元交際女性の6歳愛娘を絞め殺した「DV男」の蛮行 | FRIDAYデジタル

元交際女性の6歳愛娘を絞め殺した「DV男」の蛮行

平成を振り返る ノンフィクションライター・小野一光「凶悪事件」の現場から 第49回

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響子さんへ暴力を振るい接近禁止命令が出ていた湖山。身勝手な動機で幼い命を奪った
響子さんへ暴力を振るい接近禁止命令が出ていた湖山。身勝手な動機で幼い命を奪った

幼女を絞殺し側溝に捨てたうえ家を放火ーー。あまりにも身勝手な殺人事件が起きたのは、今から10年ほど前のことだ。犯人として逮捕されたのは交際相手に暴力を振るっていた男だった。ノンフィクションライターの小野一光氏が、凄惨な事件が起きた背景を振り返る。

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11年5月27日、山口県警は山口県下関市の湖山忠志(韓国名・許忠志=逮捕時27)を殺人、死体遺棄容疑で逮捕した。

事件が起きたのはその約半年前の10年11月28日のこと。同日の早朝、下関市にある山中響子さん(仮名、30)と3人の子供が暮らすアパートの玄関付近で火災が発生。響子さんは仕事で帰宅していなかったが、火事に気付いた近所の住民が、小学生の長男と長女を助け出した。

しかし、家にいるはずの保育園児の次女・真奈ちゃん(仮名、6)の姿がなかったことから、近くを探し回ったところ、アパートそばの側溝内で死亡した状態で発見されたのである。彼女の首には紐のようなもので絞められた痕があり、警察は殺人事件と断定して捜査を進めていた。山口県警担当記者は言う。

「湖山と響子さんは2年前(09年)に下関市内のパチンコ店で同僚として働いていました。やがてふたりは交際するようになり、10年になってからは、響子さんが子供たちと暮らすアパートの部屋に、湖山が出入りしています。しかし響子さんは同年9月に子供3人を連れてそこを出て、事件が起きたアパートに母子4人で暮らしていました」

響子さんが以前住んでいたアパートの住人は証言する。

「山中さんは3年前からここに住み、彼女と3人の子供の名前は表札に書かれていましたが、男(湖山)の名前はありません。以前は別の男性と一緒に暮らしていたのですが、その人がいなくなり、いつの間にかあの男が来るようになっていたんです。男は不愛想で挨拶とかはなく、こちらが『こんにちは』と言っても無表情でした」

一方で、同アパートの別の住人は、響子さんの子供と遊ぶ湖山の姿を目撃していた。

「(響子さんと湖山の)仲が悪かったという印象はありません。男(湖山)がいた時期はそんなに長くありませんでしたが、子供たちを可愛がっていましたよ。よくアパートの前で一緒に遊んでいる姿を見かけました。男の見た目はちょっと“元ヤン”という感じでしたが、3人の子供とまんべんなく遊んでいて、自転車に乗せてあげたりとかしていました。子供もとくに警戒する様子はなく、懐いている感じです。あと、みんなで買い物に行ったのか、男が手に買い物袋を提げている姿も見かけました」

転居先を突き止め暴力

暴力を振るわれたうえ愛娘を失った響子さん(中央の女性)。湖山から逃れようと転居していた
暴力を振るわれたうえ愛娘を失った響子さん(中央の女性)。湖山から逃れようと転居していた

響子さんが10年9月に子供を連れてこの部屋を出て、事件現場となったアパートに引っ越したのは、湖山による暴力が原因だった。前出の記者は説明する。

「湖山には離婚した妻との間に女の子がいるのですが、響子さんと付き合うときに隠していて、後で打ち明けたときに受け入れてもらえなかった。その頃から湖山による暴力が始まり、響子さんは子供を連れて転居したのです。

