュージカル テニスの王子様』出身。1987年7月9日生まれの32歳で、舞台を軸に映画やテレビドラマでも多数の出演作を持つ注目の若手俳優だ。

漫画やアニメを原作とする2.5次元舞台だけでなく、『ミュージカル ロミオとジュリエット』のロミオ役(大野拓郎とダブルキャスト)や『ミュージカル モーツァルト!』のモーツァルト役(山崎育三郎とダブルキャスト)、『ミュージカル エリザベート』のトート役(山崎育三郎、井上芳雄とトリプルキャスト)など、多数の舞台への出演経験があり、2019年には第44回菊田一夫演劇賞を受賞している。

さらに、ダンスコンテストやイベントなどで受賞するなど、ダンス経験も豊富な上、“ミュージックティ”の名にふさわしくミュージシャンとしても活動中で、現在までにシングル4枚、フルアルバム2枚、ミニアルバム5枚をリリース。朝ドラの出演でますます注目されており、今後の活躍も期待できそうだ。

ちなみに御手洗のモデルとなった人物は、音のモデルとなった古関金子が師事した、小学校の音楽教師・小股久。若かりし頃の面影がそっくりだという美輪明宏など、複数の説がネット上にあがっている。

日本作曲界の重鎮・小山田耕三(志村けん)

滅多なことでは俳優の仕事を受けてこなかった故・志村けんが、初めてドラマ出演することで注目を集めた小山田耕三は、作曲家の山田耕筰をモデルとしている。

山田耕筰は、日本初の管弦楽団をつくるなど日本での西洋音楽の普及に尽力し、オペラや管弦楽曲から童謡「からたちの花」「赤とんぼ」まで、数多くの名曲を生み出した音楽家。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団やレニングラード・フィルハーモニー交響楽団などで指揮するなど、日本人として初めて欧米で名を馳せた大人物だ。

「エール」では、豊橋で行われた演奏会の記事で、裕一について「小山田の後継者がようやく現れた」と書かれているのを読み、廿日市に命じてコロンブスレコードと専属契約を結ばせた。裕一は、小山田のような巨匠に認められて引き上げてもらったと大喜びしていたが、第35話で「同じ青レーベル(西洋音楽)で音楽が書けるように精進します」と挨拶をすると、「君は赤レーベル(流行歌)専属だよね?」と格の違いを強調。

さらに第38話では、「自分の音楽を捨てたくない」と裕一が渾身の力を振り絞って書き上げた交響曲「反逆の詩」の楽譜に目を通すも、見ただけで楽譜を投げ捨てて出て行くなど、専属契約の推薦をした割には、裕一に対して冷たい態度だった。

「この人、本当に裕一を応援しているのかな?」と疑問を持ち始めたころ、第48話で真相が明かされた。裕一が作曲した「船頭可愛や」を、オペラ歌手・双浦環(ふたうら・たまき)(柴咲コウ)が歌ってレコードにするという話を、コロンブスレコードの社長が小山田に気を遣って認めなかったため、環が直接交渉に出向く。その際、小山田の表情から、彼が自分の立場を脅かす新しい才能に嫉妬していることを看破する。つまり、自分の目の届く場所に裕一を閉じ込め、世に出る前に潰してしまおうとしていたのだ。

確かに小山田に突き放された裕一は自信を失い、一時は作曲を放棄した。しかし音をはじめ、周囲の人に励まされながら書いた早稲田大学の応援歌「紺碧の空」で再起を果たし、順風とはいえないまでも、作曲家としての道を歩き始めたのだ。小山田のおかげでレコード会社と契約することができ、契約があったからこそ、音と結婚して東京に住むことができたと考えると、ある意味小山田も裕一の応援者であったといえる。

印象的だったのは、裕一の才能を評価する一方で、彼に嫉妬して邪魔する弱さを抱えた小山田を演じた志村けんの、シリアスで人間味あふれる演技。志村の出演回の放送が、3月29日にコロナウイルスへの感染による合併症で急逝した後だったため、改めて志村の死を悼む声が相次いだ。

未収録シーンもあったが、制作サイドは代役を立てないことを発表。志村の役者魂に感銘を受けたスタッフらが、志村に敬意を表しての措置だという。

コロンブスレコード・廿日市誉(古田新太)

古田新太演じる廿日市誉(はつかいち・ほまれ)は、小山田の推薦を受けた裕一と契約を結んだ、コロンブスレコードのディレクター。廿日市は、西洋音楽を扱う青レーベルではなく、流行歌を扱う赤レーベルを手がけており、そのため裕一はなじみのない流行歌の作曲に挑むことになった。

