迷走「Go Toトラベル」旅行業界・現場の本音と疑問の声

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お得に楽しく旅行できるはずのキャンペーンが一変。「結局、誰トク!?」の声

混乱の中、開始された旅行キャンペーン「Go Toトラベル」が“迷走”している。 

新型コロナウイルスの感染拡大で多大な影響を受けた旅行業界を支援するのを目的に、国が主導して行うこの旅行キャンペーン。国民にとっても「コロナが落ち着いたら、今まで外出自粛でできなかった“旅行”をしよう。しかもお得!」とのことで、楽しみにしていた人も多かったはずだ。

しかし、感染の拡大が落ち着かない中での実施に加え、開始時期の前倒し、東京都の対象除外など、世論とかけ離れての“強行”とも言える国の進行状況に、ネット上では「時期尚早」「コロナを全国にまき散らす」といったコメントで大荒れに。テレビのワイドショー、新聞、週刊誌などでも連日大きく取り上げられ、今の時期での実施に批判的な意見が大半を占めている。

「Go Toトラベル」公式サイトは、7月27日にやっとオープン。一見とてもわかりやすいデザインだが、事後還付手続きの様式はクリックしたら「Excel」ファイルがダウンロードされた。急きょ作りました、という感が否めない

東京除外、大阪は対象ではあるものの・・・

「Go Toトラベル」は、当初から異論が噴出していた中で、感染者が多い“東京除外”となった。その次に感染者が多いのが大阪、埼玉や神奈川などだが、今のところ東京以外の道府県はキャンペーン対象となっている。

ただ、その大阪でも、Go Toトラベルで大きく盛り上がっている気配は見られない。大阪府の吉村洋文知事が「全国的に今“GoTo”すべきでない」と発言し、感染者数も日ごとに増えている。

大阪で、旅行業界に詳しい識者に「Go Toトラベル」についての話を聞いた。まず言われたのが「現場は何が起きているのか、よくわからない状況」とのことだった。というのも、Go Toトラベル事務局となるツーリズム産業共同提案体が主催する事業説明会が実施されたのが、最初の東京会場で「7月21日」、大阪はじめその他地域はそれ以降に行われた。キャンペーンの開始が「7月22日」にもかかわらず、開始間際にならないと詳細がわからないのは、常識ではありえない話だからだ。

案の定、東京会場では日々変わる事業内容に「詰めが甘い」「説明不足」との声が相次ぎ、沖縄会場では参加者の質問に国が「ゼロ回答」との報道も伝えられた。事務局の正式開設も8月に入ってから、という有様だ。

大阪府の吉村知事(右)と大阪市の松井一郎市長。なお、大阪では7月29日、過去最高となる221人の感染者が発表された(2019年5月撮影、写真:アフロ)

大阪府民の中には「本当にキャンペーンを利用して旅行へ行っていいの?」と考える人も多い。大阪での感染者増も全国的に報道されており、旅行先で大阪から来たのがわかると嫌な顔をされるのもちょっと、との声も聞いた。

観光客も受け入れる側も「複雑な心境」さまざま

観光施設の相次ぐ臨時休業などで売り上げは激減し、存続すら危ぶまれるところ、今回のキャンペーンへの期待はとても大きい。ただ、新型コロナウイルスの感染は、首都圏そして全国へも広がっている。

特に地方では、新型コロナの重症化率が高い高齢者が多く、医療体制のひっ迫も懸念される。「観光客には来てもらいたい、でも感染者が増えるのは困る」というのが、多くの関係者の本音だろう。

「Go Toトラベル」開始後の連休初日 渋滞する高速道路(写真:アフロ)

一方、東京在住者とその他地域の在住者との“温度差”も感じられる。東京在住者からは「新宿や池袋など“夜の街”へ行かなければ大丈夫」と聞かれる一方、その他の地域では「東京とその周りどこでも危ない」イメージを抱く人も少なくない。

大阪、京都、札幌でホテルを展開する「クロスホテル」は、クロスホテル京都の公式サイトでは「当面の間、京都府内および隣接府県(大阪府、兵庫県、滋賀県、奈良県、福井県、三重県)以外にお住まいのお客さまのご利用はお控えいただけるようお願いいたします」と掲載。クロスホテル札幌も「当面の間、他都府県からのご利用はお控えいただけるようお願いいたします」とのお知らせを載せている。

「誰のためのキャンペーン?」旅行業界からは疑問の声

もともと「Go Toトラベル」キャンペーンは、新型コロナウイルスの感染拡大によって売り上げが激減した旅行会社、ホテル・旅館などを支援するため、日本全国一律で行うはずだった。それは当然のことながら「コロナが落ち着いてから」と誰もが思っていたはず。