しかし湖山が引っ越し先のアパートを突き止めて押しかけ、暴力を振るったため、彼女は警察に駆け込んで被害届を出し、彼は10年9月13日に暴行容疑で逮捕されました。その件では暴行罪で起訴され、翌10月には山口地裁下関支部で罰金30万円の略式命令が出されています。また同裁判所は、配偶者暴力防止・被害者保護法(DV防止法)に基づいて、湖山に響子さんに対する半年間の接近禁止命令を出していました。だが、それから1月半で湖山は今回の犯行に及んだのです」

火災発生時、山中家の玄関の鍵は開いており、窓ガラスやドアは破損されていなかった。室内は物色されておらず、殺害された真奈ちゃんと一緒に寝ていた長男と長女は物音に気付いていない。山中家では事件の5日前にポストに入れていた玄関の鍵が紛失していることから、その鍵を使って湖山が室内に侵入。真奈ちゃんを殺害して側溝に捨てた後、玄関に火をつけたと見られている。前出の記者は続ける。

「真奈ちゃんの遺体が見つかった自宅アパート横の側溝付近に残されていた遺留物が、湖山のDNA型と一致しています。また、真奈ちゃんの着衣に付着した微物のDNA型も同様でした。山中家の室内にあった扇風機の電気コードが切断されており、これを使って真奈ちゃんを絞殺したものと見られています」

湖山は下関市の公立中学校を卒業後、大阪府内の高校に進学。その数年後に地元の下関市に戻って来ていた。彼の実家を知る人物は、私の取材に次のように答えている。

「いまあの家に住んでいるのは父親と母親、それから忠志くんと娘、それに父方のおばあちゃんです。忠志くんには姉と妹、弟がいますが、現在は一緒に住んでいません。中学時代は野球部で、地元ではおとなしく、礼儀正しい子でしたよ。挨拶もちゃんとできる子でした。あそこの家はおばあちゃんとご両親がすごく厳しい人だったから、地元では行儀よくしていたのかもしれません。

今年(11年)4月までは忠志くんの両親が子供のお守りをしていて、時々お姉さんも家にやってきて面倒を見ていました。それからは忠志くんが朝、子供を連れて保育園に行き、夕方4~5時ごろに子供を連れて戻ってくるという生活でした。

忠志くんのお父さんは土建業の仕事の手伝いをしていて、忠志くんもどこかに働きに出ているようでしたが、逮捕前は昼間もずっと家にいたようです。子供を買い物に連れて行く姿も見ています」

当初から捜査線上に湖山の存在は浮上していたが、彼が逮捕されるようだとの情報が駆け巡ったのは11年5月24日のこと。前出の記者は明かす。

「各社とも一応マークはしていましたが、ベタ張りすることはありませんでした。24日の事情聴取と家宅捜索を受けて、これは逮捕もあるかもしれないと一斉に色めきたったのです。ちなみに24日の事情聴取は午前7時から午後9時まで行われました。

うちの記者が逮捕前に話を聞こうとすると、淡々とした口調で『迷惑だ。帰ってくれ』と言っていました。あと、『自分にも小さな子供がおるのに、同じような小さい子を殺すわけねえやろ』とも口にしていました」

27日午前9時12分に下関署で、殺人と死体遺棄容疑で逮捕された湖山は、後に殺人、住居侵入、器物損壊、DV防止法違反で起訴された。

山口地裁で開かれた裁判員裁判では、湖山は一貫して無罪を主張したが、12年7月に懲役30年(求刑・無期懲役)の判決が下され、その後、控訴審、上告審を経て14年11月に懲役30年の刑が確定している。

  • 取材・文小野一光

    1966年生まれ。福岡県北九州市出身。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーライターに。アフガン内戦や東日本大震災、さまざまな事件現場で取材を行う。主な著書に『新版 家族喰い 尼崎連続変死事件の真相』(文春文庫)、『全告白 後妻業の女: 「近畿連続青酸死事件」筧千佐子が語ったこと』(小学館)、『人殺しの論理 凶悪殺人犯へのインタビュー』 (幻冬舎新書)、『連続殺人犯』(文春文庫)ほか

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