映画が描いてきた「Black Lives Matter」の深層

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白人警官に暴行されアフリカ系アメリカ人のジョージ・フロイドが死亡した事件(2020年5月20日)。これを契機に日本でも急激に認知度が高まったのが「#Black Lives Matter(以下#BLM)」運動だ。「黒人の命は大事」などと日本語に訳されているスローガンはそもそも何を意味するのか?

ミネソタ州ミネアポリスの街角で、白人警官が膝で黒人男性ジョージ・フロイドの首を押さえ付け続けた結果亡くなった。時間にすると8分46秒。たまたま居合わせた人たちの携帯電話でその様子は撮られ、そしてSNSにアップされ全世界に拡散していった。

映像を見た人たちから抗議の声が上がり、以前から続いていた「#Black Lives Matter」運動と連携して広がっていく。そして事件から6日後の5月26日から、ミネアポリスを中心に抗議運動が始まった(加害者の警官はまだ逮捕されていなかった)。やがて抗議運動がアメリカ全土で行われるようになり、ようやく5月29日に加害者の警官の一人が逮捕された。今でも抗議運動は全米各地で続き、死亡事件も発生している。

なぜ「#BLM」運動が広がって行き、ここまで影響力を及ぼしているのか? 日本ではあまりピンとこないかもしれない。そんな疑問に答えてくれる1つが映画だ。日本でも比較的に見やすい作品を通じて「#BLM」の精神をお伝えできればと思う。

『ヘイト・ユー・ギブ』(2018年)…#BLMの背景を克明に描く必見作

この作品ほど、ジョージ・フロイド事件を発端にして起きた一連の状況を克明に描いている作品はないだろう。本作は、幼馴染が警官に殺されてしまい、デモや抗議運動に参加していく少女を描いた映画だ。作家アンジー・トーマスが学生時代にオスカー・グラント事件(詳細後述)をきっかけにして起きた抗議運動に参加した経験から書いた小説『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ』が本作の原作である。

原作小説は、サウスカロライナ州の警察組合から「警察妨害を洗脳している」という理由で、地元の学校が発表した「夏のおすすめ読書一覧」から外すことを要請されたりした。本作は、なぜ白人と黒人の間で人種に対する考え方が歪んでしまっているのか? そんな疑問に答えてくれる。

今回のジョージ・フロイド事件への抗議運動の際、テキサス州ヒューストンに住む18歳の黒人男性が、母から言われた「16のやってはいけないこと」をSNSで発信し、日本でも話題になった。『ヘイト・ユー・ギブ』でも冒頭で主人公の父がブラックパンサー党の十項目綱領を主人公に教えこみ、運転中は気を付けるように言われている。

「#BLM」が生まれたきっかけが、2012年フロリダ州で起きたトレイボン・マーティン事件だった。自警団を名乗るジョージ・ジマーマンという男が、若干17歳で丸腰のトレイボント・マーティンを「怪しい」と殺害したのだ。ところが加害者のジマーマンは、自己防衛が認められて無罪になり、その判決に抗議する運動がアメリカ各地で起きた。

その時にTwitterで開始されたのが、「#BlackLivesMatter」というハッシュタグだった。アリシア・ガルザ、パトリス・カラーズ、オパール・トメティという3人が発起人だった。2014年にミズーリ州ファーガソンで起きたマイク・ブラウン事件の際には、「#BLM」が認知され、さらに拡散していったのだ。

「グラマー誌、Women of the Year 2016 授賞式」(2016年11月14日)に出席したアリシア・ガルザ、パトリス・カラーズ、オパール・トメティ  写真:Shutterstock/アフロ

『ヘイト・ユー・ギブ』の主人公のように、身内や知り合いが被害者になったことを契機に活動家になっていく人たちも多い。トレイヴォン・マーティン事件で息子が殺されたサブリナ・フェルトンも一般人だったが、その後に講演会や抗議運動に参加するようになり、最近では地元の郡政委員に立候補し、政治的な活動を続けている。

本作はフィクションながらも、そんな一面もしっかりカバーしている。何より、アメリカに住む黒人たちが抱える悩みや痛みという心情が丁寧に描かれているのである。

『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989年)…ブラックムービーのカリスマ スパイク・リーの予言?

