トランプと習近平の代理戦争で「台湾有事」勃発の可能性 | FRIDAYデジタル

トランプと習近平の代理戦争で「台湾有事」勃発の可能性

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14ポイント差の衝撃

6月8日にCNNが公表した世論調査が、全米に衝撃を与えている。次期米国大統領選でトランプ大統領に投票すると回答した人は41%、これに対して民主党のバイデン候補は55%と大きく上回ったのだ。14ポイントという大差に慌てたトランプ陣営はCNNに調査の撤回と謝罪を要求したが、CNNは当然ながら要求を拒否した。

コロナ禍の前まで、好景気に湧く米国でトランプ大統領の再選は固いとも目されてきた。対する民主党の候補者選びは迷走。オバマ民主党政権で副大統領を務めたバイデン氏が指名を確実にしたが、新鮮味に欠けることは否めなかった。

ところが、そうした情勢を一変させたのが、黒人圧死事件に端を発する全米の暴動だ。5月25日、ミネソタ州ミネアポリスで黒人男性ジョージ・フロイド氏が白人警官による逮捕の際に死亡。これをきっかけに、人種差別抗議のデモと暴動が全米に吹き荒れた。

よりによってバイデン候補は黒人票に強いことで有名だ。焦ったトランプ大統領は当初、首都ワシントンでのデモ制圧に連邦軍を動員しようとするなど強硬策を取ろうとしたが、激しい批判を浴びて断念に追い込まれた。

米国事情に詳しい外交関係者はこう言う。

「マティス前国防長官が『アメリカを分断しようとしている初めての大統領だ』と痛烈に批判、現役のエスパー国防長官も連邦軍出動を拒否したのが決定的でした。トランプ氏に公然と反旗を翻した閣僚は即座に更迭されるのが通例でしたが、トランプ大統領はエスパー氏を解任できていません。

6月12日にはアトランタで黒人男性が警官によって射殺される事件も発生、混乱は収まっていません。11月3日の大統領選挙でトランプ氏が負ける可能性が現実味を帯びてきたという雰囲気が、ワシントンでは広がりつつあります」

こうした米国の混乱を見透かすかのように、中国政府が攻勢を強めている。

5月28日には全国人民代表大会(全人代)が、香港立法会(議会)での審議を経ないで「香港国家安全法」を導入することを決定。昨年の「逃亡犯罪人引渡条例」への抗議デモで見られたような香港の民主化運動は今後、国家転覆や外国勢力との通謀の名目で徹底的に取り締まられることになる。香港の民主化運動が先鋭化して「独立運動」の様相を呈するようになればなるほど、袋小路に陥る可能性が高い。

香港の将来を見限った若者や富裕層の海外脱出が既に始まっているが、最後まで抵抗する民主化勢力に業を煮やした林鄭月娥長官の「要請」に応じて、人民武装警察あるいは人民解放軍が香港に進駐するという「悪夢」も、絵空事ではなくなってきているのだ。

一方で、トランプ政権は中国制裁の強化に乗り出している。米中貿易紛争はコロナ禍で一時的に停滞状態にあったが、トランプ政権は5月15日、台湾TSMC社などの受託製造会社(EMS)を通じた半導体の対中輸出規制を強化した。実質的にファーウェイを狙い撃ちした形だ。

「戦時大統領」を気取ってコロナ対策の指揮を取っていたトランプ大統領だが、行きあたりばったりの方針に批判が殺到しており、全米の感染確認者数は現時点で200万人、死者は11万人を超えている。大恐慌以来の不況到来も確実視される中、トランプ大統領が批判の矛先を変えるべく中国叩きに熱を入れ始めたのだ。5月29日には中国寄りだと批判していたWHOからの脱退も表明している。

米中激突、これからどうなるか?

