カオス渦巻く「岩下の新生姜ミュージアム」愛すべきリツイートの館

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行けば「つぶやかずに」いられない、衝撃的な食のアミューズメントパーク

日本人なら誰でも知っている、あの「岩下の新生姜」のあるシアワセを体感できる入館無料の施設、〝岩下の新生姜ミュージアム〟。2015年の開館以来、のべ57万人が訪れ、〝プロが選ぶ観光・食事・土産物施設100選〟にも4年連続で選ばれている栃木の人気観光スポットだ。 

なのに、名前を打ち込むと検索ワードに上がってくるのはカオス、シュールなどの言葉。実際に訪れた人のブログを見ると「状況を受け入れるのに苦労しています」、「想像の斜め上を行く完成度」、「バックミュージックで〝新生姜〜、君がいる奇跡〜〟と延々流れていて洗脳されそうになる」とまぁ、みんな言いたい放題だが、結論はどれも「楽しかった」、「おいしかった」というもの。 

人々を惹きつけてやまないこのミュージアムの魅力はどこにあるのか。4代目社長の岩下和了さんに聞いた。

エントランスを入ると目の前に広がるライブスペース。サブカルを中心としたアーティストたちがステージを飾ってきたが、今はコロナでライブはお休み中。6月20日の開館5周年を祝し、巨大なバースデーケーキが飾られていた

心ざわつく展示室には人知を超えた体験スポットがもりだくさん

「元々ここは私設美術館でした。先代の父、岩下邦夫が所蔵していた美術品を、ご近所の方にお見せしていたんです」(岩下和了さん/以下同)

それがどうだ。今や全館新生姜カラーのピンクに染まり、世界最大巨大新生姜のかぶり物、新生姜と恋人気分が味わえる新生姜の部屋、ツノが新生姜になった鹿・イワシカちゃんが狛犬のジンジャー神社、スライス新生姜200枚で天使の羽根を表現したフォトスポットなどなど、めくるめく世界が広がっている。

高さ5mのかぶり物。今はコロナ対策で顔ハメNGだが、時折プロジェクションマッピングを投影
ジンジャー神社。おみくじを引いて本殿でタッチすると、生姜の神様(ピンクの鹿)が〝ニュウ〜、ジンジャー!〟の声と共に出現。お告げが受けられる
ムード満点新生姜の部屋。本棚には『限りなく透明に近いピンク』、『岩下、新生姜やめるってよ』、『ジンジャー畑でつかまえて』などの迷作が並ぶ

「父が亡くなったあと、私設美術館として使っていたこの建物を、これからも何かに活かしてほしいという遺言のような話を聞いたので、いろんな使い方を考えました」

社長、その〝いろんな使い方〟のフリーダムな解釈は、一体どこから生まれた?

「僕は2011年頃からTwitterを始めて、ネットの世界でユーザーの方たちと交流する機会が増えたんです。〝食べましたよ〟〝おいしかった〟と写真をアップしてくださる方たちには、無償で宣伝してもらっているようなもの。 

何か恩返しをしないとバランスが悪いという気持ちが常にありました。それで、せめて〝こんなことがしたい。あんなものがあれば〟というリクエストを実現させてもらえる場所を作りたいと思ったんです」

〝好き〟から生まれるファン目線のコラボ企画

その思いから誕生したもののひとつが、数々のコラボだ。タニタカフェやラーメン二郎といった食のコラボはもちろんのこと、アニメの『おそ松さん』やぬいぐるみのコウペンちゃんなど異業種コラボも枚挙にいとまがない。それらの多くは大人の事情抜きに、社長個人のTwitterきっかけだったり、企画を担当する社員達の発案から生まれた。

「おそ松さんとのコラボも、元はTwitterがきっかけでエイベックスさんからお話をいただきました。岩下の新生姜ミュージアムのプロジェクトメンバーに松クラ(おそ松さんの熱狂的なファン)がいて、その子に任せたんです。 

心底からそれを好きな人がビジネスライクではなくやっていることは、ファンにも伝わります。僕は年間150本以上のライブに行くくらい音楽が大好きで、いろんなアーティストを招いて無料館内ライブを行ってきましたが、イベンターやプロモーターが商業目線で企画するのではなく、あくまでもファン目線で依頼しています。

