「悪者扱い」新宿ゴールデン街の理事長が語るコロナ後の不安

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バー「クラクラ」を引き継いで41年になる外波山氏。歌人・俵万智もアルバイトしていた

5月25日に緊急事態宣言が解除された後も、東京アラートが発令させるなどいまだ予断を許さない「コロナ禍」。特に首都東京一の繁華街、新宿・歌舞伎町は、小池百合子都知事から”クラスター発生”の根元にように名指しされ、今も風評被害にさらされている。

そんな中、歌舞伎町一丁目一番地。新宿ゴールデン街の主人、新宿ゴールデン街商店街振興組合の理事長を務める外波山文明が、“ゴールデン街の今”について電話インタビューに答えてくれた。

「緊急事態宣言が発令され、私の店『クラクラ』も4月4日から5月いっぱいまで自粛。いつもなら、夜7時に店を開け、お客さんがいれば深夜2時、3時、朝までなんていうこともしょっちゅうだったから、妻と息子と夕方から晩酌するなんて、店を始めて41年になるけど初めてのこと。そういう意味じゃ新鮮だったな」

しかし店は閉めていても、決して暇な時間を持て余していたわけではない。

「午後から店に行って、窓を開けて空気の入れ替え。水道も流して店の掃除。3日もサボるとネズミが出没してね。御酉さまで買った『商売繁盛』の熊手の稲穂もすっかりかじられていた。そんなことは、これまで一度もなかったよ。それから夜は泥棒や不審者の立ち入りを防ぐために、二人一組で見回り。GW以後は、看板だけでも出して店の中に灯も灯しておくなどみんなで知恵を出し合った」

今年4月からゴールデン街は、商業組合から振興組合に変わったことで、4月中に商業組合の余剰金と組合費を免除して各店に43,000円手配り。さらに100軒以上だと対象になる商業組合の助成金も申請するなど様々な手を打って来た。

しかし、まだまだ問題は山積みのようだ。

「およそ280店舗あっても会社組織にしているお店は1割もなく、又、事情が有り個人事業主でも持続化給付金をもらえない店も有ったりしたみたい。また店舗が又貸しされていたり、確定申告をきちんとしてなくて東京都の協力金を申請できない店もあるなど、今後の課題も見えて来た」

と話す。その一方で小池都知事から名指しされたことで、歌舞伎町が都内の”コロナ禍”の元凶のように思われていることに、憤りを感じている。

「新宿ゴールデン街は、歌舞伎町一丁目一番地。歌舞伎町が槍玉に上がっているため、6月1日に店を再開しても客足は以前の半分にも満たない」

勝手に取材されて報道されるよりも顔出しをして、ゴールデン街のコロナ対策についてもきちんと説明したい。そんな思いから外波山は連日、情報番組や報道番組の取材にも答えている。

そこには外波山が50年の間、この街を根城に野外劇を作り続けて来た演劇人としての矜持もある。

「‘60年代の末から‘70年代にかけては野坂昭如や北方謙三、中上健次と行った作家や編集者、大島渚、若松孝二、原田芳雄、松田優作といった映画関係者や唐十郎といった演劇人が夜な夜な集まり、口角泡を飛ばして議論を戦わせ、そうした情熱が映画『龍馬暗殺』を始め、この街から多くの作品を生み出して来た。決して不要不急の街ではない。ゴールデン街は文化の交差点なんだよ」

そう外波山文明は、電話の向うからゴールデン街への思いを熱く語る。そして、この店でアルバイトした経験を持つ歌人・俵万智も、現在の苦境を見かねて、

「濃厚な 不要不急の豊かさの 再び灯れ ゴールデン街」

といった短歌を新聞に発表して、ゴールデン街へエールを送っている。

そんな外波山が今、最も恐れているのが「コロナ禍」の第二波だ。

「今回の緊急事態宣言では、90%以上の店が自粛要請に協力。だが、もし第二波が来たら経営が持たないから休まない店も出てくる。そこでもし”クラスター”が起きてしまったら、ゴールデン街はゴースト化する可能性もある」

そんな外波山の脳裏をよぎるのが、バブル期の惨劇である。‘84年から地上げ屋が暗躍。500万円から1000万円の大金をもらって立退く店が相次ぎ、250軒ほどあった店が100軒以上がなくなった。公園などの施設ができるならまだしも、明らかに転売目的の地上げ。断固反対すべく、外波山たちは「新宿花園ゴールデン街を守ろう会」を立ち上げた。

「イラストレーター黒田征太郎の『酒を捨てたら夢も死ぬ』と描かれたTシャツを始め、この運動に賛同してくれた赤塚不二夫、上村一夫、滝田ゆうといった漫画家が描いてくれたTシャツを売って資金を集め、弁護士を雇って地上げ屋と闘った」

火事や火つけ騒ぎも頻発。ガードマンを雇うだけでなく、土日は外波山たちも見回り、それこそ体を張ってゴールデン街を守ってきた。その時の思いと今の思いが重なる。

「それぞれの店には、それぞれの店の顔がある。ただし、危機に立ち向かう時は”思いをひとつ”にして、仲間割れなどせず同じ方向を向いて闘わないと”コロナ禍”に打ち勝つことができないんじゃないかな」

ゴールデン街に通い始めて50年。その中で34年続けてきた花園神社の境内で行ってきた野外劇も今年は中止。その一方で外波山はこの夏、演劇の聖地・下北沢で一人芝居「四畳半襖の下張り」に挑む。

73歳を迎えた今も、情熱の炎はいまだ燃え盛っている――。

 

【外波山文明 プロフィール】
長野県木曽郡南木曽町出身。劇団「椿組」主催。俳優・声優・演出家。椿組の花園神社野外劇は、今や夏の風物詩。新宿ゴールデン街でバー「クラクラ」を経営。現在、新宿ゴールデン街商店街振興組合の理事長も務める

  • 取材・文島右近(放送作家・映像プロデューサー)

    バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ケ原で死んでいた』(竹書房新書)を上梓

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