廃業危機でも大会を開く花火師の告白「希望の灯をともしたい」

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撮影者:金子 清美

日本の夏を彩る風物詩、花火。その花火業界がいま、危機に瀕している。新型コロナウイルス感染拡大の影響で予定されていた大会や行事が軒並み中止になり、売り上げがゼロに近いところまで落ち込んでしまったのだ。

そうした苦境の中、全国6社の花火会社が『キズナハナビ』というプロジェクトを発足させた。7月24日(金)から8月1日(土)までの期間に、全国の7会場でリレー形式で花火を打ち上げるというもので、ウイルス感染拡大防止のため日時や場所などは公開せず、無観客で実施し、撮影した映像は、開催資金にあてられるクラウドファンディングの支援者に後日限定公開される。

中心となってプロジェクトを推し進めてきた福岡県北九州市の株式会社ワキノアートファクトリーの脇野正裕社長に『キズナハナビ』にかける思いを聞いた。

日本全国に、光のバトンタッチを

「新型コロナウイルスにより日常生活が大きく変わりました。進路や仕事によっては未来が変わった人もいるでしょう。今回、私たちは西の九州から東へ向かって7か所で順に花火を上げ、最後に全国で6社一斉に打ち上げて、日本全国に光のバトンタッチをしよう、と。たとえ採算がとれなくても、この閉塞感に満ちた日本全国を少しでも元気にしたいという気持ちなんです。

本来ならテレビで生中継してもらえればよかったのですが、どの業界も経済的な落ち込みが激しく、資金的に難しいということで、撮影した映像に音楽を合わせて編集した動画を、クラウドファンディングでご支援いただいた方にお返しする形にしました。動画では花火を見せるだけではなく、裏方の仕事や花火師一人ひとりのメッセージなども入れて、我々の思いを見ていただきたいと考えています」

『キズナハナビ』発足の経緯を、脇野社長はそう説明する。そもそものきっかけは、緊急事態宣言下で日本中に重苦しい空気が漂う中、ワキノアートファクトリーの社員が「個人的に花火玉を購入して打ち上げたい」と相談してきたことだった。「こんな時こそ花火を見て上を向くことで、前向きな気持ちを持ってほしい」という社員の熱意に触れ、会社として全面協力することを即断。それまで花火を打っていた近隣の地域に相談し、すぐに「ぜひお願いします」と快諾されたことで、打ち上げが実現した。

コロナ禍の中ではおそらく全国初となるこの打ち上げ花火はメディアにも取り上げられ、全国的に報道された。その後も各地の花火師たちの間で「花火で日本を元気にしたい」という話が盛り上がり、全国の若手花火師たちが中心となって6月1日に「全国一斉悪疫退散祈願Cheer up! 花火プロジェクト」を開催。その後もさまざまな可能性を模索し、意志を共有する6社で『キズナハナビ』を企画することとなった。脇野社長が続ける。

日本の花火に込められた「鎮魂」「疫病退散」

「夏に花火を上げるのは世界中でも日本だけなんです。享保の大飢饉で多くの人々が亡くなった際、時の将軍・徳川吉宗が死者を弔う水神祭で打ち上げたのがその起源と言われています。つまり日本の花火はもともと鎮魂や無病息災、疫病退散といった意味が込められており、歴史を重ねる中で夏の風物詩として定着していきました。

花火発祥の地とされるイタリアをはじめ、海外の国々では花火は記念日や大きなスポーツイベントで上げられるのが一般的で、どちらかというとエンターテーメントの要素が強いんです」

そう考えれば、今回の『キズナハナビ』プロジェクトは、新型コロナで平穏な日常が失われた現在の日本にとって、本来の花火の目的を果たす重要な機会とも言える。

「花火を見るためには、上を向きますよね。坂本九さんの歌にもあるように、人は上を向くことで前向きな気持ちになれる。花火を見て、少しでも多くの人に元気を出そうという気持ちになってもらいたい。そして、花火をただ娯楽としてとらえるのではなく、社会問題の解決や地域活性化につなげたいんです」

花火には老若男女問わず多くの人を惹きつける魅力がある。花火大会が地域を知ってもらうきっかけとなって活性化を呼んだ例をいくつも見てきたし、人の心を動かす力が花火にあることも、たびたび実感してきた。

「高齢者施設で花火を上げた時、涙を流して喜んでくれるお年寄りたちの姿を見てきました。30年ほど前には、自殺しようとしていた高校生が弊社の花火を見て感動し、思いとどまって『花火師になりたい』と訪ねてきたこともあったんです。

『火』という安全ではないものが目の前で美しい様々な光を伴って爆発する。その美しさと危険に満ちた非日常的なことが、脳や心に刺激を与えるんでしょうか。医学的な根拠はありませんがまだまだ勉強しなければいけないと思います。人の力では救えないものも、花火を見ることで何かを変えられるかもしれません」(脇野社長)

『キズナハナビ』は、これまでにない苦労を乗り越えて、実施にこぎつけた。今回のプロジェクトでは、参加者全員が空を見上げて、その壮大なスケール感や、身体に響く爆発音を生で感じてもらうことができない。人が集まらないようにしつつ、撮影も行い、それでも花火の魅力が少しでも伝わるよう、入念にロケハンを重ねた。

せめて花火を打ち上げる近隣の住民は家の窓から見られるようにと、山の中腹や丘の上など、これまではやらなかった高い場所から打ち上げるための準備を進めている。また動画についても、7か所で行う花火を1本に編集し、花火師たちのインタビューも盛り込んでドキュメンタリー的な作品に仕上げる。

もうひとつの苦労は資金集めだ。クラウドファンディングで開催すること自体が初めてで、今回のプロジェクトを運営するために最低限必要な額として上限1000万円で設定したが、まだ支援の輪が十分に広がっていかない。そうした中、福岡県大川市の家具販売会社で福岡ソフトバンクホークスやサガン鳥栖のスポンサーでもある株式会社関家具が、プロジェクトの趣旨に賛同して企業スポンサーに名乗りを上げるなど、新しい動きも出てきた。

「私たちの業界は7、8、9月に消費(花火を打ち上げる)ために1年間を費やします。新型コロナの感染が拡大して、人が集められないとわかった時は私たちのみならずどの花火師さんも『廃業するかもしれない』と考えたと思います。

セーフティネットや機器関連保証の借入など国から支援をいただいて何とか維持できていますが、2021年夏ごろまでに花火が見られるような日常が戻ってこないと私たちの仕事もどうなるかわかりません。それでも、暗い世界に光が灯るように、『キズナハナビ』を世界中のあらゆる人に届けたいんです」

花火業界は会社ごとに守ってきた手法を財産としてきた。脇野社長いわく「花火づくりには教科書がない」ため、同じ紅色(べにいろ)を出すにしても、会社によって原料も違えば配合比率も違う。打ち上げのやり方もさまざま。それゆえに業界には地元の意識が根強く、かつてはお互いに“シマ”を越えないという暗黙のルールがあった。

その垣根がぐっと下がったのが2011年の東日本大震災。全国各地の花火師が協力する流れが次第に浸透し、それが今回のプロジェクトにもつながった。生き残るために手を取り合う『キズナ』の輪を広げたい。7月24日から日本各地の空に打ち上がる花火には、彼らの心の底からの願いが宿っている。

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撮影者:金子 清美
撮影者:金子 清美

 

 

  • 取材・文直江光信

    1975年熊本市生まれ。県立熊本高校を経て、早稲田大学商学部卒業。熊本高でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。著書に『早稲田ラグビー 進化への闘争』(講談社)

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