コロナが転機…SM女王がSEとして大手企業に転職した理由

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転職に成功した坂上さん。細身の美人だ。一時は将来に不安を抱えていたが現在は表情も明るい

新型コロナ感染拡大によって休業や閉店に追い込まれ、飲食業界を中心に多くの人たちが収入減となり、生活困窮にみまわれた。ナイトワークの女性たちも例外ではなく、昼の世界に転職したいという希望者が増加した。

だが転職希望者をがっかりさせるデータがある。10万件超のdodaの求人データで、求人掲載数の推移を経験・未経験別から分析したところ、コロナ禍の5月は前年に比べて「業種未経験でも歓迎」の求人が28.2%減、「職種未経験でも歓迎」の求人も28.7%減で、「コロナ禍において未経験者の求人が経験者より少なくなっている」という結果が出ていた(ITメディアビジネスオンラインより)。

そんな中、コロナ禍の5月にSMの女王が大企業のSEに内定し、研修を経て転職した。コロナの前から転職活動を続けていた女王が、転職に成功した理由は何だったのだろうかーー。

東京近郊に住む坂上結衣さん(仮名・32)は、都内の私立大学を卒業後、福祉関係の職に就いた。家庭環境が複雑だったため、「お金を貯めてから自立する」と決めていた。手取り16万円。奨学金の返済と、実家に入れるお金を差し引くと、10万円ぐらいが残った。

「でも勤務先の30代後半の上司から、罵声を浴びせられるなどモラハラを受けて体調を壊し、ドクターストップがかかって1年半で休職せざるを得なくなって……。親から『大学に入らせたのに、根性がない』と毎日のように叱られていました」

親子関係が最悪になったが、家を出るにも、貯金がほとんどない。そこでデリヘリを始めたという。

「学生時代につきあっていた男性から紹介されて、都内のイメクラで週1~2回働いていました。でも卒業と同時に辞めました。二度とナイトワークに戻るまいと決めていたのに……」

逡巡する坂上さん。当時の彼女には、選択の余地がなかったという。

「パワハラの傷が残っていて、社会で働ける精神状態ではなかったんです。でも親に理解してもらえなくて、辛かった」

坂上さんは、デリヘリで働くことに抵抗があったが、週3~4回、12時から24時の間に働いた。その間も転職活動を続けていたという。

「派遣会社に登録をしましたが、いざ就業しようとすると、ブランクがあったことや、前職のモラハラの後遺症が残っていたので、転職が難しかったんです」

悶々としているうちに3、4年が経った。坂上さんに、転機が訪れる。

ナイトワーク関係の友達から紹介の都内のSMクラブに採用された。27歳だった。身長が165cmだったため、ヒールを履くと175cm以上になる。スレンダーな体系で端正な顔立ちのため、すぐに女王様に決まった。制服はボディコンにTバックのハイレグ。勤務は12時から夕方まで。週2~3回で、月収は30万円から60万円だった。

「お客さんがコースを選択します。オプションもあって、一番人気が『つば』。かけてほしい、塗ってほしい。中には飲ませて欲しい、という要望もありました」

「夜から昼」転職の難しさ

プレイは女王様定番のムチ打ち、ヒール踏みのほか、足の爪をやすりで削ってその場で食すなどなど。中にはドレスをプレゼントし、着替えた女王様を見て恍惚を感じるお客もいた。プレイの時間は90~120分。性的な関係は一切ない。妄想に浸った客を、忘我の境地へと誘うのが女王様の役目だ。

「同じ嗜好の人は、一人としていませんでした。お客さんは30代後半から50代が圧倒的に多く、主に会社経営者や外科医、俳優や文化人などで、社会的に重要なポストに就いている方が多かった」

だが坂上さんは、「こうありたい自分」と「なれない自分」のはざまで悩み続けていたという。

「いつも『嫌だ、辞めたい』と思っていました。2年前からつき合っている一般企業に勤務する彼氏や親には、派遣で働いていると嘘をついていたので、罪悪感がハンパなくて」

30歳になると、「年齢的にナイトワークを続けるのは難しい」と、さらに追い詰められていったという。

そこでナイトワークの女性を昼の仕事に紹介する会社を探し、社会マナーを教えてくれるG社に登録する。昨年の秋に事務職の正社員の内定をもらったが、最終的に断った。理由は、転職への不安を、担当者がくみとってくれなかったからだ。

「しかも『いつから働きますか』と性急に進めてきたので。躊躇して、断りました」

就職活動が進展しないまま、今年の3月からコロナ感染拡大の兆しが見えてきた。店に電話がかかってくる本数が減り、常連客は来店しているものの、従業員や家族へのリスクを回避したい経営者や、地方の人たちの来店が皆無となる。

「昼の仕事に転職しなければ、生きていけない!と覚悟しました」

坂上さんが「昼職コレクション」という昼間の仕事を斡旋する会社に連絡したところ、代表からすぐに連絡があって、面談した。

「代表ははっきりと物事を言う方なので、信頼できると思いました。しかも『風俗系の女性はルーティングワークをコツコツこなせることから、SEが相応しい。さらにお客さんのニーズに応じるという女王様の仕事は、SEに通じるところがある』と適性まで見極めてくれる。その見解に、目からウロコでした」

代表は3つの求人を挙げてくれた。内訳はIT業界の事務と、インフラの事務、そしてSE。坂上さんは迷うことなく「手に職をつけたい」とSEを選んだ。

「代表から求人の企業にストレートに私の情報が伝わったおかげで、面接は世間話だけでした」

5月に採用通知をもらった坂上さん。「やっと願いが叶った」と、これまでの罪悪感が払拭されて、解放感が広がったという。

「採用の理由を昼職コレクションの代表に尋ねたら、『前向きで礼儀正しい』とのことでした。本当に、嬉しかったです」

6月までの研修を終了し、7月から新しい職場に通っている。彼女は新しい人生の一歩をすでに歩み始めているのだ。

  • 取材・文・撮影夏目かをる

    コラムニスト、小説家、ライター。秋田県出身。立教大学文学部日本文学科卒。2万人以上のワーキングウーマンの仕事、恋愛、婚活、結婚を取材。女性目線のコラム「”賞味期限”が女を不機や嫌にする」(現代ビジネス)などや映画コラムも。ルポ「同窓会恋愛」(婦人公論)、「高学歴女性の貧困」(サンデー毎日)など。「戦略的に離婚しない女たち」(週刊朝日)などで夫婦問題にも言及。「33歳女の壁その後」(朝日新聞社telling)では40万以上のPVを獲得。2020年4月日刊SPAの記事でYahoo!ランキング総合第一位に。連載小説「眠れない夜」(Wome)ランキング第一位。2007年10万人に一人の難病・ギランバレー症候群を後遺症なしに完治。

  • 取材協力昼職コレクション

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