廿日市は、国際作曲コンクール二等受賞を掲げて裕一の売り込みに来た音に対して、「うちじゃ要らないな」と断った経緯がある。しかし青レーベルの重鎮・小山田に契約を頼まれて手の平を返し、1年3500円(現在の価値で約1000万円)の報酬額で契約。しかし、契約金は貸し付け金のようなもの。だから廿日市は、「早くヒット曲を出して会社にお金を返そうねぇ」などと、コトあるごとにプレッシャーをかけてくる。

そんな風に、ニコニコ顔でキツイ物言いをするところや“長いものには巻かれろ”主義なところ、ノラリクラリとした態度でなにを考えているのかイマイチつかめないキャラクターに、古田の雰囲気と演技がピタリとハマっている。朝ドラ『あまちゃん』での古田を思い出した人も多かったようだ。

一見キツそうな廿日市だが、己の軸をきちんと持った立派な会社人。第34話では、不採用続きの裕一に対し、「賞を取ろうが、庶民の喜ぶ音楽を作らなければ、プロ失格だ」として、来期の契約額を1700円に下げると言い渡したが、契約自体は継続する温情を見せた。そして第44話では「福島行進曲」で裕一を作曲家デビューさせ、第47話では「船頭可愛や」の発売を決める。

残念ながらどちらもヒットせず、契約を解除しようとしたとき、環から「船頭可愛や」を歌いたいという申し出を聞いて、大喜び。さっそく会社の幹部に訴えるも、赤レーベルの歌を青レーベルの歌手が歌う前例がないので、小山田が良い顔をしないと認められず、意気消沈してしまう。

音楽ディレクターとして「売れる!」と判断した曲を、まったく違う思惑で会社に潰されるのは、やはり廿日市自身にとっても納得のいかないことだっただろう。だから環から「勝負に挑んで大きな利益を得るか?」と促され、悩んだ末に環に自分のディレクターとしての首も賭ける決断をしたのだ。

蓋を開けてみれば、廿日市のカンは見事に的中し、レコードは大ヒット。相乗効果で藤丸盤の「船頭可愛や」も売れるという、大満足の結果になった。これも、裕一を見捨てなかった廿日市のおかげ。今後も裕一といっしょに、ヒットを飛ばしていって欲しいと願うばかりだ。

昭和の売れっ子作曲家・木枯正人(RADWINPS 野田洋次郎)

RADWINPSは、世界的大ヒットとなった映画『君の名は。』の主題歌「前前前世」をつくったバンドで、野田はバンドのボーカルとギターを担当しているだけでなく、作詞作曲も担当している。また「illion(イリオン)」名義でソロ活動しているほか、俳優業、エッセイストとしても活躍しているマルチクリエイターでもある。

木枯(こがらし)のモデルは、歌手の藤山一郎(『エール』では、柿澤勇人が演じる山藤太郎として登場)と組んで、「酒は涙か溜息か」や「丘を越えて」、「東京ラプソディ」など、数々のヒット曲を生み出した、昭和を代表する作曲家・古賀政男。不況や戦争など、時代に翻弄されて幾度となく挫折を経験するも、苦境を乗り越えて何度も黄金期を飾った“不死鳥伝説”が残っている。

野田が演じる木枯は、廿日市が連れてきた新人作曲家として登場。裕一とほぼ同期で、不採用続きの時代を2人で励まし合って過ごした。木枯は、裕一より先にレコードデビューを果たすと、ヒット作を連発し売れっ子作曲家に。しかしその実績に傲ることなく、西洋音楽の素養がある裕一をリスペクトし、よきライバルとして友人として、親しく付き合いを続けていた。

自分が売れようが売れまいが、裕一に対する変わらぬ態度と、同業者ならではの的確なアドバイス、そしてクールな態度ながらも裕一を心配し、いつも勇気づけてくれる2人やりとりは、見ていてホッコリする。裕一が過度に卑屈にならず、素直に木枯の成功を喜べる性格だからこそ、2人の友情が続いているのだろう。

男同士特有のチョイとしたワルさを教えてくれるのも、友人ならでは。第41話では、「紺碧の空」のお祝いに、裕一を女給のいる「カフェー・パピヨン」に連れて行く。昭和初期のカフェーは、現在のバーやクラブのようなもの。裕一の少年時代が描かれた大正後期から昭和初期にかけては、カフェーをテーマにした“カフェー歌謡”という歌が流行していたので、「大衆を知るため」という木枯の誘いは的を射ている。

ともあれ、真面目な裕一が、ひとりでは絶対に顔を出しそうにない場所なので、今後も木枯にいろんな場所に連れ出して、良い刺激を与えて欲しいものだ。

エリート歌手・山藤太郎(柿澤勇人)