何をするにしても〝好き!〟という気持ちが大切。ファン目線だからこそ、同じ感覚をもつファンの人に喜んでいただけるんだと思っています」

ちなみに、食コラボの最新版は6月29日発売、サンヨー食品の『岩下の新生姜味 塩焼そば』だ。

『えいがのおそ松さん』を記念してコラボイベントも開催
壁には来館したアーティストがズラリ。コロナナモレモモ(マキシマム ザ ホルモン2号店)のライブでは、ジャンプしすぎて床が5㎝沈んだという

じっくり見ても意味がわからないとウワサの展示物

日夜〝#岩下の新生姜〟でエゴサ&リツイートを欠かさない社長。そんな社長の熱い思いから生まれた数々の名コラボを、展示物の中からいくつか紹介しよう。

■ノッポン兄弟が親善大使に 

ノッポン兄弟は東京タワーの名物キャラクター。「でも、どっちかっていうと東京タワーより岩下の新生姜に似てるよね」と思い、〝岩下の新生姜の遠い親戚(?)〟とハテナマーク付きでお茶を濁し、手持ちのぬいぐるみをミュージアムに勝手に飾っていた。

それをTwitterにアップしたところ、ノッポン兄から「社長、コラボしようぜ」とダイレクトメールが。ミュージアム3周年には一日館長として来館し、岩下の新生姜親善大使に任命。

「ノッポン兄弟は名刺を持っていて、〝東京タワー公式キャラクター〟の下に同じ大きさで〝岩下の新生姜親善大使〟と入れてくれてるらしいです(笑)」

一日館長で身につけたタスキをエラく気に入ったノッポン兄弟は、今も時々タスキをつけて東京タワーで仕事をこなしている。ワケがわからない

■千葉ロッテマリーンズとコラボ

千葉ロッテマリーンズの岩下大輝投手が初登板したときのこと。「彼が出てくるとTwitterが〝頑張れ新生姜!〟〝頼むぞ新生姜!〟と沸くわけ。僕も応援していたから調子に乗って〝頑張れ新生姜!〟とつぶやき、〝ナニただ乗りしてんだ〟みたいな批判もちょこちょこ受けながら〝もしプロ初勝利したら岩下の新生姜1年分あげます〟って宣言したんです」。それが縁でロッテマリーンズのスポンサーとなり、宣言どおり1年分の岩下の新生姜を贈呈した。

岩下とイワシカのクリアファイル&サイン入りユニフォーム。11月11日はポッキーではなく岩下の新生姜の日なのだ。去年の冠試合の始球式では、スポーツが苦手な社長に代わってノッポン兄が投球。観客も普通に納得していたという

■C&Kの岩下の新生姜神輿

人気デュオ、C&Kは栃木出身。「野外ライブで岩下の新生姜のお神輿に乗って登場したいので作るけどいいか? と連絡があり、もちろん快諾。協賛ということで、お神輿の上から配る〝おつまみになった岩下の新生姜〟を提供しました。ライブ後に解体してしまうなら、むしろファンの方に喜んで頂こうと、お預かりしてミュージアムに飾っています」

岩下の新生姜愛が止まらないC&K。アーティストの間でも岩下の新生姜は人気が高い。打首獄門同好会は「New Gingeration」という新生姜賛歌まで作っている

際限なく増殖する展示物に人のつながりの温かさを感じる

ファンから贈られてきた社長の似顔絵ハンコ。Twitterで拾った岩下の新生姜が題材の漫画。

「可愛いし、みんなに見てもらいたいのでプロアマ問わず〝飾らせてください〟と頼んで展示しています」 

ポケモンGOで、誰かがヤドンに〝岩下の新生姜〟と名前をつけているのを発見すれば「僕もやろう!」と大量のヤドンをつかまえ、そのスクショを展示&ツイート。すると株式会社ポケモンが「社長、ヤドンお好きでしょう?」と香川県の〝ヤドンのうどん〟を贈ってくれたので、それも嬉しくてつい展示。

