「ぎっくり腰」の新常識は“安静NG”!?テレワークの人は要注意 | FRIDAYデジタル

「ぎっくり腰」の新常識は“安静NG”!?テレワークの人は要注意

  • Facebook シェアボタン
  • X(旧Twitter) シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン

長く続いたステイホームでのテレワークで、「腰の調子が…」という話を最近よく耳にする。ヨーロッパでは“魔女の一撃”とも言われる「ぎっくり腰」だが、このコロナ禍、慢性化している人も多いのではないだろうか。腰が壊れたかと思うほどの痛さで、動くこともできないあの苦しさ! 

痛みが治まるまで安静にしている、というのが長い間の常識だった。実際、今でもそう指導されることも多い。しかし、もはやこれは時代遅れ。正しい治療法は安静にしすぎず適度に動くことだと言う。腰痛のメカニズムの解明や、新たな観点での体操の提案・普及に取り組む東京大学医学部付属病院の松平浩(まつだいら・こう)氏に聞いた。

ぎっくり腰は、英語圏で「魔女の一撃(witch’s shot)」、金縛りは「魔女の攻撃(Old hag attack)」と呼ばれているとか (写真:アフロ)
ぎっくり腰は、英語圏で「魔女の一撃(witch’s shot)」、金縛りは「魔女の攻撃(Old hag attack)」と呼ばれているとか (写真:アフロ)

痛くても動いたほうが治りが早い

一瞬息も止まるほどの激痛に襲われるぎっくり腰。しばらくは動けず、会社を休んでしまった人もいるだろう。「安静がいちばん」と、痛みが完全にひくまでベッドの中で過ごす人もいるかもしれない。しかし、

「ほとんどの腰痛にとって、安静は百害あって一利なしです。痛みが強くても、ぎっくり腰になった直後からでも痛み止めを飲みながらでも、少しずつ動かしたほうがいいのです」(松平浩氏 以下同)

あんまり痛いときは、じっとしていたい気もするが、 

「ベッドの上で安静にしているのは2日まで。それ以上安静にしているのは、腰痛を長引かせるだけです」

フィンランドの研究者の報告によると、ぎっくり腰を発症した人を無作為に①2日間、トイレ以外はベッドで安静にしていたグループ、②腰を前、横、後ろの各方向にゆっくり動かす運動を、理学療法士が指導したグループ、③痛みの範囲内でできるだけふだん通りに過ごすよう指導したグループという3つのグループに分けて、その後の経過を比較したところ、③がいちばんよい結果となり、①がもっとも悪い結果になったという。

現在、西欧諸国の多くの腰痛ガイドラインには、「2日以上ベッドで安静にすることは指示すべきでない」との記載もされている。

「椎間板ヘルニア」も、「背骨のずれ」も、ぎっくり腰には関係ない!?

病院でMRIやレントゲンを撮った結果、「椎間板ヘルニアがある」「背骨がずれている」などと言われても、動いて大丈夫なのだろうか。 

「とくに腰痛の症状がない人を検査したところ、76%の人に椎間板ヘルニアが、85%の人に椎間板の変性(老化)があったという報告があります。『椎間板ヘルニアがある』『背骨がずれている』『すりへっている』などと言われても、その多くは症状と関係していませんのでそれほど気にする必要はありません」

腰痛は、急性大動脈解離などの循環器の病気や、尿路結石など必尿器の病気、子宮内膜症など婦人科系の病気のほか、脊椎に細菌が感染したり、がんの転移をはじめとする脊椎の腫瘍が原因で起こることがある。

横向きでじっと寝ていても疼くことがある、痛み止めを飲んでも頑固な痛みがぶり返す、痛みとしびれががお尻から膝下まで広がるなどの場合は受診したほうがいいが、そうでなければあわてて受診する必要もないという。

「『椎間板ヘルニアがある』『背骨がずれている』『すりへっている』などと言われても、その多くは症状と関係していません」と松平浩氏はいう
「『椎間板ヘルニアがある』『背骨がずれている』『すりへっている』などと言われても、その多くは症状と関係していません」と松平浩氏はいう

「二度とぎっくり腰になりたくない」と腰をかばっていると再発する

では、なぜ腰痛が起こるのだろう。

「背骨と背骨にはさまれた椎間板の中には『髄核』というゼリー状の物質があります。デスクワークで長時間前かがみになっていたり、猫背など腰に負担がかかる姿勢をとったり、荷物を持ちあげる動作を頻繁に続けていると、『髄核』が正常な位置よりずれてしまいます。これが腰痛の原因の一つだと考えています」

