木村拓哉が『BG』で見せた「変容する役者」の魅力 | FRIDAYデジタル

木村拓哉が『BG』で見せた「変容する役者」の魅力

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もう少し見たかった…

やっぱり日本のドラマ界には欠かせない人物だ。
やっぱり日本のドラマ界には欠かせない人物だ。

キムタクこと木村拓哉(47)が主演しているテレビ朝日の連続ドラマ『BG~身辺警護人~』(木曜午後9時)が7月30日に最終回を迎える。計7回の放送だった。

新型コロナ禍のせいで予定より約2カ月遅れで始まり、通常の連ドラより1~3話短く終わる。完成度の高い作品だけに惜しい。もう少し見たかった。

5話までの世帯視聴率は平均15・1%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。話題作がそろった今期の連ドラの中で、怪物作品『半沢直樹』(TBS)に次いで2位だ。

このドラマがなぜ成功したかというと、井上由美子さんによる脚本が出色で、キムタクを始めとする役者たちも好演し、制作会社・MMJによる演出もうまかったからにほかならない。

キムタクが演じる主人公・島崎章がボディガードなのはご存じのとおり。だが、結果的に守るのは依頼人の生命と安全だけではない。そこが井上さんの腕の見せどころだった。

1話では殺人に及びそうになっていた依頼人を島崎が制止し、「依頼人の未来」も守った。以下、それぞれの回で、島崎は依頼人の「夢」「野心」「記憶」「決意」「日常」が失われるのを防いだ。島崎が目に見えない大切なものをがっちりガードすることによって、ストーリーは味わい深くなっていた。

ほんの10年ほど前まで、ドラマが大失敗すると、すべては主演者のせいにされがちだった。事実、連ドラで平均5%以下の視聴率しか獲れなかったため、二度と主演ができなくなった役者も複数いる。とはいえ、脚本がダメではどんなに役者が良くたって面白いドラマにするのは無理。米国ハリウッドでは「作品の良し悪しの8割は脚本で決まる」と言われるくらい。

脚本がまた素晴らしい

『BG』の成功も井上さんの脚本抜きには決して語れない。

脚本が主演する役者の持ち味に合わせて書かれていたら、ドラマはより良くなる。『BG』は正にそうで、井上さんの脚本は卓抜している上に、キムタクの個性にもぴったりと合っていた。

では、脚本のどこがキムタクに合っていたかというと、島崎章が「純粋」で「正義感が強い」ところだろう。金や名誉には興味がなく、依頼人を守ることを第一に考えている。そのためには自分の命も惜しまない。魅力的な男である半面、浮き世離れしている。それがキムタクに合っていた。

マクドナルドのCMでのお茶目な男がハマり役であるように、キムタクは47歳になっても純粋無垢に映る。「♪ドライブスルーでちょいマック~」と歌い、不自然さを感じさせない中年の役者はそういない。

キムタクが少年のような表情や仕草を失わないからだろう。だから島崎のような浮き世離れした男を演じても違和感を抱かせない。

まだある。島崎は依頼人にひたすら優しい。わがままも受け入れる。相棒の高梨雅也(斎藤工、37)が依頼人に苦言を呈するのとは対象的である。依頼人にひたすら寛容な島崎をリアルに演じられるのは、キムタク自身の眼差しが優しいこともプラスに働いているだろう。眼差しには性格や生活が出てしまうので、演技ではつくれない。

『課長サンの厄年』などを制作した元TBSのドラマプロデューサー、ディレクターの市川哲夫氏もこう語る。

「『何をやってもキムタク』と言う人もいるようですが、『キムタクならでは』という役柄があるのです」

そう、キムタクが抜け目のないサラリーマンを演じたって仕方がないのだ。そんな役はほかに適任者がいる。どの役者にもハマリ役はあるのだ。島崎は適役だった。

誰もが名優と認める高倉健さんも、最期まで高倉健さんらしいしか演じなかった。不器用で寡黙な男を演じ続けた。実のところ、健さんには出演依頼が山ほどあったのだ。孤独な隠居老人の役などの話もあったものの、断っていた。

キムタクも本格的な大人向けコメディなどには挑む価値があると思うものの、現在のスタイルを崩すことはないのではないか。たとえ「何をやってもキムタク」と言われようが。

「キムタクは平成という時代のシンボルであり、スターです。昭和に置き換えれば高倉健さん、石原裕次郎さんのような存在。年齢に応じて変容することができたら大スターとなるわけですが、今のところキムタクが何歳になろうが見たいという視聴者がいるのですから、変容はうまくいっていると思います」(前出・市川氏)

年齢に応じての変容。それが役者としての課題であることは、キムタクだって百も承知のはず。今年1月にスペシャルドラマ『教場』(フジテレビ)で冷酷な警察学校教官・風間公親を演じたのも、変容の必要性を意識してのことだろう。市川氏はそれが現時点まで成功していると見ている。

キムタクの演技については賛否両論あるが、うまい役者かというと、そうであるに違いない。いい役者になるために必要なのは「一に声、二に顔、三に姿」と言われるが、キムタクはどれもいい。『BG』のアクションシーンで見せているとおり、体の動きも俊敏だ。

日本を代表する名匠・山田洋次監督(88)が映画『武士の一分』(2006年)で主演に起用したことも、彼が良い役者である証明だろう。故・渥美清さん主演で『男はつらいよシリーズ』を撮り、松たか子(43)や黒木華(30)らで『小さいおうち』(2014年)をつくった山田監督は下手な役者は使わない。

まして『武士の~』は故・藤沢周平さんの時代小説を基にして、夫婦の機微を繊細に描いた物語であり、演技力がないと厳しい。カッコイイだけでは通用しない。

そもそも、下手だったら、『BG』も主演はできない。相棒役の斉藤工と絡むシーンで押されてしまう。仇役のKICKSコーポレーション代表・劉光明(仲村トオル、54)にも貫禄負けしてしまうはず。鈴木京香(52)らうまい助演陣がそろった『グランメゾン東京』(TBS、2019年)の主演もやれなかっただろう。

若いころのキムタクは太陽のような明るさが売り物の一つだったが、最近は陰の部分も魅力になってきた。『BG』では中学生の一人息子・瞬(田中奏生、14)が離婚した妻・仁美(山口智子、55)の話を持ち出すと、無関心を装いながら、悔悟の念や淋しさを垣間見せた。

また、お互いに意識し合う整形外科医の笠松多佳子(市川実日子、42)と島崎のやり取りはいい。2人とも婚姻歴がある40代にもかかわらず、まるで高校生のよう。これもキムタクに少年の要素が残されているから成立するのだろう。

テレ朝は、『相棒』や『科捜研の女』『ドクターX』等、シリーズ物が得意だ。出来ることなら『BG』の3作目も見たい。

  • 取材・文高堀冬彦

    ライター、エディター。1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社編集局文化社会部記者、同専門委員、毎日新聞出版社サンデー毎日記者、同編集次長などを経て独立。スポニチ時代は放送記者クラブに所属

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