アメリカ全土で抗議運動が行われていた5月31日、映画監督スパイク・リーがSNSにアップしたのが、自作の『ドゥ・ザ・ライト・シング』に登場するラジオ・ラヒームが警官から羽交い絞めされている映像と、2014年にニューヨーク州で起きたエリック・ガードナーが警官に首を締められている映像と、今回のジョージ・フロイドの映像をミックスした「歴史が繰り返されることは止められないのか?」というショート映画だった。

▲ショート映画「歴史が繰り返されることは止められないのか?」

『ドゥ・ザ・ライト・シング』は、スパイク・リーの故郷であるニューヨーク州ブルックリンを舞台にし、そこでピザ屋を経営するイタリア系家族と、住民である黒人がラジオ・ラヒームの死をきっかけに生じる摩擦を描いている。

スパイク・リーは、現在を予言していた……。と言うよりも、以前から同じような事件は多発していたのだ。

『ドゥ・ザ・ライト・シング』の最後に、1978年から1987年に掛けてニューヨーク州で起きた警官からの暴力によって亡くなった6人(うち1人は警官ではなく暴漢たちが加害者)の名前をエンドロールに捧げている。

本作を作るきっかけとなったのは、「ハワードビーチ殺人事件」「タワナ・ブローリー事件」というヘイトクライムからだが、その中で警察の行き過ぎた暴力も描いているのが、流石スパイク・リーと言ったところだろう。

黒人に関する何かが起きた時、映画ファンならば、真っ先に意見を聞きたくなるのがスパイク・リーという存在なのである。スパイクの監督作としては、黒人活動家を描いた力作『マルコムX』(1992年)、黒人の抗議運動に参加する人たちを描いた『ゲット・オン・ザ・バス』(1996年)、白人至上主義団体クー・クラックス・クランを内部から破戒しようとする『ブラック・クランズマン』(2018年)なども併せて必見だ。

さらについ先日、Netflixで配信開始となった『ザ・ファイブ・ブラッズ』(2020年)は、随所に「#BLM」やトランプ批判が見られ、絶妙なタイミングでの配信開始に思える。が、先程から書いている通り(日本で大きく報道されなかっただけで)、このような事件がずっと多発しているからタイミングが重なったのである。

『フルートベール駅で』(2013)…『クリード』『ブラックパンサー』の監督・俳優コンビによる実録映画

この作品は、実際に起きた事件を映画化した作品だ。2009年の正月、カリフォルニア州オークランドの駅で、22歳のオスカー・グラントという黒人青年が列車での警備などを担当する警官に殺された。この事件でも、乗客たちが携帯電話のカメラで一部始終を撮っており、インターネットを通じて拡散され、大きな抗議運動がアメリカ全土で行われた。

それに参加したのが、先述した『ヘイト・ユー・ギブ』の原作者アンジー・トーマスである。オスカー・グラントが殺されてしまうまでを克明に丁寧に、そして淡々と描いた作品で、オスカー・グラントはあの時、警官に殺されるに値する行為をしたのか? と、命の尊厳を考えさせてくれる。それこそBLM運動のスローガンを想起させる作品なのである。

本作は、注目されることが乏しいインディペンデント映画だが、『ラストキング・オブ・スコットランド』(2006年)でアカデミー主演男優賞に輝いたフォレスト・ウィテカーがプロダクション会社を立ち上げ積極的に本作のプロモーションしたこともあり、サンダンス映画祭では大賞と観客賞をW受賞、カンヌ映画祭でも、ある視点の特別賞を受賞している。

長編デビュー作の本作で一躍注目を集めたライアン・クーグラー監督と主演のマイケル・B・ジョーダンは、『クリード チャンプを継ぐ男』(2015年)やマーベルの大作『ブラックパンサー』(2018年)でもコンビを組んでいる。

『ブラックパンサー』が絶大なる支持を受けたのは、黒人にとっての理想郷が描かれている点もある。ティチャラ(ブラックパンサー)が国連で発言したように、人々の間に壁を作るのではなく橋を掛けて繋いでいくという大事なメッセージが詰まっている。これは、今回の事件や移民問題で壁を建設し人々を隔てているドナルド・トランプへの皮肉でもある。