さらに、腰痛を引き起こす大きな要因が“脳”。腰への負担に加え、さまざまな心理的要因が影響していることが、近年の研究で明らかになってきたのだ。

「あの痛みはもう経験したくない」という気持ちのほかに、「ヘルニアがある」「骨が変形している」などと言われたことによる不安や恐怖が、腰痛を発生させたり、ぎっくり腰から慢性腰痛になる要因になるという。

「腰を守らなければならないという警戒心から、体を動かさなくなります。外出にも消極的になり、さらに体を動かさなくなり、筋力は衰え、うつ気味になって、『痛み過敏』の傾向が強まります。ちょっとしたことで腰痛を感じ、ますます体を動かさなくなり……という“恐怖回避思考”となって、再発を繰り返し、慢性腰痛となってしまいます」

不安や恐怖が強まると、脳内の扁桃体という部分が興奮し、その結果、脳内麻薬といわれる内因性オピオイドの分泌が減ってしまう。痛みを抑える機能が弱くなってしまうのだ。体を動かさないでいると、さらに痛みに対する過敏性が増してしまうのだとか。

二度とぎっくり腰になりたくないために、日々腰をかばっていることがぎっくり腰を再発させてしまうのだから、皮肉なものだ。

「3秒これだけ体操」で恐怖心を克服

ぎっくり腰を繰り返さない、慢性腰痛にしないために、松平氏が提案しているのが、「3秒これだけ体操」だ。猫背の改善にも役立つ。

足を肩幅より少し広めで平行に開いて立ち、両手をベルトラインの少し上に置き、お尻を前に押し込むイメージで肘を寄せ、胸を開く。つま先に重心を置き、かかとが浮くか浮かないかぐらいの状態で息を吐きながら3秒間保ち、ゆっくり元の状態に戻す。これだけ。けれど、腰痛に悩んでいる人にとっては、腰をそらす動きは怖く感じるかもしれない。

「少々痛い思いをしながらでも、やってみると、『動かせないと思っていた腰が動かせる』という自信につながります。『動かしても大丈夫』と脳に刷り込んでいくことで、腰痛に対する恐怖心が軽減し、脳機能の不具合も解消されていきます」

この体操は、腰痛予防にもなるという。4人に1人が腰痛のために仕事や家事を休んだことがあるという調査結果もある。今は大丈夫でも、いつぎっくり腰になるかわからない。毎日の習慣にするといいだろう。

監修:松平浩(東京大学医学部附属病院22世紀医療センター/運動器疼痛メディカルリサーチ&マネジメント講座長 特任教授)、陣内 裕成(日本医科大学 衛生学公衆衛生学 助教/医学博士/理学療法士) © 2019 Bipoji Lab
監修:松平浩(東京大学医学部附属病院22世紀医療センター/運動器疼痛メディカルリサーチ&マネジメント講座長 特任教授)、陣内 裕成(日本医科大学 衛生学公衆衛生学 助教/医学博士/理学療法士) © 2019 Bipoji Lab

恐怖回避思考のほかに、心理的ストレスも腰痛の原因になる。職場でいやなことがあったとき、家族とのトラブル、介護のストレスなどで腰痛が悪化することは珍しくないという。できるだけ楽観的でいること。これも腰痛予防のために大切なことだ。 

■「これだけ体操2020」

松平浩 東京大学医学部附属病院22世紀医療センター運動器疼痛メディカルリサーチ&マネジメント講座特任教授。医学博士。東京大学整形外科の腰痛グループチーフ等を経て2016年4月より現職。2019年よりBipoji Labを主宰。テレビや雑誌などの各メディアでも活躍。著書に『腰痛は「動かして」治しなさい』(講談社+α文庫)、『3秒からはじめる腰痛体操&肩こり体操』(NHK出版)など多数。Bipoji Labでオフィスや自宅で簡単にできる体操動画を自粛期間中に配信。厚労省の研究班として、運動不足解消にも役立つ「転倒腰痛予防!いきいき健康体操」もYouTubeで動画配信中。

「運動器疼痛メディカルリサーチ&マネジメント講座」はコチラ

  • 取材・文中川いづみ

Photo Gallery3

FRIDAYの最新情報をGET!

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事