コロナ禍、21歳の栄養士が「ネット風俗嬢」になったワケ

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寝泊まりしている事務所の部屋で。お気に入りのぬいぐるみを抱く根本さん。チャットレディーになって収入が大幅に増えたという

希望にあふれて社会に出たはずなのに、新型コロナウイルス感染拡大によって運命を左右させられた新入社員は少なくない。21歳の根本優紀さん(仮名)も、その一人だ。優秀な成績で短大を卒業後、栄養士の資格を得て大手派遣会社に就職した。だが派遣先の病院を、院内感染の恐怖などから早期に退職。バーチャル風俗嬢として、ネット上で疑似恋愛するチャットレディ―になった。彼女の肉声から、コロナに翻弄される若者の姿を追ったーー。

「高校を卒業したら働こうと思っていたんですが、両親から手に職をつけたほうが良いと栄養士を勧められ短大へ入学しました。勉強は面白かったですよ。おかげで成績も常に上位でした」

笑顔がキュートな根本さんが、短大で学んだのは主にスポーツを専門にした栄養学だ。ところが、就職した派遣会社から斡旋されたのは、ベッド数300床で東京近郊の中規模病院。来る日も来る日も、野菜の下処理や大量の皿洗いという立ち仕事をこなした。

「栄養士と言えば、白衣を着てプロフェッショナルな仕事をしているというイメージでした。でも実際は、昔ながらの徒弟制度を絵に描いたような毎日。誰でもできるようなら、単純作業の繰り返しでした」

仕事は朝8時からの8時間労働で、夕方4時に終わるはずだった。ところがミーティングなどで、夜の8時を回ることもしばしば。病院から自宅アパートまで通勤時間は往復で2時間超かかる。肉体的にヘトヘトになったうえ、単純作業に対する不満とストレスで胃腸の調子が悪くなった。自宅で嘔吐することも、たびたびあったという。

「学生時代にちょっと服用したうつ病の薬が残っていたので、呑みながら働いていました。精神的につらかったんですね。休日はダルくてずっと寝ていた。仕事のことを考えると憂鬱になり、平日はなかなか起きられませんでした」

給料は手取りで15万円。そのうち4万5000円がアパートの家賃で、公共料金や食費などを差し引くと、ほとんどおカネは残らない。ギリギリの生活だ。加えて入社早々にコロナが感染拡大の兆しをみせ、不安や恐怖が広がっていったという。

「ちょうど院内感染が問題視されていた時期です。いつ自分がかかるのか。人と人が密に接触する環境で働いていて大丈夫なのか。感染が怖くて、ストレスがさらに大きくなっていきました」

「月90万円稼いでいる女性も」

恐怖に耐えられなくなった根本さんは、「仕事で悩んでいる」とツイッターで発信した。すると様々な勧誘がダイレクトメッセージで送られてきたという。

「副業やアフリエイトが多かったです。『話だけでもどうですか?』という、怪しいメッセージも。そんな中に『チャットレディ―の仕事がある』と誘いがありました。最初は無視しようかと思ったんですが、『絶対売れる』という言葉も含まれていたので……。興味が湧き、やりとりを進めたんです」

チャットレディ―とは、ライブチャットができる女性のこと。映像の向こう側、つまりチャット室にいる女性をリアルタイムで閲覧できる。昔でいう「のぞき部屋」。映像の向こう側の気に入った女性と、二人きりで会話すると課金されるというシステムだ。

根本さんを勧誘した男性は、ラインで繋がるとすぐに電話をしてきた。映像会社の社長と名乗る男性は「チャットレディ―で食べていけるよ」と太鼓判を押したので、根本さんは直接会うことにした。男性は、自分の会社で配信している他のチャットレディ―の女性たちの写真と、稼いだ額を根本さんに提示したという。

「月90万円稼いでいる女性の写真も見せてもらいました。彼女たちは、きっとエッチな要求をされ稼いでいるはずだからと、断ろうとしたんです。すると男性は『胸は出さなくていい。ムリな要求もしない。月30万円稼がせてあげる』と約束してくれたんです。ビデオ通話だけで稼げるなんて。半信半疑でした」

初日から、根本さんは3万円を稼いだ。映像の管理室にいる男性の指示通りに、ビデオチャット室に入ってきた15人ほどの男性と、疑似恋愛をしながら会話するのだ。

「翌日も、10人以上の男性とチャットしました。その後も7~8人とコンスタントに集客できるようになって、4月5月は月40万円稼ぎました」

仕事は夜8時から夜中の3時まで。時には朝方5時までの時もあるという。

「社長によると、男は寝る前に興奮するから、その時間帯に集中するそうです」

要望があれば“手ブラ”も披露した。過激にならない程度ならセクシーなポーズも辞さない根本さんは、事務所の6畳一部屋の空き室に寝泊まりをしている。部屋には、根本さんをいつも癒してくれるふかふかのぬいぐるみがあふれていた。

インタビューの最後には、将来に対する不安ものぞかせた。

「今の仕事は、長く続けられないとわかっています……。でも、もし稼げなくなったら元の栄養士に戻ればいいだけのことでしょう」

精一杯の虚勢だろう。だがスグに退職したため、栄養士がキャリアになるとは考えられない。そのことを問うと、「わかってはいます。親には今でも病院で栄養士を続けていると嘘をつき続けるしかない」とため息をついた。

彼女の未来は、彼女自身にも見えていない。今は手探りで生きている。そんな感覚なのだろう。

  • 取材・文・撮影夏目かをる

    コラムニスト、小説家、ライター。秋田県出身。立教大学文学部日本文学科卒。2万人以上のワーキングウーマンの仕事、恋愛、婚活、結婚を取材。女性目線のコラム「”賞味期限”が女を不機や嫌にする」(現代ビジネス)などや映画コラムも。ルポ「同窓会恋愛」(婦人公論)、「高学歴女性の貧困」(サンデー毎日)など。「戦略的に離婚しない女たち」(週刊朝日)などで夫婦問題にも言及。「33歳女の壁その後」(朝日新聞社telling)では40万以上のPVを獲得。2020年4月日刊SPAの記事でYahoo!ランキング総合第一位に。連載小説「眠れない夜」(Wome)ランキング第一位。2007年10万人に一人の難病・ギランバレー症候群を後遺症なしに完治。

  • 取材協力宮 建行

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