朝ドラ『エール』突然のスピンオフから“そのまま中断”への賛否

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主人公・裕一を演じる窪田正孝/写真 アフロ

「遊び心」と「視聴者不在」は紙一重

朝ドラ『エール』(NHK)で、15日から放送されている第12週の内容に視聴者がザワついている。

15・16日に放送された第56・57話の冒頭で、「あの世では、年に二回 今でいうジャンボ宝くじがある 一等はもちろんお金ではない 一泊二日地上に帰る権利である」というテロップが表示され、「音(二階堂ふみ)の亡き父・安隆(光石研)が閻魔様から2日間の滞在期間を与えられて、あの世から家族のもとへ舞い降りる」というファンタジーが放送された。

続く17日の第58話では、喫茶バンブーのオーナー・梶取保(野間口徹)と妻・恵(仲里依紗)の出会い、18日・19日の第59・60話では、双浦環(柴咲コウ)のパリでの恋と成功が描かれるという。

第12週のタイトルを見ても、「父、帰る」「古本屋の恋」「環のパリの物語」という3本立てであり、「今週は特別企画。“突飛な設定”や“裕一と音が出ない回”もございますが、いつもと違う『エール』をお楽しみください」というナレーションもあった。良く言えば「遊び心がある」、悪く言えば「視聴者不在」の思い切った仕掛けと言っていいだろう。

主人公・古山裕一(窪田正孝)の物語を中断して突然スピンオフを放送し、しかも中心人物が小刻みに変わるオムニバスであり、好評の主題歌とタイトルバックもカット。前週は古山家の関係修復が描かれ、父・三郎が息を引き取るシーンに涙を誘われた視聴者が多かっただけに、唐突な路線変更に「なぜ?」と面食らうのも当然だろう。

もともと「3週連続スピンオフ」だった

さらに視聴者の疑念を加速させそうなのは、22日からの第13週も、佐藤久志(山崎育三郎)や御手洗清太郎(古川雄大)が歌手オーディションに挑む様子が描かれ、そのままコロナ禍の撮影休止に伴う放送中断に入ること。

スピンオフをオムニバスで放送したまま中断に入ることを知った人が、「これは本編を中断してまで放送するものなのか?」「コロナの中断だけでも調子が狂うのに、その前にも本編を中断するの?」などと疑問の声があがっているのだ。もちろん「これはこれでアリ」「思っていたより受け入れられた」という肯定の声もあるが、本編の物語を求める声と比べると少数派に見える。

もっと言えば、コロナ禍の影響がなければ29日から放送される予定だった第14週も、音の妹・関内梅(森七菜)らの物語を描くスピンオフ。つまり、制作サイドは当初から12~14週の3週連続でスピンオフをオムニバスで放送する予定であり、そこにコロナ禍の撮影休止が重なったことで、視聴者にとってかなりややこしい事態になってしまったのだ。

振り返れば、朝ドラは前作『スカーレット』でも、残り5週になった大詰めの段階で本編を中断して突然スピンオフを放送し、「何で今やるの?」「終了後にしてほしかった」などと視聴者を当惑させていた。2作連続で、さらに今回はオムニバスで3週に渡って放送することから、「朝ドラは放送中のスピンオフを定着させていきたい」という狙いが透けて見える。

ただ視聴者にしてみれば、熱心に見ている人ほど、「楽しんでいた物語が途切れてしまう」「本編の放送回数が減らされる」「これを放送するくらいなら本編の物語をもっとじっくり描いてほしかった」と思ってしまうだろう。

連ドラのスピンオフが制作される理由

スピンオフを放送する理由は、「魅力的なキャラクターの脇役が多い」「ストーリーがひと段落したときに箸休めのようなものを入れたい」「メインのキャストやスタッフを休ませられる(働き方改革)」「回想シーンを入れて時間と経費を抑えたい」などがある。

実際、制作統括の土屋勝裕チーフプロデューサーは、「第11週で裕一の人生で1つの節目を迎え、また物語の後半では戦争など激動の時代に突入するので、その前にちょっと遊びの週があってもよいのではないかと思い、企画しました」などとスピンオフの意図をコメントした。

しかし、あくまでそれは全体の物語を把握している作り手の感覚であり、第1話から順番に見ている視聴者の心に響くかどうかは別問題。もともとスピンオフは、「本編の物語を最後まで楽しんでくれた人へのファンサービス」という位置づけのものだった。だからこそ本編終了後の放送が自然であり、放送中なら「土日など本編とは別の時間帯で見てもらう」などの配慮があったほうが、NHKが目指す「視聴者に寄り添う公共放送」と言えるのではないか。

裕一は第10週でようやく作曲家として独り立ちし、第11週で家族との関係を修復。まさに「さあこれから」というタイミングでのスピンオフと中断だけに、視聴者の混乱や落胆は避けられず、なかには視聴をやめてしまう人もいるだろう。

だからこそ一般的なスピンオフの概念を超えるような質の高いものを放送するとともに、放送中断中や再開時にどんな工夫で視聴者を引きつけるのか。制作サイドにとっては腕の見せどころになりそうだ。

  • 木村隆志

    コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。ウェブを中心に月20本強のコラムを提供し、年間約1億PVを記録するほか、『週刊フジテレビ批評』などの番組にも出演。取材歴2000人超の著名人専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、地上波全国ネットのドラマは全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。

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