大阪のタクシー会社がいま「就職氷河期世代」を積極採用する理由 | FRIDAYデジタル

大阪のタクシー会社がいま「就職氷河期世代」を積極採用する理由

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南大阪第一交通が経営する「だいいちキッズルーム南津守園」の前に立つ安藤楓さん。左端の標識に気づかなければ保育園にしか見えない
南大阪第一交通が経営する「だいいちキッズルーム南津守園」の前に立つ安藤楓さん。左端の標識に気づかなければ保育園にしか見えない

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で雇用情勢は悪化の一途をたどっている。総務省が先月30日に発表した5月の労働力調査によると、完全失業者数は4月に比べて19万人増の197万人。特に宿泊業、飲食サービス業の失業者数が目立つ中、コロナ禍で積極的に人材採用に乗り出すタクシー会社が大阪にあった。

乗車後3カ月は月額21万円を保証

「ピンチはチャンス。今が、いい人材を確保する大きなチャンスです」

大阪第一交通株式会社・赤嶺武宏課長代理はこう明かす。「第一交通産業株式会社」は福岡県北九州市に本社を置き、タクシー・ハイヤーなど運送事業を中心に北海道から沖縄まで34都道府県で事業を展開。路線バスや不動産などの事業にも手を広げている。

タクシー業界では、車の保有台数で業界トップ(約8400台)、売り上げでも3指に入るといわれる同社だが、緊急事態宣言による自粛期間中は通常に比べて5割から7割減収となった。それでも今、「就職氷河期世代」の人材獲得に全力を傾けているのだ。

コロナ禍の中で、積極的に対策を打ち出し、全国的に注目された吉村洋文知事を要する大阪府。「第一交通産業株式会社」は、ここでは、まさに水を得た魚だ。大阪府下に12営業所を置き、タクシーの保有台数734台を誇る「大阪第一交通グループ」の堺市にある本社は、ハローワークなど求人紹介所に「就職氷河期歓迎求人」と、「就職氷河期」に限定した求人票を緊急事態宣言の間から、現在に至るまで出し続けている。

しかも二種免許取得費用を同社が全額負担し、さらに乗車後3カ月は月額21万円が保証されている。そこまで身銭を切って人材を求めるのはなぜなのか。赤嶺氏はこう明かす。

「コロナの影響で、仕事を失った方などで、これまで、来てくださらなかったようないい人材が来てくれる可能性が広がっている、と考えています」

「就職氷河期世代」とはバブル崩壊後の就職難の時期に社会に出ることになった不遇の世代。おもに30代半ばから40代半ばを軸とした、働き盛りの世代だ。この世代には不遇がつきまとう。今年度から3年間で、この世代の正規雇用を30万人増やすことを政府はすでに施策として開始しているが、その時期にコロナ禍が直撃した。

結果として、民間の多くの企業の雇用情勢は悪化の方向になっている。政府は6月29日に今年度から3か年で国家公務員を450人以上採用する方針を明らかにするなど、行政側から“助け船”も出しているが、雇用の活性化につながる明るい見通しは立っていない。

対照的に、「第一交通産業グループ」は、今回のコロナ禍以前から全国での取り組みとして、男性色が強く、年々ドライバーの高齢化が進むタクシー業界の風向きを変える努力を重ねてきた。今回のコロナ禍のような予期せぬ事態で、見事にそれが生きることになった。

年配の男性が多かったタクシー業界に女性や若年層にもより多く加わってもらうため、働きやすい環境づくりを進めてきた。そのひとつが働くママさんを応援するための企業内保育所の設置だった。

この「南大阪第一交通」の事業所に保育園ができたのは、2017年7月。「僕が作りたい、と会社を説得しました」と社長室などを改装する形で、保育園を設置。事業所の前に立つと、「だいいちキッズルーム南津守園365日」の看板が目立ち、タクシー営業所なのか、保育園なのか、分からないほどだ。熊谷所長が胸を張ってこう続ける。

「保育園が設置される前は女性ドライバーは4名でしたが、そのあと3年間で、12名に増えました」

お金に「がめつい」イメージを変えたい

コロナ禍の3月、「大阪第一交通グループ」の一つである「南大阪第一交通株式会社」は、女性ドライバーを迎えた。正社員で入社した28歳の安藤楓(かえで)さんは、4歳の男子・春城(はるき)くんを抱えるシングルマザー。安藤さんは、同所に見学に訪れた時に保育園があることと、車が好きであることで、ここを働き場所に選んだ。春城君を事業所の2階にある保育園に預けて、ハンドルを握る日々となったが、職場への感謝を隠さない。

「緊急事態宣言が出ている間も、保育園が開いていて助かりました。普通に、ごはんのことなども含め、考えずに仕事することができました」

さらに、女性専用車両の配置や「ママサポートタクシー」という妊婦さんへの配車サービスを作って女性が活躍できる場を創出している。さらに「子どもサポートタクシー」は塾やジム、保育園に通う子供を乗せられるサービスで、まさに安藤さんのように子育て真っ最中の女性ドライバーがそのような子供やその親御さんを乗せる業務を任されるのだ。

緊急事態宣言の最中に、「第一交通産業グループ」は、次を見据えた地域密着型の戦略も考案した。7月1日から、全国展開している「お墓参りサポートタクシー」だ。専用ダイヤルを設置して、高齢者のサポートに尽力している。赤嶺課長代理は力をこめてこう明かす。

「自粛期間中に、高齢者の方などが益々外に出にくくなっていることがわかりました。そういう方のお墓参りの代行をしたり、一緒に同行させていただくサービスです。私たちとしてはお客様のニーズに応えるためのサービス内容を創出し、タクシー業界の旧来のイメージも変えていきたいんです。就職氷河期世代の働き盛りの世代の人材を獲りに行っているのも、イメージを変える戦略のひとつでもあるんです」

「お墓参りサポート」ははじまったばかりだが、すでに予約が入り始めており、サービスを利用していただくことで会社には顧客情報が蓄積され、よりよいサービスを生み出すヒントにつながるはずだ。

タクシー業界には、深夜利用はあらかじめ割高に設定されていたり、ドライバーの中には意図的に距離を稼いで乗車料金をあげるような人もいて、お金に「がめつい」イメージがつきまとっていた。しかし第一交通産業グループはコロナ禍だからこそ、そんな「負のイメージ」とおさらばするチャンスととらえた。「アフターコロナ」の見通しが立たず、可能なら1円でも残しておきたいこの時代に、フレッシュな人材を確保するために身銭を切る挑戦の行方から目が離せない。

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