今後トランプ大統領が、香港への攻勢を強める中国政府に対して、対中輸出入の全面禁止など衝撃的な貿易政策を取ってくる可能性はゼロではない。しかし、サプライチェーンを中国に依存する米国自身が、逆に打撃を受けかねない。

先の外交関係者はこう指摘する。

「トランプ氏は、2018年4月にシリアに対して突然、105発のミサイルを打ち込んでいます。アサド政権が反政府勢力に化学兵器を使用したことへの報復という名目ですが、世界はド肝を抜かれました。今回、再選に赤信号の灯ったトランプ大統領が求心力強化を図るために、同じようなことをやらないという保証はありません」

もしそうだとした場合、トランプ大統領はどこをターゲットにするのか。内線状態だったシリアとは違い、香港にミサイルを打ち込むわけにはいかない。香港はあくまでも中国の領土であり、「一国二制度」の原則の下で主権は中国にある。それに中国政府による香港制圧は実質的にすでに最終段階に入っており、手遅れだとも言える。

いま外交筋で囁かれているのは、「台湾有事」の可能性だ。

1月11日の総統選で蔡英文氏は「香港の次は台湾だ」と訴え、反中国票を掘り起こして圧勝した。中国の習近平政権側から見れば、かつてないほど対台湾関係が悪化している。中国にとっての「核心的利益」はもともと台湾が本命であり、国共内戦以来、「台湾併合」は中国共産党の悲願でもある。

その台湾で「有事」が起きた場合、トランプ氏は米軍の最高指揮官として「自由を守る偉大な大統領」を演じることができる。劣勢の大統領選を挽回する機会としてこれほどのものはないだろう。例えば、台湾海峡で米中の艦船が接触事故を起こすなどの「偶発事故」が発生し、両軍が一触即発になるというような事態が想定されるのだ。

「台湾有事は、突発的に発生する可能性はゼロではありませんが、全面戦争になることがないように軍事バランスと部隊運用は制御されています。むしろ、あるとしたら国際政治における一種の『シナリオ』としてでしょう。

東アジアでの緊張激化が『演出』され、開戦前夜に各国のリーダーによる外交交渉によって平和的解決が図られるというシナリオなら、トランプ大統領だけでなく、夏の北戴河会議前後に国家主席続投へ向けて成果をアピールしたい習近平主席も、総統選を争った韓国瑜・高雄市長を追放するなど、国民党勢力を一掃しつつある蔡英文総統も乗りやすいからです」(前出)

万が一、この「悪夢のシナリオ」が現実のものとなったら、日本はどうなるか。中台サプライチェーンは再び動揺し、コロナ禍で喘ぐ日本経済が更なる打撃を受けることは間違いない。他方で政治の世界では、長期政権の斜陽化が顕著になる中、安倍総理が2019年のイラン危機と同じように、得意の外交分野で「仲介役」を買って出ようとするだろう。

しかし、茂木敏充外相と河野太郎防衛相というハードネゴシエーションにうってつけの布陣を敷いている幸運があるとはいえ、コロナ禍の下で「日本経済が中国のサプライチェーンにどれだけ依存しているか」という国家としての戦略的弱点を露呈してしまった日本が果たして、米中の狭間でバランサーの役割を担えるかは疑問符も付く。

いずれにせよ、「米国の暴動」と「香港のデモ」が交差する中で、実は「台湾」の行く末が国際政治の焦点となっている、ということだ。北朝鮮の金正恩委員長死亡説が流れ「朝鮮半島有事」が真剣に危惧されていた4月とは事情が変わっている。

韓国では4月15日の総選挙で、コロナ対策が評価された与党「共に民主党」が圧勝、親北路線を取る文在寅大統領が政権基盤を強化した。北朝鮮の金正恩委員長死亡説もフェイクと判明。台頭してきた妹・金与正氏の対韓強硬姿勢が突出し、6月16日にはケソン(開城)にある南北共同連絡事務所を爆破する暴挙に出たものの、彼女が朝鮮人民軍を掌握している訳でもなく、挑発で終わるだろう。

それに対して、トランプ大統領と習近平主席のいわば代理戦争として、「台湾有事」勃発というシナリオが発動される可能性は否定できない。

日本としては尖閣諸島の領土問題だけではなく、貿易国家にとっての戦略的な死活的問題として、これからの事態に対処していかなければならないだろう。

  • レイモンド・ベイダー

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