ライアン・クーグラー監督(右)と主演のマイケル・B・ジョーダン(左)は、『クリード チャンプを継ぐ男』(2015年)やマーベルの大作『ブラックパンサー』(2018年)でもコンビを組んでいる。  写真:ロイター/アフロ

同じマーベル・コミックのスーパーヒーロー作品ならば、『Marvel ルーク・ケイジ』(2016年〜2018年)も併せて見て頂きたい作品だ。なぜ、スーパーヒーローのルーク・ケイジは、フーディ(パーカー)を着て銃に向かって行ったのか? それでもなぜルーク・ケイジは死ななかったのか? 作中の描写は、先述したトレイヴォン・マーティン事件やオスカー・グラント事件を想起させる。トレイヴォン・マーティンは、フーディを着ていただけで不良とレッテルを貼られ、自警団を名乗る男に殺されたからだった。

『スウィート・スウィートバック』(1971)…60年代から活躍の監督が自ら主演した伝説の名作!

お気づきの通り、今回のジョージ・フロイド事件だけが、いきなり発生したわけではなく、アメリカ黒人と警察の間には長い軋轢の歴史がある。

ロドニー・キングという黒人の青年が警察官に暴力を振るわれている映像が出回り、証拠ビデオがあるので今度こそ警官が有罪になるであろうと思われたが、まさかの無罪判決となったのを機にロサンゼルス暴動(1992年)は始まっている。

それよりも前の1965年にもロサンゼルスではワッツ暴動という大きな暴動があり、こちらも警察からの過剰な暴力を受けた黒人青年の逮捕をきっかけに起こっている。この60年代半ばには、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師が率いた公民権運動が行われていたが、そのキング牧師が1968年に暗殺され、その後は全米各地で暴動が多発していた。

60年代は映画の世界も黒人には門戸が開かれておらず、シドニー・ポワチエサミー・デイヴィス・ジュニアでなければ映画の主演を務めることなどできなかった時代だ。

黒人監督となると更に厳しい。そこに登場したのが、メルヴィン・ヴァン・ピーブルズという監督だ。当時、大手スタジオが黒人監督にお金を出すハズがなく、仕方なく自主製作という形をとった。

映画『スウィート・スウィートバック』は、監督自身が演じた男が殺人の濡れ衣を警察に着せられそうになっているのを知り、メキシコまで逃げ切ろうとする物語だ。途中で、警官と格闘し、警官への抵抗をも描いたこの作品は、観衆に受けて、単館映画上映では異例のヒット作品となり、今や伝説として語られる不朽の名作だ。

ちなみに、メルヴィン・ヴァン・ピーブルズの息子が『ニュー・ジャック・シティ』(1991年)などで知られるマリオ・ヴァン・ピーブルズであるが、その息子が本作の秘話をそのまま映画化した『バッドアス!』(2003年)や、ヴァン・ピーブルズ親子が2人で製作したブラックパンサー党を描いた『パンサー』(1995年)も必見だ。

そして『スウィート・スウィートバック』から2ヵ月後にアメリカで公開されたのが『黒いジャガー』(1971年)である。『黒いジャガー』は、私立探偵の主人公が巨悪のギャングたちの闘争に巻き込まれ、警察にも目を付けられるが、最後には黒人の若者たちと共に巨悪を倒し、警察をも出し抜いてしまうという物語である。

この2つの作品をきっかけにハリウッドでは、ブラックスプロイテーションと言われる黒人が主役のアクション映画が増えたが、対警察を描く作品も多く、彼らの日ごろからの鬱憤をブラックスプロイテーションのヒーロー/ヒロインたちが晴らしていたのである。

ブラックスプロイテーションではないが、『ボーイズ’ン・ザ・フッド』(1991年)のジョン・シングルトンが監督した作品に『ローズウッド』(1997年)がある。1923年にフロリダ州ローズウッドで起きた人種殺戮事件を映画化したものだ。白人女性が黒人男性に暴力を受けたという虚偽の告白により、白人が暴動化し黒人が大量に殺された実際の事件を映画化したものだ。

