山﨑賢人がヒモ男に…「キラキラ映画の人」が開いた演技派の扉

  • Facebook シェアボタン
  • Twitter シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン

出演映画の半分以上は漫画原作の「キラキラ映画の人」。『キングダム』等の巧演を経て、映画『劇場』で脱・好青年演技。山﨑賢人のシフトチェンジを人気映画ライターSYO〕が分析

7月17日(金)全国公開&配信の映画『劇場』で、ボサボサの髪にひげ面という今までにない姿を見せている山﨑賢人 ©2020「劇場」製作委員会

俳優デビューから10年。山﨑賢人がいま、面白い。

甘いルックスを生かし、今も昔も人気俳優。L・DK(2014)、『ヒロイン失格』(2015)、『orange(2015)、『オオカミ少女と黒王子』(2016)、『四月は君の嘘』(2016)、『一週間フレンズ。』(2017)、『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』(2017)、『斉木楠雄のΨ難』(2017)、『ヲタクに恋は難しい』(2020)など、出演映画の半分以上は漫画原作だ。しかもいわゆる、ティーン層をターゲットにした少女漫画の実写化作品、通称「キラキラ映画」が多い。

役者はどうしても出演作品からイメージが生まれてしまうもので、同世代の他の役者に比べて「メジャー配給の恋愛映画によく出ている人」というイメージは、山﨑について回ってきた。本人も、かつて菅田将暉がパーソナリティを務めるラジオに出演した際、「(漫画の)実写やりすぎて叩かれてる」という主旨の発言を行っており、成功の一方で複雑な思いを抱いていたのだろう。

『オオカミ少女と黒王子』(2016)では、”ドS王子”な役柄を演じた山﨑賢人。本作もまた、人気少女コミックの実写化作品だった 写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ

オファーが絶えないのは喜ばしいことだが、ジャンルが狭まれば表現の幅が限定されてしまう。特に近年の男優は『仮面ライダー』や戦隊もの、キラキラ映画で人気を獲得し、その後“演技派俳優”へとシフトしていくパターンが多く、山﨑がいつギアをチェンジしていくか。あるいはこの路線を突き進むのか――という部分に注目していた方は、多かったのではないだろうか。

1つの転機といえるのは、2018年の『羊と鋼の森』だ。本屋大賞に輝いた人気小説の実写化で、山﨑はナイーブな調律師を演じている。調律師としての美学に触れ、同時に責任や重圧に押しつぶされそうになり、それでも一歩一歩プロとして進んでいく姿を繊細に演じ、これまでとは一味違うイメージを開拓した。

観客や批評家層の反応も良く、同時期に放送された主演ドラマ『グッド・ドクター』の効果もあって(本作では、自閉症とサヴァン症候群を抱える医師を好演)、既存のイメージからの脱却を図ろうとしていることが見て取れた。しかし、その後に出演した『キングダム』(2019)『ヲタクに恋は難しい』(2020)で、またイメージは「漫画の実写化の人」へと戻っていく。

本誌が2017年に捉えた山崎賢人。この年は映画『一週間フレンズ。』など出演作が4本公開され、舞台にも出演、と多忙を極めていた/『FRIDAY』2017年3月10日号より

もちろん、「漫画の実写化映画」に貴賤などない。先ほども述べたように、ヒットをかけたメジャー作品に声がかかるのは、喜ばしいことだ。ただ、漫画は人気作であればあるほど「実写化を望まない」原作ファンが一定数以上いるのもまた事実。そのため、漫画の実写化に出演すればするほど、ネガティブなイメージも生まれてしまうというわけだ。

ただ、『キングダム』の山﨑は、まさに「全身全霊」という言葉がぴったりな渾身の演技を披露。戦争遺児の主人公になりきり、泥まみれで荒々しく絶叫し、激しいアクションに次々と挑戦していく姿は高く評価され、興行収入57億円超の大ヒットを記録。続編製作も発表され、いまや山﨑の新たな代表作に躍り出た。「漫画の実写化請負人」のイメージを、実力で好転させた彼の奮闘は、評価されてしかるべきだろう。

そして、新型コロナウイルスによる劇場公開延期を乗り越え、7月17日に劇場公開&Amazonプライム・ビデオで配信開始された映画『劇場』で、山﨑はこれまでにない新たな姿を披露している。芥川賞作家でもあるお笑いコンビ「ピース」の又吉直樹による小説を、名匠・行定勲監督が映画化。本作で山﨑は、自意識が凝り固まった劇作家・演出家に扮している。

