歌舞伎町ホストクラブ社長が下す重大決断「裁判をしてでも…」

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緊急事態宣言が解除された後の新宿・歌舞伎町(アフロ)

新型コロナウイルスの影響を受け、数多くの飲食店が甚大な経営危機に見舞われている。全国で非常事態宣言が解除されたとはいえ、客足が遠のいた状況を改善するには相当の時間がかかると見られている。

中でも注目されるのは、店内において「近距離でのサービス提供」をサービスの前提とするキャバクラやラウンジ、スナック、ホストなどの経営だろう。日本最大の繁華街である歌舞伎町(東京都新宿区)でホストクラブ『VISION』を経営する麻比奈哲寧氏に、自身もスポーツ関連企業の経営者である鈴木英寿氏が今後の経営改善策などを取材した。

「裁判してでも売掛金を回収しなければなりません」

そう明かす麻比奈氏は起業4期目を迎える。以前まではホストクラブでの内勤だったが、友人からの独立の誘いもあり、合同会社を設立。ウェブサイト検索で確認できるだけでも240店舗(2020年6月上旬時点)を超える激戦区の歌舞伎町を経営者としてのチャレンジの舞台に選んだ。

「僕はお寺のような感覚で経営しているんです」と麻比奈氏は言う。「ホストの男の子たちも家庭環境が決して良くなかった子たちが多い。お客さんの女の子もそう。そういう人間たちが集って、心を癒す場所がホストクラブなんじゃないかと。そう思えるようになってきたんです」

ファミリー的雰囲気を重視し、堅実な経営を目指してきた麻比奈氏だったが、コロナ禍が経営を直撃する。直近2か月の月次売上は対前年度同月比で30%から40%台。つまり60%から70%もの売り上げ減となっているのだ。

VISIONではコロナ対策として、マスク応対を徹底。お客様来店時の体温検査(37度以下のお客様のみ来店可能)を実施し、退店後には除菌掃除やテーブルの消毒を新型コロナウイルスが広がる以前よりも意識的に行っている。それでも6月以降、同じ歌舞伎町に店舗を構える『TOPDANDY-1st-』で12人の集団感染が明らかになるなど、ホストクラブのクラスターは大きな話題になっている。

「つい最近でも、歌舞伎町で4店舗ほどホストクラブが閉店になったと聞いています。“もぐり”経営の店舗もあるでしょうから、実態としてはもっと多く閉店があるのかも知れません」

利益を上げるための基本的な考え方は「売上を多くし、支出を減らす」ことに他ならない。ホストクラブの経営の場合、支出のうち「家賃」とホストたちに支払う「人件費」が利益創出の鍵を握る。ところがコロナウイルスの感染者が拡大し、経営危機に直面する麻比奈さんに対してテナントのオーナーは「30%もの賃料値上げを迫ってきた」という。これは一部のオーナーの事例に過ぎないが、歌舞伎町の一つの冷酷な側面だろう。

ホストは原則として個人事業主であり、店側(会社側)は日当と契約に基づくコミッション(成果報酬)を支払う義務を負う。つまり、店を開ける以上は最低でも出勤してきたホストたちの日当が固定費として支出しなければならない。これはキャバクラなどにおいても同様だ。客が来る、来ないに関わらず、日当の支出は毎日出続ける。

緊急事態宣言明け以降の売り上げを支えているのは、常連客が中心であると麻比奈氏は明かす。ところがホストクラブの経営戦略上、最も重要な新規顧客の獲得が全くままならないという。

「お店の売り上げ上、最も大きな比率を占めるのが常連のお客様たちなのですが、当然のことながらお客様の移り変わりはあります。そんな中、新しいお客様たちに来ていただき、ホストの接客サービスや日々のコミュニケーションなどの努力によって、いかにして常連になっていただくか。100人新規の方に来ていただいたとして、そのうち常連になっていただけるのはわずかに2、3人という世界。それだけに新規がパタッと止まってしまうのは、本当に厳しい」

歌舞伎町でホストクラブ『VISION』を経営する麻比奈哲寧氏

そもそも、ホストクラブの経営においては、一般的な経営モデルとは異なる“売上リスク”が存在している。それが「売掛金」の存在である。

売掛とはいわゆる「ツケ払い」のことである。客である女性は指名するホストの男性に対して、当日の支払いを確約。後日決められた日時までに支払う「債務」を負う。ホストの誕生日イベントなどで盛大に高額なシャンパンなどを注文した場合、数十万円、あるいは100万円単位の支払いになることもままあり得る。商取引上は、通常はサービスが完了したその現場で支払うものだ。

だが、ホストクラブにおいては業界の慣例としてこうした支払いが売掛金扱いとして処理されてきた。つまり、当日の売り上げが1000万円あっても、キャッシュやクレジットカードで確実に入金される売上金が50万円しかない、というケースも考えられるのである。

今回取材してみて驚いたのは、麻比奈氏が顧問弁護士を通じて売掛金回収に動く予定であるということだ。業界の慣例に一石を投じるアクションと言っていい。

「必要であれば、裁判をしてでも売掛金を回収したいと思っています。昨年度の決算でも相当な金額が未回収のまま終わりましたし、そもそもお客様である女の子たちにも売掛金を曖昧にしておくことは良くない。色んな店で借金を積み重ね、街から消えていく。そんな話を何度も聞いてきました。

回収のために悪いことをしようと思ったら、何でもできるかも知れませんが、僕は普通に経営したいと思っています。コロナウイルスの影響で店の経営も大変な状況ですし、背に腹は代えられない状況です。今後、売掛金が未回収の状態が続くお客様に対しては法的なアクションしかない」

一般的な会社経営では、売掛金回収のために法的アクションに移行するというのはさほど珍しいことではない。だが、コロナウイルスの影響により、ホストクラブの経営にも変化が訪れつつあるということではないだろうか。

「もともとホストクラブの経営は大変だし、厳しい。でも、ピンチはチャンスだと思ってこれまでも生きてきました。みんながみんな、ピンチだと思っている分、自分にとっては追い風だと考えています」

もともと14歳で家出を経験し、荒くれた青春時代を経験した麻比奈氏は、かつて「なるべく早く死にたい」と自らを追い込んだ過去を持つ。転じてホストクラブ運営の裏方業務に携わった20代の時分には、スタッフに対して鉄拳制裁を繰り出すことも。

だがそんな未熟な指導ぶりはすっかり鳴りをひそめ、今は「僕自身が明るく生きていれば、人は必ずひきつけられるだろうし、道は開けると信じたい」という諦念にまで至った。温和で紳士的な麻比奈氏の目の奥には、社員・スタッフの生活を担う経営者としての燃えたぎる情熱が宿っているように映った。

  • 取材・文鈴木英寿

    実業家・経営者、スポーツジャーナリスト。1975年生まれ、宮城県出身。東京理科大卒。音楽雑誌記者、スポーツ雑誌記者を経て2005年にスポーツジャーナリストとして独立。複数のJリーグクラブの経営幹部を経て現在はフットサル施設運営などを手掛ける株式会社DHPSのオーナー兼取締役COO。また複数のベンチャー企業への出資・経営指南なども手掛ける。著書に『修造部長』(松岡修造監修、宝島社)、訳書に『プレミアリーグの戦術と戦略』(ベスト新書)など。

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