音楽ファンを襲う「フェスロス」がメンタルに及ぼす怖い影響 | FRIDAYデジタル

音楽ファンを襲う「フェスロス」がメンタルに及ぼす怖い影響

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2019年7月に開催されたフジロックフェスティバル。 国内最大の野外ロックフェスを訪れた観客は、広い会場で思い思いに過ごしていた 写真/宇宙大使☆スター
2019年7月に開催されたフジロックフェスティバル。 国内最大の野外ロックフェスを訪れた観客は、広い会場で思い思いに過ごしていた 写真/宇宙大使☆スター

「これから、じわじわくるでしょうね」

夏の風物詩、野外の音楽フェスが、コロナ禍で全滅した2020年。「フジロックに行くために、年度始めにスケジュールを合わせて休暇をとり、家族で訪れていた」という音楽ファンも多い。「今年は、なにを支えに乗り切ればいいのか…」という嘆きの声が聞こえてくる。

「フェスロス、ですね。『ロス』という病名はないのですが、精神科的にいうと『対象喪失』という反応。これは、単なる『寂しさ』を越えるものなんです」と、精神科医の伊藤暢厚氏はいう。

「急性期の情緒危機では、不安、動揺に苛まれ、動悸、ときには過呼吸などが起こることも。次に、悲哀から逃げようと、お酒を飲みすぎたり、仕事をしすぎるなどの逃避行動に走る。そして、悲嘆を体験することで無力感をもち、過度の緊張や不眠、食欲の低下などさらに深刻な生理的症状が現れ、そうなると、仕事や人間関係など社会生活に差し障ることもあり得ます」

新潟県・苗場で開催される「フジロックフェスティバル」には、23年目の昨年、のべ12万5千人の観客が集まった。フジロックと、ロッキン(ロック・イン・ジャパン・フェスティバル/茨城県ひたちなか市)、ライジングサン(ライジング・サン・ロック・フェスティバル/北海道石狩市)の3大フェスだけでも、のべ50万人以上が、夏フェスの会場に足を運んでいた。

3月以降、あまたのフェスがつぎつぎに「開催断念」「中止」を発表するなか、ぎりぎりまで開催を検討していたのが「フジロック」だ。

「海外国内合わせて240組を超えるアーティストが参加、主催者と観客、厚い連携をしている地元の湯沢町が一体になって開催しているフジロックは経済効果も大きく、その判断は、業界の注目を集めましたね。日経新聞が『フジロック開催中止』を誤って報じてしまうというアクシデントもあったほどです」(音楽誌ライター)

そして6月5日、主催のスマッシュより「中止ではなく延期」の発表があり、音楽ファンからは、諦めまじりのため息が。

「夏フェスの中止、延期の発表が相次いだここまで落胆は、いわばフェスロスの『第1波』。ここから、じっさいに開催予定だった8月を迎え『フェスがない』ということを実感し、さらにその先の悪い可能性を予期・予想することで『第2波』がじわじわとくるでしょうね」(伊藤氏)

会場にはステージだけでなく多くのイベントや出店、キャンプ、キッズランドなどもあり、家族連れでも楽しめるのもフジロックの魅力 写真/宇宙大使☆スター
会場にはステージだけでなく多くのイベントや出店、キャンプ、キッズランドなどもあり、家族連れでも楽しめるのもフジロックの魅力 写真/宇宙大使☆スター

心のダメージ、影響は計り知れない

音楽ファン、フェスファンにとって、夏フェスは祝祭。これには単なる「楽しみ」には止まらない「効用」があったのだ。

「生きていくなかで、人は、自分の固有の『リズム』を持ちつつ、社会のリズム、速度に合わせて生活しています。そのギャップからくる負担を調整するのが、フェスのような『非日常』体験。速くて複雑なリズムに合わせて生きていて、その負担が溜まったころ、フェスに行く。それは、日常から離れて、自分自身のリズム、マイペースを取り戻すきっかけになるんです。

レジリエンス(=しなやかさ)という、自己回復力を取り戻すんです。でも、今年のように『非日常』の機会を奪われると、そんなしなやかさが損なわれてしまう。フェスロスの第2波として、回復力が不十分になり、精神的な不安定をうったえる人が増えることは容易に予想されますね」(伊藤氏)

レジリエンス=自己回復力を保つには

フェスのような非日常の体験には、単なる「気晴らし」を凌駕する意義があった。では、その喪失は、どうやって埋めればいいのだろう。

「これは残念ながら『代替』のきくものではないんですね。なので、結局は自分の回復力しかない。『今年はフェスがない』という現実を受け入れる、受容して整理する。無理に社会に合わせて刻んでいたリズムをいったん止めて、一拍抜いてみる。今までのリズムじゃないリズムを刻んでみる。自ら新しいリズムを手に入れることでしか、解消できないのかもしれません」(伊藤氏)

このところの無気力、なんとなく感じている体の不調は「フェスに行けないせい」と気づくことだけでも、回復の第一歩になる、という 。冬の開催も中止になったコミケや、各地の祭りに参加していた人も同様だ。

「今、世界中が不自由のなかにいます。すっきり解決する道は見えてきません。それなら、こんがらがって生きることもアリなんじゃないかな。すっきりを求めない。ボブ・ディランに『ブルーにこんがらがって(Tangled up in Blue)』という曲があります。諦めず、『こんがらがって生きていくんだ』と自覚することが、withコロナ時代の一つの正解かもと僕は思います」(伊藤氏)

コロナ時代の模索はまだまだ続く。この災禍を、我々は、ひとつひとつ乗り切って生きていくしかないのだ。またいつか、青空の下に音楽とともに集える日がくることを信じて。

  • 写真協力SMASH(©宇宙大使☆スター)

    *FUJI ROCK FESTIVAL'21は、2021年8月20日21日22日、新潟県湯沢町苗場スキー場で開催予定。中止ではなく延期なので、今年のチケットはそのまま使用することもできる。詳しくはhttps://www.fujirockfestival.com

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