16時間放置し3ヵ月の乳児が死亡…母親の「悲痛な生活環境」
なぜ乳児を放置し、母親は一晩中留守にしていたのだろうか――。
前日の夕方から外出していた自称アルバイトの坂元愛容疑者(30)は、7月23日の朝9時半ごろ、東京・台東区の自宅マンションに戻り驚愕した。生後3ヵ月の娘が息をしていないのだ。坂元容疑者はあわてて119播通報。女児は病院に搬送されたが、まもなく死亡が確認された。
「警察は24日に、保護責任者遺棄容疑で坂元容疑者を逮捕しました。愛児を死なせた坂元容疑者は憔悴。『室内で寝かせて出かけた。その時は生きていた』と供述し、容疑を認めています。部屋は洋服などが散乱し荒れていましたが、女の子に目立った外傷はありません。救急隊がかけつけた時は、ベビー服やオムツを着けていた。25日の司法解剖の結果、死因は特定できませんでした」(全国紙社会部記者)
「父親はわからない」
坂元容疑者の周辺を取材すると、生活や育児に苦しむシングルマザーの姿が浮かび上がってきた。坂元容疑者の知人が話す。
「彼女は女の子と二人暮らしです。『自宅で出産した。結婚はしていない。父親も誰だかわからない』と話していました(警察の調べに対しても『結婚歴はない』と供述)。『母子手帳も持っていない……』と。母乳で一人で育て、親族が育児を助けていた様子はありませんでしたね。
飲食店などいろいろなバイトをしていましたが、生活はかなり苦しかったようです。家賃は7万円ほどで、『公共料金などを払うと手元にほとんど残らない』とこぼしていましたから。事件当日も夜通し遊んでいたとは思えない。報道によると、『生活費を稼ぐために娘を置いて仕事に出かけた』と警察に説明しているようですね。生活に困窮し、夜の店で働いていたのかもしれません」
16時間も放置し愛児を死なせた坂元容疑者の責任は、もちろん重い。だが「困窮する母子家庭へのサポートが薄い国にも問題がある」と話すのは、家族問題評論家で横浜八洲学園大学教授の池内ひろ美氏だ。
「10年以上も前から、母子家庭の貧困率の高さが問題になっています。にもかかわらず、国はシングルマザーが生きていくためのしっかりしたセーフティネットを設けていません。子ども手当は月に1万5000円ほど。これで満足な生活が送れるでしょうか。
坂元容疑者には、頼る人が少なかったようです。生活保護や新型コロナウイルス感染拡大による『ひとり親世帯臨時特別給付金』などの手続きや申請の仕方を知っていれば、子どもの命が失われることがなかったかもしれない。地域のサポートも大切です。地元の民生委員は、住民の生活を的確に把握し、生活困窮者の相談に乗るすべきでしょう」
父親のいない乳児を前に、一人悩み続けた坂元容疑者。シングルマザーの貧困が生んだ、悲劇なのかもしれない。
- 撮影:蓮尾真司