「事故物件住みます芸人」松原タニシが語る恐怖の体験
自殺? 他殺? 血痕が天井に 東京・1K・6万円
今、僕は都内の事故物件に住んでいる。住み始めた当初は、オーナーから「この部屋の押し入れ前で男性が首吊り自殺をした」のだと聞いていた。だが、それにしては少し不自然な点がある。天井の一部が青く変色しているのだ。これは事故直後、警察の鑑識が使用した薬剤が血液に反応したものだと思われる。それに、部屋の中央からは時折、「ビビビビ……」と奇妙な音が聞こえる。これは、前の住人がノコギリか何かで殺害されたときの音なのではないか。オーナーも多くを語りたがらないし、もしかしてここは殺人現場だったのかもしれない……。
僕は都内の他に、この一年間で3軒の事故物件を借りた。今から、それぞれの恐怖体験を紹介する。怪談が苦手な人は、ページを閉じたほうがいい……。


トイレから老婆の腐臭が 大阪・2DK・3万1000円
僕は大阪で仕事をすることが多いので、そちらにも事故物件を借りている。’19年9月、不動産屋から、とある曰(いわ)くつきの集合住宅を紹介された。
そこは昔から飛び降り自殺の多い団地だというが、僕が紹介された部屋だけなぜか家賃が半額になっていた。理由を不動産屋に尋ねたところ、
「契約していただいた後に教えます」
とのことだった。契約前には教えられないくらい酷(ひど)い事故が起きたのだろうか。
僕はとりあえず契約し、改めて不動産屋に何があったのか聞いた。すると、
「我々にもわからないのです。ただ、事故現場はトイレです……」
としか教えてくれなかった。不審に思った僕は、部屋を正式に借りた後、さっそくトイレに直行した。
「うわっ」
なんとトイレには、懐かしいおばあちゃんの臭いが充満していたのだ……。
後から同じ棟の住人に話を聞くと、僕が契約する1年ほど前に、老婆がトイレで孤独死しているのが発見されたそうだ。
発見当時は棟全体に異臭が漂っていたという。トイレは密室なので臭いが外に漏れにくい。逆に言うと、臭いが漏れる頃には、かなり腐敗が進んでいたはず。つまりこのトイレには、老婆の遺体の腐敗臭が染み付いていたわけだ。
流行中の新型コロナウイルスは、感染すると嗅覚に異常が出ることもあるようだ。僕はトイレに染み付いたおばあちゃんの臭いをかぐことで、自分がコロナにかかっていないことを確かめている。


巨大な墓に囲まれて 沖縄・1K・5万5000円
昨年、書店イベントで沖縄に行く機会があった。事故物件住みます芸人としては、訪れたすべての場所で事故物件を探さずにはいられない。そこで不動産屋を回ったところ、
「お墓に囲まれた物件を紹介しますよ」
と言われたので、内見に行った。
たしかに周りは墓地だった。沖縄の墓は大きい。若干の薄気味悪さを感じながらも、結局契約した僕は、比較的快適に日々を過ごしていた。でもある日、偶然訪れたバーのお姉さんに、身の毛もよだつ話を聞かされることになる。
「私、あなたの向かいのマンションに住んでいるんだけど、あの土地は気持ち悪い。すぐにでも離れたほうがいいわよ。ここに引っ越してきたときから、私の子供は『このマンション、女の人の幽霊がいる……』って怯(おび)えるようになったの。私自身も金縛りに遭(あ)ったわ」
さらに数ヵ月後、僕は仕事仲間のAさんから思いも寄らぬことを告げられた。
Aさんは、知り合いの霊媒師から僕への伝言を預かっているという。その伝言とは……。
「タニシくんが住んでいる沖縄の土地は、下から悪いエネルギーが溢(あふ)れている。その土地に住み続けると、事故に遭い、病気になり……そして人気がなくなるよ」
僕は驚き全身が粟立った。なぜなら、このときまだ、沖縄に部屋を借りていることを周りの親しい友人にしか話していなかったからだ。それを赤の他人である霊媒師が知っているなんて……。
後から知ったことだが、このマンションは墓に囲まれているだけでなく、墓の一部を取り壊して建てた物件だった。僕が借りている部屋の真下には、今も誰かの遺体が眠っているのかもしれない。

地元で有名なおばけマンション 沖縄・3DK・5万3000円
沖縄には、地元の誰もが知る「おばけマンション」があるという。行ってみると、そこには入居者募集の貼り紙が。
問い合わせると、すでに3組が入居待ちだという。さすがに3組待ちじゃ、借りるのは無理か。だって3組だもんな。どう考えても3組はキャンセルしないだろう。僕は借りることを諦(あきら)めた。だが数日後、不動産屋から驚きの電話が。
「3組キャンセル出ました!」
嘘やろ!? 彼らはここがおばけマンションだと知り、怖くなったに違いない。歓喜した僕は即座に内見に行った。
すると、9階建ての4階から下はすべて電気が消えている。実は、4階から下は昔スーパーマーケットだったが、幽霊を見たという情報があまりにも多く、立ち入り禁止になったのだそうだ。建物に住みつく幽霊が、僕をこの地に呼び寄せたのか……。僕は背筋が凍るのを感じた。




『FRIDAY』2020年7月24日号より
撮影:結束武郎(1~3枚目、本誌未掲載カット)写真提供:松原タニシ(4枚目~9枚目)