ドラマ版『ウォッチメン』(2019年〜)で描かれた1921年のオクラホマ州タルサで起きた人種虐殺も白人女性が黒人男性に暴行されたとニュースを聞いた白人たちが暴徒化した結果、発生した。ジョージ・フロイド事件が起きた頃と同時期に、ニューヨークのセントラルパークで、白人女性が黒人男性に暴力を受けたと虚偽を警察に話すということが起きた。こちらは男性が携帯電話で顛末を終始録画し続けたため、女性の嘘がばれて事なきを得たが、こういった歴史が積み重なった結果が、ジョージ・フロイド事件後の抗議運動が大きくなっていったのだ。

『黒い太陽』(1964)…日本人と黒人脱走兵の交流 異色の社会派

ここまでアメリカの作品を紹介してきたが、日本の作品も紹介しよう。恐らく、#BLMはアメリカで起きていることで、日本には関係ない…… と、対岸の火事的に思っている人も少なくないであろう。

60年代の日本にも外国から来ている人たちはたくさんおり、『黒い太陽』に登場するギルという青年もそうだった。戦争後の日本に駐在しているアメリカ兵士だが、白人殺しの容疑で軍から追われる身になってしまう。逃げ込んだ東京の廃墟教会で、日本人男性の明(川地民夫)と出会う。明は大好きなジャズ演奏家が黒人、黒人に憧れていた。ところが、実際に初めて接する黒人ギルとは意志の疎通が出来ずに隔たりができてしまうが…、という物語だ。

『栄光への5000キロ』(1969年)や『南極物語』(1983年)などで知られる蔵原惟繕の監督作。人種や国を超えた人間同士のぶつかり合いと交流を描いた名作である。

同じように日本人と黒人の交流を描いた作品にアメリカ人側から描いた『はりまや橋』(2009年)、大江健三郎の小説が原作で大島渚監督の『飼育』(1961年)、森村誠一の推理小説が原作で映画化された『人間の証明』(1977年)、北野武監督の『BROTHER』(2000年)などが存在している。


もうすぐ迎える6月19日は、アメリカ黒人にとって大切な日であり、一般的には「ジューンティーンス」(黒人奴隷解放記念日)と呼ばれている祝日である。正式な奴隷解放宣言が出る前に北軍の少尉がテキサス州にて奴隷を解放する旨を伝えた日ーー、つまり黒人奴隷が初めて自由となった日を祝う日である。

その日に、トランプ大統領はこともあろうか、先述したオクラホマ州タルサにて選挙運動の予定を発表した。『ウォッチメン』の主役を演じているレジーナ・キングをはじめ、多くの人が「祝日にリスペクトが感じられない」と反発し、流石のトランプも日程の変更を発表している。そして、この日にも大きな抗議集会が予定されている。

本稿では、日本で「比較的に」見やすいであろう作品から選んでみたが、もう見られない作品があったら申し訳ない。日本では、黒人が主役・黒人監督の作品はなかなか公開されず未公開が多く、残念ながら割愛した作品は多い。それが悪循環となって、日本では「黒人差別」について縁遠くなってしまうのではないか…… と、今回改めて感じた。

ブラックパンサー党の創設者の1人ヒューイ・P・ニュートンは、今回紹介した『スウィート・スウィートバック』とメルヴィン・ヴァン・ピーブルズ監督について「ヴァン・ピーブルズは、最も人気のあるコミュニケーション形態の1つである”映画”を効果的に利用し、革命的である」と述べている。

彼らは映画を通じて何か訴えかけ、コミュニケーションを取ろうとしている。それは一見何気ないコメディ映画に思えても、実は多くのメッセージが詰まっていることが多い。これらの作品から、彼らの声を聞いてほしい。

  • 杏レラト

    (あんずれらと)アメリカ南部在住。雑誌「映画秘宝」(扶桑社)、「ユリイカ スパイク・リー特集」(青土社)、「ネットフリックス大解剖」(DU BOOKS)などに執筆。著書に『ブラックムービー ガイド』(スモール出版)。

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