木枯の項で触れた通り、山藤太郎のモデルは、古賀政男と組んで「丘を越えて」や「長崎の鐘」などのヒット曲を歌った歌手の藤山一郎だ。本名の増永丈夫では、クラシック音楽の声楽家、バリトン歌手としても活躍し、さらに作曲や編曲、指揮者としても名を馳せた大人物。

音楽家としての資質を育むのに最適な環境で育ったため、幼少期からピアノを習い、慶應義塾幼稚舎に入学する時期にはすでに楽譜を読みこなせるようになっていた。しかも、幼稚舎時代に教師の紹介で童謡歌手となり、レコードを出したこともあるという。その後、藤山は慶應義塾普通部へ進学し、在学中に応援歌「若き血」の歌唱指導をした。

卒業後は、東京音楽学校予科性学部に入学したが、在学中に不況の煽りで実家の事業が廃業となり、家計を助けるためにレコードの吹き込みの仕事を始めたという。藤山一郎という名前は、校外演奏を禁止した学則違反の発覚を怖れ、急遽つけた芸名だった。

「エール」では、藤山の華麗な経歴をそのまま山藤に反映。第36話で、山藤の経歴を聞いた裕一が「何でこんなことしてるんですか?」と口にしてしまったのは、独学の自分とは違い、きちんとした学校で学び評価を得て、立派な活躍の場を約束されている音楽エリートが、“お金のために”流行歌を歌っていることに、違和感を覚えたからだろう。さらにサロンでは、「若き血」の歌唱指導をしたと山藤に明かされた裕一。厳しいプロの世界で未だ芽が出ずにいる裕一にとって、「独学」の引け目をまざまざと見せつけられたシーンとなった。

収録で「丘を越えて」と「長崎の鐘」を歌うため、何度も藤山の歌唱や発声を勉強して現場に望んだという柿澤勇人は、劇団四季で『人間になりたがった猫』、『春のめざめ』で主演を務めたミュージカル俳優だ。2009年に劇団四季を退団した後は、『スリル・ミー』、『ロミオとジュリエット』、『デスノート The Musical』など数多くのミュージカル舞台に出演する一方で、『ピースボート –Puece Vote-』や『平清盛』、『軍師官兵衛』などのテレビドラマ、『カイジ2』や『明烏』などの映画に俳優として出演。演劇界のトップスターのひとりとして、今後さらなる活躍が期待されている。

「船頭可愛や」の作詞家・高梨一朗太(ノゾエ征爾)

第47話で、木枯が裕一と引き合わせたのが、作詞家の高梨。「福島行進曲」を聴いて裕一に興味を持ち、曲を作って欲しいと言った人物だ。高梨は、木枯が作曲し、山藤が歌った大ヒット歌謡曲「酒は涙か溜息か」の作詞家でもある。だから廿日市は、「船頭可愛や」は高梨が作詞をしたと知ってすぐにレコードの発売を決めたのだ。

丸メガネでいかにも人の良さそうな高梨を演じたのは、ノゾエ征爾。劇団はえぎわの主催者で、同劇団全公演の作・演出を手がける劇作家、演出家としても活躍している。「どこかで見たことがある!」と思ったら、2019年の大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺』の松内則三役で出演していた。主な活躍の場が演劇であるため、朝ドラの出演で初めて知った人もいるかもしれないので、プロフィールを少し紹介しよう。

ノゾエ征爾は、1975年生まれ岡山県出身の45歳。8歳までサンフランシスコで過ごした経験があり、帰国後日本の学校に進学。青山学院大学在学中、俳優で劇作家、演出、脚本家、映画監督として活躍する松尾スズキのゼミに参加したことをきっかけに、本格的に演劇活動を開始し、2012年に「○○トアル風景」の脚本で、第56回岸田國士戯曲賞を受賞している。

2014年には、舞台『TOKYOてやんでぃ』で初主演。2016年には故・蜷川幸雄の意を継いで、世界最大級の大群衆劇「1万人のゴールド・シアター2016『金色交響曲〜わたしのゆめ・きみのゆめ』」の脚本と演出を手がけている。彼が今後どんな作品を世に送り出していくのか、注目したい。

世界的オペラ歌手・双浦環(柴咲コウ)

双浦環(ふたうら・たまき)は、「歌、歌いたい!」と、幼い音に歌手の道へ進むきっかけを与えた張本人。第41話では、東京音楽学校に入学した音と、特別講師として招かれた環が再会を果たし、環が記念公演『椿姫』のヴィオレッタ役選考会で審査員を務めることがわかった。