映画『劇場』より ©2020「劇場」製作委員会

まず、見た目からしてこれまでの好青年とは真逆だ。ボサボサの髪にひげ面、貧乏という設定を生かしたやせ細った姿で、ぼそぼそとしゃべる内向的なキャラクター。そのくせ、プライドは誰よりも強く、攻撃的で独善的。ひねくれた彼に愛想をつかし、主人公が主宰する劇団の団員は次々に出て行ってしまう。そんな彼は、街で偶然出会った専門学校の学生(松岡茉優)に興味を抱き、彼女の家に転がり込むのだが……。

端的に言えば、発言だけはいっぱしの芸術家気取りのヒモ男、という役どころで、汚れ役であり嫌われ役だろう。主演ではあるが、こういった役柄にチャレンジするあたり、山﨑の新たな意気込みを感じさせる。他者に迷惑をかけ通しの救いようのない人物ではあるのだが、繊細な一面を抱え、必死に創作に向き合おうともがき続ける――そんな人間臭い男を、山﨑は全力投球の“カッコ悪さ”で熱演。

彼の見事な“体現”によって、主人公の痛々しさが観る者の中にある「若かりし頃の過ち」と結びついて悶絶させられるような、それでいて懐かしい暖かさも感じられるような、味わい深い良作に仕上がっている。あくまで私見ではあるが、本作によって山﨑賢人は、演技派俳優へと大きく歩を進めたといっていいだろう。それほどのはまり役であり、新鮮さにも満ちている。

映画『劇場』より  共演は松岡茉優(右) ©2020「劇場」製作委員会

となると、今後の出演作が気になるところだが、これまた興味深い新作が2本待機中。1本目は、共演数も多い土屋太鳳と再び顔を合わせる『今際の国のアリス』。これまた漫画原作ではあるのだが、なんとNetflixオリジナルドラマなのだ。

『全裸監督』(2019)、『FOLLOWERS』(2020)、『呪怨:呪いの家』(2020)、『日本沈没2020』(2020)など、新作を発表するたびに賛否が吹き荒れるNetflixは、地上波では難しい「攻めた描写」を得意としており、どのような内容になるのか期待が膨らむところ。異世界に飛ばされた若者たちが命がけのゲームに挑むという物語で、『キングダム』の佐藤信介監督がメガホンをとる。

そして、つい先日発表され、話題になったのが2021年公開予定の映画『夏への扉』。アメリカのSF作家ロバート・A・ハインラインの小説の映画化となる。映画『スターシップ・トゥルーパーズ』(1997)や、知る人ぞ知るタイムトラベルSFの名作『プリデスティネーション』(2014)の原作者として知られ、SF小説好きには非常に名の知られた人物だ。

今回の映画化では舞台を日本に置き換え、孤独なロボット科学者が、1995年から2025年にタイムトラベルを行う物語になっているという。監督は、『ソラニン』(2014)、『坂道のアポロン』(2018)などを手掛けた青春映画の名手、三木孝浩。柔らかな映像美とエモーショナルな演出で人気を博すヒットメイカーのもとで、山﨑がどんな表情を見せるのか。こちらも、注目していきたいところだ。

映画『劇場』より ©2020「劇場」製作委員会

このように、フィルモグラフィを追っていくと、山﨑賢人にいま、変革の時が訪れていることは明白。役者というものは息の長い職業で、キャリアの中で何度かは転換期が興るのだが、彼もまた、新たな扉に手をかけようとしている。

数年後、山﨑賢人の“通り名”がどのようなものになっているのか。まだ見ぬ未来に想いを馳せ、本稿を締めくくりたい。

『劇場』
7月17日(金)全国公開/配信
出演:山﨑賢人、松岡茉優
寛 一 郎、伊藤沙莉、上川周作、大友 律 / 井口 理(King Gnu)、三浦誠己、浅香航大
配給:吉本興業
©2020「劇場」製作委員会

  • SYO

    映画ライター。1987年福井県生。東京学芸大学にて映像・演劇表現について学ぶ。大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション勤務を経て映画ライターへ。現在まで、インタビュー、レビュー記事、ニュース記事、コラム、イベントレポート、推薦コメント等幅広く手がける。

Photo Gallary6

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事