暑さ指数(WBGT)に要注意「夏のマスク」安全対策・危険度 | FRIDAYデジタル

暑さ指数(WBGT)に要注意「夏のマスク」安全対策・危険度

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新型コロナウイルス感染と熱中症の予防は両立できるのか? この夏、要チェックの「暑さ指数(WBGT)」

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、今年の夏は「新しい生活様式」での暮らしを強いられそうだ。しかし、気温や湿度の高い環境でマスクを着用したまま外出したり運動したりすると、息苦しいことも確か。これからの季節は熱中症も心配だろう。新型コロナウイルスの感染と熱中症の予防を両立するためにはどのように行動すればよいのだろうか。 

マスク着用は熱中症リスクをあげるのか

マスクといえば、インフルエンザが流行する冬や、スギやヒノキの花粉が飛散する春先の風物詩だったが、「新しい生活様式」が推奨される今年は、暑くなってもマスクを着用する人が多い。

しかし、暑い中でのマスク着用や、マスクを着用したうえでの運動には懸念もある。NHKの国際ニュースなどでは、中国でマスクをつけて体育の授業を受けていた中学生が死亡するという事例も報道された。もちろん、詳しい背景はわからないため、亡くなった中学生の死因がマスク着用によるものなのかどうかもわからない。ただ、実際にマスクを着用しながら外を歩くと、ほんの数分で息が苦しくなり、顔が熱くなることは確かである。暑い環境下や運動時のマスク着用は体に悪影響を及ぼすのだろうか。

日本救急医学会・日本臨床救急医学会・日本感染症学会・日本呼吸器学会から発表された「新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた熱中症に関する提言」によると、「マスク着用が身体、特に体温に及ぼす影響を学術的に研究した報告はあまりありません」と記載されている。確かに暑い中でもマスクをずっと着用したり、着用しながら運動したりするようなケースは今まであまりなかったため、研究の数が少ないのは納得がいく。

だが、一般的なマスクに近いサージカルマスクを装着した人と、そうでない人を1時間、5kmを室内のジョギングマシーンで走らせ、その前後でマスク内温度や体温などを比較した研究はある。2012年にロベルジュ博士らによって発表された論文では、「マスク装着し運動した人は優位に心拍数、呼吸数、二酸化炭素が増加し、マスクをつけている部分の皮膚温度は、つけていない人の顔面に比して温度が1.76℃上昇した。しかし。深部体温には差がない」という報告があった(※1)。

さらに、N95のような呼吸抵抗の強いマスクを装着すると、一般的なマスクに比べてさらに体への負担が強いようだ。このようなマスクを着用すると、一般的なマスクを着用したときと比べて心拍数が10%ほど上昇し、マスク内の温度は平均で1℃高く、マスク内の湿度も平均で10%ほど優位に上昇するという報告もあるのだ(※2)。また、別の研究では、N95は表面に汗がつくと通気性が悪くなり、呼吸がしにくくなるという報告もあるという(※3)。

これらの報告を見る限り、マスクをつけることは体にとってある程度の負担になると思われる。また、マスクをするとマスク内の湿度が上がってのどの渇きを感じにくくなるが、これは熱中症予防の点からいうと好ましくない。

のどの渇きは熱中症予防の指標にならないため、のどが渇かないからといって水分をとらずにいると、知らず知らずのうちに脱水が進んでしまう可能性がある。これが熱中症の引き金になってしまうのだ。

マスク着用生活で熱中症を予防するには

では、新型コロナウイルスの感染と熱中症の予防を両立させるにはどうすればよいのだろうか。

環境省と厚生労働省は、今年は特に下記のことに注意して行動してほしいと呼びかけている。

  • ・夏に屋外で人と少なくとも2m以上の十分な距離が確保できる場合は、マスクをはずす
  • ・マスクを着用しているときには強い負荷の作業や運動は避け、のどが渇いていなくてもこまめに水分補給をする。また、周囲の人との距離を十分に取れる場所で適宜マスクを外して休憩する

つまり、この夏は「マスクをつければ安心」と思考停止するのではなく、各自が状況を適切に判断して行動することが求められる。マスクはドレスコードではないのだ。

無観客で再開で再開されたリーガエスパニョーラ。そのほかにも、選手の健康状態を考え、1試合の選手交代枠を従来の3人から5人に一時的に増やすなど、様々な対策が取られている。写真は、6月14日の試合の休憩中、マスクを着用しピッチを歩く乾隆選手
無観客で再開で再開されたリーガエスパニョーラ。そのほかにも、選手の健康状態を考え、1試合の選手交代枠を従来の3人から5人に一時的に増やすなど、様々な対策が取られている。写真は、6月14日の試合の休憩中、マスクを着用しピッチを歩く乾隆選手