小さかった音に出会ったことを憶えていたものの、環が注目していたのは、抜きんでた才能で頭角を現していたクラスメートの夏目千鶴子。しかし最終選考会で、恋人の幸せを願い自ら身をひいたヴィオレッタの、狂おしい心情を見事歌い上げた音に可能性を感じ、主役に推した。練習では、歌の道を極めた者だからこその厳しい指摘と的確なアドバイスで音を導いていく。

モデルとなったのは、国際的なオペラ歌手・三浦環。1914年にドイツに留学した後、第一次世界大戦の戦火を逃れてイギリスに移動し、1915年にデビューし成功を収めた。同年渡米し、ボストンで『蝶々夫人』を演じて好評を得て、欧米を中心に活躍。特に出演2000回を達した『蝶々夫人』にちなみ、“マダム・バタフライ”と呼ばれることも。

揺るぎない自信を持ち常に落ち着いた所作をする環は、冷たくて情けのない人物のように感じるシーンも多いが、音楽に対してとても真摯に向き合う細やかな心を持った人物だ。

第48話では、裕一が作曲した「船頭可愛や」が、西洋音楽をベースにしながらも流行歌として親しみやすさを兼ね備えている良い曲だと評価した。そして、自ら歌うことを申し出ただけでなく、レコード販売に反対する小山田に直談判をし、尻込みする廿日市の尻を叩くなど積極的に動いて、古山家の窮状を救ってくれた。

第49話で、妊娠が判明した音に「例え子どもが死にそうな時でも舞台に立つのがプロだ」と、音の覚悟を質すシーンでは、プロとしての矜恃の高さを見せた。悪阻(つわり)がひどく、満足に練習に参加できなくなった音が辞退を申し出た時には、「残念だけど平穏な幸せを選ぶのは当然だ」と、貫禄もたっぷり。夢を諦めずに、子どもも夢も夫婦2人で育てると言い切った音の言葉に、驚きと同時にどこか羨ましそうな視線を送った環。彼女も昔、人生の選択を迫られ、そして歌を選んだのではと人物造型の深さを感じさせる、すばらしい演技だった。

柴咲コウは女優のイメージが強いため、第8話の初登場時に見事な歌声を披露して驚いた人もいたようだ。柴咲は2002年に歌手デビューを果たしていて、RUIの名義でリリースした「月のしずく」(映画『黄泉がえり』主題歌)で、100万枚を超えるヒットを出している。その後「かたち あるもの」(ドラマ『世界の中心で、愛をさけぶ』主題歌)をヒットさせたり、ボーカロイドのベースをこなしたりと、積極的に歌手活動を展開。

自曲のほどんどの作詞を手がけ、原作の内容をよく理解していると評価も高く、『名探偵コナン 異次元の狙撃手』の主題歌「ラブサーチライト」や、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の挿入歌「永遠のAstraea」に参加するなど、ドラマやアニメ作品とのタイアップも多い。

2018年には、全編英語詞のミディアムバラード「Blessing」をリリースし、海外向けのアーティスト名「MuseK(ミュゼック)」としての活動を発表。役柄と同じく世界に羽ばたくアーティストとして、ますます精力的な活動を行っている。

音楽に人生を捧げる美少女・夏目千鶴子(小南満佑子)

音楽がテーマということで、ミュージカル出身の俳優が多く起用されている中でも、特にその歌声で注目を集めたのが、夏目千鶴子を演じる小南満佑子。千鶴子は「帝国コンクール」で最年少で金賞を受賞した“10年に1人の逸材”という設定で、環も一目置く実力の持ち主。小さいころから、音楽のために全てを犠牲にするストイックな人生を歩んできたため、その言動はかなりキツイ。

第32話で音がランチに誘うと、「友だちこっごは性に合わない。ここにいる人はみんなライバル」だと言い放つ。プリンスこと佐藤久志(山崎育三郎)とデュエットしたオペラ・アリアがすばらしく、「その才能が羨ましい」と言われると、才能という言葉が大嫌いで、「努力もせず羨むだけの人は理解できない」とバッサリ。

さらに、家庭のごたごたで学校を休む音に、本気で歌手を目指しているのかと詰問したり、音楽だけでなく家庭や友だち、恋愛もなんでも欲しがる強欲な人には負けないと、音にライバル心を剥き出しにしたりと、天才特有の繊細さとプライドの高さを見せている。

