『麒麟がくる』で革新的な信長像を演じる染谷将太の狂気

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『麒麟がくる』では、ひと味違った織田信長を演じる染谷将太(‘17年)

大河ドラマ『麒麟がくる』(NHK)の中盤のクライマックス、第21話「桶狭間の戦い」が6月7日に放送され、コロナ禍の中断を前に度肝を抜かれたのは私だけではあるまい。

その理由を紐解く前に、今回は今一度、史実に立ち返ってみよう。

信長の一代記として名高い「信長公記」(太田牛一著)によれば、”桶狭間の戦い”が行われた日の夜明け方、鷲津砦、丸根砦が今川方の攻撃を受けているとの報告を受けて、信長は、

「人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻のごとくなり。
ひとたび生を得て、滅せぬ者のあるべきか」

「敦盛」を歌い舞って「法螺貝を吹け、武具をよこせ」と言い、鎧をつけ、立ったまま食事をとり、兜をかぶって出陣した、とある。

古き良き大河ドラマは、この辺りを踏襲してきたが、今回の『麒麟がくる』はそうではない。

今川義元の大軍を前に、家老たちに「籠城」を告げると帰蝶(川口春奈)と側近1人を残した広間で、信長は幸若舞「敦盛」を口ずさみながら必死に打開策を模索する。

刹那、”桶狭間”という突破口を見出すと、信長は己の閃きを試すかのようにすべてを捨てて出陣する決心を固める。この展開に、私は目を奪われた。

信長にとって「敦盛」はみずからを鼓舞する歌舞音曲などではなく、己の心を研ぎ澄まし悟りへと導く調べ。そして閃きを得た時に見せる、染谷将太演じる信長の狂気が宿る目にも息を呑んだ。

ここには、染谷信長の並々ならぬ覚悟があった。

「”丸顔童顔”の染谷将太の信長起用には当初、“奇をてらった配役”“役のイメージからかけ離れている”といった声が上がりました。染谷自身も『自分が信長役を演じる日が来るなんて思ってもいなかった』『革新的な織田信長をゼロから作りたいとスタッフからお聞きして、新しい織田信長を演じられるという喜びと同時に責任も感じています』と複雑な胸の内を明かしています」(ワイドショー関係者)

染谷演じる信長は、これまでの信長像より饒舌で感情も豊かだ。その一方で、二面性とも言える”弱さ”を見せる。

「第9話『信長の失敗』では、帰蝶(川口春奈)との祝言のおり、『尾張の繁栄には欠かせぬめでたき引き出物』と三河岡崎の松平広忠の生首を祝いの品として持参。父・信秀(高橋克典)に激しく叱責され涙する場面や、第18話『越前へ』では、弟・信勝(木村了)を病と偽り呼び寄せ、信勝の持参した毒水を『そなた、これを飲め、飲めぇ! お前が飲めぇ!』と大粒の涙をこぼし死へと追いやる。

その場面で見せる染谷信長の見開かれた目には、絶望的な悲しみすら浮かんでいます。この強さと弱さを併せ持つ諸刃の剣こそ、染谷演じる”革新的な信長像”ではないでしょうか」(制作会社プロデューサー)

その辺りを染谷自身は、こう話している。

「織田信長はとてもピュアな男。ピュアだからこそ感情の起伏が激しく、ピュアさゆえに孤独になっていく。青年時代の彼は、うつけ者として描かれることが多かったと思いますが、その根底には人としての汚れのない純粋さがあった。そのビュアさは、信長の死ぬ瞬間まで大切にしたい」

ピュアさゆえに併せ持つ”強さ”と”弱さ”。これこそ”革新的信長像”の正体。だが、そんな染谷の演技を以前にも見たことがあると前出・制作会社プロデューサーは話を続ける。

「‘11年に公開された映画『ヒミズ』では、父親(光石研)の虐待に絶えきれず殺してしまう中学3年生の少年の切実さを鮮烈に演じてみせていますが、この中で複雑化する内面から溢れ出るような思いを演じる姿は、今回の信長役にも通じるもの。今回の信長役は、染谷にとってまさにハマり役ではないでしょうか」

実はこの二面性を持つ”ピュアさ”こそ、『麒麟がくる』における重要な舞台装置となる。

「主人公・明智光秀(長谷川博巳)が共に夢を追いかけるためには、信長はまず魅力的な人物でなくてはなりません。しかしその一方で、主人公である光秀が叛旗を翻すには、それ相応の理由がある。それが一体何なのか。そこが視聴者にとって今回の大河ドラマを観る最大の楽しみ、モチベーションにもなっています」(放送作家)

27歳にして100作を超える作品に出ている染谷。去年の朝ドラ『なつぞら』(NHK)で宮崎駿をモデルにした神池航也役を演じ、磯智明プロデューサーをして「打席に立てばホームラン」と言わしめた怪物・染谷将太は、これから『麒麟がくる』で何本ホームランを打つのだろうか――。

  • 島右近(放送作家・映像プロデューサー)

    バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ケ原で死んでいた』(竹書房新書)を上梓

  • 写真2017 TIFF/アフロ

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