こんな調子でカオスの海は日に日に広がっていく。

「固いこと言わずになるべく伸び伸びと。来館された方が、〝つまんないことで頑張らなくていいんだ、こんなんで通っちゃうんだから〟と思ってくださったら嬉しいです」

岩下社長は可愛いイラストが好き。暁美ほむら@『魔法少女まどか☆マギカ』のコスプレをしちゃうほどアニメにも精通
集めに集めたヤドンたち。「イーブイの会社見学という企画に応募したらヤドンも一緒に来てくれたのが嬉しかった」とのこと

まだまだお見せしたいジンジャーピンクワールド

岩下の新生姜に使われているのは、台湾でしか育たない本島姜(ペンタオジャン)という細長い生姜。一般的な生姜よりも辛みが少なく丸ごと食べられるので、いろんな料理にアレンジ可能な万能食材なのだ。併設のカフェではメニューのすべてに岩下の新生姜が入っているが、これらの中にもTwitterにアップされた料理写真からヒントを得たものが。

さらに自販機には岩下漬けの素が並ぶ。野菜やモッツァレラチーズ、ウズラの卵などを漬けると抜群においしく、これも元はSNS発信。漬け汁だけが欲しいという声に応え、ペットボトルに入れて販売している。

ここでしか食べられないカフェ ニュージンジャーの人気メニュー。一部のレシピはホームページで公開している
岩下漬けの素。ドリンクと間違える人が多いのか、注意書きが…

展示を見終わったらミュージアムショップで、お土産もぜひチェックしてほしい。岩下の新生姜気分で昼寝ができる寝袋や岩下の新生姜付きスマホケースなど、これでもかというくらい岩下の新生姜なグッズが目白押し。中でも〝あなたも岩下の新生姜になれるシリーズ〟の破壊力は、ぜひその目でご確認いただきたい。

アルパカ飛び交うミュージアムショップ。岩下の新生姜入り肉団子、ウインナー、餃子など、どれも美味
お風呂に入れるとけっこうな〝どピンク〟になるバスソルトなど、生姜香るアメニティグッズも充実。右上はスマホケース、左下は芳香剤、右下は…、これは食品だった。生姜青汁なり

あえてソフィスティケイトせず、万人に愛されるミュージアムに

岩下社長にいちばん思い入れのあるコラボ商品を聞いてみると…。

「いろんなことを教えてくれたという意味では、アルパカのぬいぐるみかな」 

それ! なぜこんなにアルパカ盛りだくさんなのか、ものすごく気になってました。

「元々は僕の娘が気に入っていたぬいぐるみなんです。可愛いので、岩下の新生姜のキャラにしたいとアミューズ社に作っていただきました。生姜とアルパカ、何の関係もないじゃんと思ったけど、可愛いから何も問題はなかった。

岩下の新生姜=ピンクということを教えてくれたのも、難しいことより好きという気持ちがあればいい、関連性なんてあとから作れるんだということを教えてくれたのも、このアルパカでした」 

大好きなアルパカと一緒に。ピンクのポケットチーフがおしゃれです社長
これ、売り物ではなく展示品。私設美術館時代には北大路魯山人の陶器などが展示されていたガラスケースにも、アルパカぎっちり。でも先代の遺志はしっかり受け継がれている

新生姜が好きで、それを愛してくれるお客さんが大好き。開館当初は、自分のフォロワーの1割の人が来て、喜んでくれたらそれでいいと思っていたという社長。〝検索発見ただちにいいね〟で埋め尽くされたミュージアムは、いわば社長が嬉しくてリツイートした物や人の大博覧会であり、ファンへの感謝の集大成といえるだろう。

「岩下の新生姜ミュージアムはABBAである」と社長は言う。’70年代に世界中で大ヒットしたスウェーデンのバンド、ABBA。「いくらでもかっこよくなれたのに、あえてソフィスティケイトしない道を選び、田舎のおばちゃんたちにまで愛される野暮ったさを残した。岩下の新生姜の愛され方って、そんな感じかなと思っています」

■『岩下の新生姜ミュージアム』の詳しい情報はコチラ

  • 取材・文井出千昌撮影安部まゆみ

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