しかし第45話、すべてを賭けて勝ち取ってみせると宣言した最終選考会で、情感のこもった音の歌を聴いて動揺して実力を発揮できずに、ヴィオレッタ役を逃してしまった。第49話で妊娠した音の体を心配するくだりは、見事役を射止めた音を認めたからこその態度の変化だろう。共演者に主役交代を勧められても、応じようとしなかったのは、千鶴子の心遣いかプライドか。

結局音は降板し、公演はどうなったのか明らかにはされなかったが、千鶴子はその後アメリカに留学。第50話では「負けたままでは納得できないので復帰して欲しい」という手紙が、音に届いた。

千鶴子のモデルは、“世界のプリマ・ドンナ”と呼ばれたソプラノ歌手・関屋敏子。代々福島・二本松潘の御殿医という由緒ある家柄に生まれ、4歳から琴や舞踊、長唄を習い音楽の才能を育み、小学校3年生で皇后御前演奏の独唱者を務めた。その後、三浦環(双浦環のモデル)に師事。初めての発表会で見事なイタリア語の独唱を披露し“天才音楽少女”と報道されたことや、イタリア人歌手のアドルフォ・サルコリに声楽を学んだことなどは、『エール』の千鶴子のエピソードにも活かされている。

小南自身も、千鶴子に劣らぬ立派な経歴の持ち主。10歳から声楽を学び、国内だけでなくイタリアやアメリカの声楽コンクールで入賞しており、その歌唱力は折り紙つき。実力は十分ながら「若すぎる」という理由で、コゼット役ではなくアンサンブルキャストとして舞台『レ・ミゼラブル』でデビュー。その後『Endless SHOCK』のヒロイン役を経て、2017年に念願のコゼット役で『レ・ミゼラブル』30周年記念公演に出演を果たした。

その後ミュージカル舞台への出演を重ねる一方で、テレビにも出演。『エール』への出演で、歌声だけでなく、気品と美貌そして華やかさを備えた女優として、お茶の間人気も急上昇中だ。

裕一の恩師・藤堂清晴(森山直太朗)

裕一が音楽家の人生を歩むキッカケを与えたのが、裕一の小学校の担任・藤堂清晴だ。東京から福島に赴任してきた藤堂は音楽教育に熱心で、小学生に作曲させる型破りな指導を行ったことで、裕一の天才的な音楽センスを発見。第3話では、わざわざ裕一の生家である呉服屋・喜多一を訪れて父・三郎にそのことを告げると共に、「人よりほんの少し努力するのが辛くなくて、ほんの少し簡単にできることが、お前の得意なことだ。それが見つかったらしがみつけ、そうすれば必ず道がひらく」と裕一に教えた。

その言葉は、運動も勉強もできず自信が持てなかった裕一の心を明るく照らし、いじめっ子たちに立ち向かう勇気をも与えてくれた。なによりも、「自分を認めてもらえる嬉しさ」を感じた裕一は藤堂に大きな信頼を寄せ、母の生家・権藤家の養子になるか作曲家になるか悩んだときにも、どうしたらよいか相談しているし、逆に藤堂が親孝行のため教師をやめるか悩んだときは相談に乗るなど、心温まる交流が続いている。

第51話では、赴任先である福島の小学校の校歌作曲を裕一に依頼し、そのことを裕一の母・まさに伝え、疎遠となっていた家族と逢うキッカケを作るなど、いつまでも心優しい先生であり続けている。まさに裕一の人生の教師ともいえる藤堂は、限られた出演にも関わらず名言だらけ! 前述の第3話のセリフもそうだし、第18話の「自分の人生を生きる。天から授かった宝物はドブには捨てない」も、心にジンと響く良いセリフだ。

その藤堂を演じるのは、「この広い野原いっぱい」や「涙そうそう」、「さとうきび畑」などのヒット作を持つ森山良子を母に、グループサウンズミュージシャンのジェームス滝を父に持ち、自身も「さくら(独唱)」でNHK紅白出演を果たした森山直太朗。『エール』第3話では、なにげに演じている森山直太朗のオルガン演奏が楽しめたのもよかった。残念ながら、藤堂先生の演奏を楽しめる機会はもうなさそうだが、放送休止期間中の6月29日より『エール』第1話からの再放送が始まるので、改めて聞き惚れたい。

こうしてズラリと並べてみると、役柄と演者自身が重なるようなキャラクター性を持つ人物ばかり。特に、音楽の世界に身を置いている役者が裕一や音へ投げかけられる言葉の数々は、どれも重みが違って聞こえる。

音楽というジャンルのみならず、「プロとはなにか」と職業人としての姿勢を考えさせられる金言がたくさんあるので、再放送を楽しむときには、自分の心に響くセリフを探してみてはどうだろうか。

  • 取材・文中村美奈子

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