今年の夏、ぜひチェックしたい「暑さ指数(WBGT)」

では、熱中症リスクの高い気象条件とは何だろうか。

実は熱中症リスクを上げるのは気温だけでなく、湿度や輻射熱(日射、地面や壁などからの放熱)の要素も大きい。

これらの3つの要素を取り入れて算出された指標が「暑さ指数(WBGT)」である。暑さ指数は熱中症を予防することを目的として1954年にアメリカで提案された指標であり、熱中症による救急搬送者数とも非常に相関性があるといわれている。なお、暑さ指数の単位は℃だが、湿度と輻射熱を取り入れたうえでの数字なので、実際の気温の数字とは違う。

暑さ指数を用いた指針は、下記の通りだ。

この夏必ずチェックしたい、暑さ指数(WBGT)(環境省「熱中症予防情報サイト」より)
この夏必ずチェックしたい、暑さ指数(WBGT)(環境省「熱中症予防情報サイト」より)

ただし、マスクを着用している場合は、野外活動が可能なレベルであっても作業や運動には十分に注意し、強い負荷の運動は避けて、たとえのどが渇いていなくてもこまめに水分補給することを心掛けたい。

暑さ指数は環境省「熱中症予防情報サイト」でも確認できる。このサイトでは全国840か所の観測値を実況し、2日後までの予想も行っている。

また、気象庁からは、最高気温が35℃以上になることが予想されるときに熱中症に注意を呼び掛ける「高温注意情報」を発表している。こちらも参考して行動指針を決めるとよいだろう。

今年の夏からは試験的に関東甲信地方で「熱中症警戒アラート」が気象庁と環境省から発表される予定だ。こちらは最高気温ではなく、暑さ指数が33℃以上と予想されるときに発表される。関東甲信以外の地域では今年は引き続き高温注意情報が発表されるが、来年からは全国で本格運用される予定である。

ただし、注意したいのは、これらの情報はあくまで屋外での観測値をもとに発表される数値ということだ。暑さ指数は路面がアスファルトか芝生か、近くにどのような建物があるかでも変わってくる。つまり、数m移動しただけで暑さ指数は違う値を示すのだ。さらに、屋内の場合は建物の構造や日当たりの程度なども関わってくるため、環境省が発表した暑さ指数のみで判断するのではなく、できれば暑さ指数の値を測定する「熱中症指標計」を用意して、作業する部屋や運動する場所に置いたり、携帯型のものを持ち歩いたりするとよいだろう。

今年の夏は暑くなる?

今年の夏の天候は例年よりも熱中症リスクが高くなりそうかどうかも気になるところだ。

5月25日に気象庁が発表した3か月予報によると、6~8月の日本列島の気温は東・西日本と 沖縄・奄美で高く、北日本では平年並か高いと予想されている。

また、降水量は、全国的にほぼ平年並だが、6月は、西日本では前線や湿った空気の影響を受けやすいため、平年並か多い見込みだという。雨が降ればなんとなく熱中症の危険度が低そうな感じがするが、湿度が高くなって体の熱を逃しにくくなるため、やはり熱中症には注意が必要である。

出典:気象庁HP
出典:気象庁HP
出典:気象庁HP
出典:気象庁HP

例年、熱中症の救急搬送者数は梅雨明けがもっとも多いという。今から暑さに体を慣らし、自分の頭でしっかりと考えてマスク着用の判断を行い、念入りな予防対策を心掛けたい。

環境省「熱中症予防情報サイト」はコチラ

※1  Roberge RJ, Kim JH, Benson SM. Absence of consequential changes in physiological, thermal and subjective responses from wearing a surgical mask. Respir Physiol Neurobiol. 2012 Apr 15;181(1):29-35. doi: 10.1016/j.resp.2012.01.010. Epub 2012 Feb 2. PMID: 22326638

※2 Y Li , H Tokura, Y P Guo, et,al. Effects of Wearing N95 and Surgical Facemasks on Heart Rate, Thermal Stress and Subjective Sensations. Int Arch Occup Environ Health. 2005 Jul;78(6):501-9.

※3 高原しおん、砂田健一、川波祥子ら 暑熱環境における 5 種類の防塵マスク装着による体 温及び呼気ガスの変化。Journal of UOEH (University of Occupational and Environmental Health)  35 巻 1 号 P75, 2013.

  • 取材・文今井明子(いまいあきこ)

    サイエンスライター。京都大学農学部卒。気象予報士。得意分野は科学系(おもに医療、地球科学、生物)をはじめ、育児、教育、働き方など。「Newton」「AERA」「東洋経済オンライン」「暦生活」「Business Insider Japan」などで執筆。著書に「気象の図鑑」(共著、技術評論社)、「異常気象と温暖化がわかる」(技術評論社)がある。気象予報士として、お天気教室や防災講座の講師なども務める。

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