今年6月、運営委託先の不透明さで世間の批判を浴びて開始時期が遅れたのを皮切りに、全国的に感染者が増加する中で当初決まっていた「開始時期が前倒し」となった。さらに、感染者が特に多い「東京都のみキャンペーンの割引対象除外」に、「若者と高齢者の団体旅行も対象外」となるなど、開始直前まで混乱する事態となった。

旅行会社の窓口は新型コロナの影響で臨時休業を余儀なくされた ※画像はイメージ

キャンペーンの利用者はもちろん、本来は救済されるべき対象である旅行会社やホテル・旅館までも、国が次々と方針転換するたびに振り回されて疲弊する事態に。観光客を受け入れる側からも「いったい誰のためのキャンペーンなのか」との本音も漏れ聞こえる。

全国旅行業協会の会長を務める、自由民主党の二階俊博幹事長 (写真:アフロ)

国内の中小旅行会社で構成される全国旅行業協会(ANTA)の会長が、自由民主党の二階俊博幹事長であることも「税金の私物化」など批判の矛先となった。

さらなる延期だと「心が折れる」。旅行会社は、もはやギリギリの状況

新型コロナによって企業等の倒産や廃業などが相次ぐ中、旅行業界も大きな影響を受けたものの、旅行会社が次々と倒産するなど目立った動きがあまりなかったのには理由がある。

国による財政支援「雇用調整助成金」がコロナ時期のみ100%(通常は3分の2)であること、それに合わせた銀行からのつなぎ融資などだ。これらを活用することにより、従業員の給与などが今はひとまず補償された形となっている。だが、ずっと助成されることは決してなく、打ち切られた途端、会社倒産や従業員解雇が相次ぐのは目に見えているという。

神戸・北野の異人館街。訪日客で賑わった界隈も空き店舗が目に付いた(2020年7月撮影)

前出の識者から「これ以上キャンペーンが延期されれば、観光業者は“心が折れる”のではないか」とも聞いた。観光需要の激減で収入も貯金も減り続ける中でひたすら耐え続け、やっと見えた“光”が、今回のキャンペーン。賛否両論はあっても、生きていくためにはなにがなんでも稼がないといけない。そんな切迫感も伝わってくる。

「行っていいの!?」結局、キャンペーン利用は旅行者、個々の判断に

「Go Toトラベル」をどう利用するのは結局、個々の判断に委ねられた形となった。

実際のところ、今年の大型連休時、緊急事態宣言で外出自粛要請があったにも関わらず、全国各地の主な観光地では、数こそ例年よりかなり少なかったものの、「県外ナンバー」の車で訪れる旅行者が決してゼロではなかった。例えば奈良で、公共駐車場が閉鎖されているからと少し離れた場所に路上駐車してピクニックを平然と楽しむ家族連れを目撃したと聞いた。大阪のとある道の駅では、県外ナンバーを含めた車で駐車場が満車となり、農産物直売所では入場制限で長蛇の列となる様子も目にした。

県外ナンバーの車に対する嫌がらせは「Go Toトラベル」が始まると再び起きるのではという懸念の一方、自粛要請しても守らない人々には何を言っても同じとの意見も。それでも国を挙げて大々的なキャンペーンを実施するのだから、キャンペーン対象である旅行者を責めることはできないわけで、まさに個々のモラルが問われる。

ほぼ満席の機内、常時マスク着用がアナウンスされていた。上部のテレビではGoToトラベルに関するニュースが流れていた

「Go Toトラベル」では、まずは車などで行ける“近場の旅行”を楽しむのがベストだろう。公共交通機関を利用する際は、混雑するラッシュ時間帯は避ける。そして、遠方への旅行は、今しばらく様子を見つつ、感染状況がひとまず落ち着いたと判断できた頃に行くのをおすすめする。 

「Go Toトラベル」開始後の連休初日(7月23日)、東京では過去最多366人の新規感染者が確認された。写真は、25日の羽田空港第2ターミナル(国内線)出発ロビーの様子(写真:アフロ)

旅行先においても「三密」を避け、観光施設や移動時におけるマスクの着用、こまめな手洗いや消毒などを積極的に行い、感染者が多い夜の繁華街には近寄らないなどの心構えが必要といえる。特に、旅行先だから羽目を外すといった行為は絶対にしてはいけないし、以前よりも慎重にコロナ対策には万全を期し、旅行先へくれぐれも配慮する行動が求められる。

■記事中の情報、データは2020年7月27日現在のものです。

シカマアキさんのウェブサイトはコチラ

「Go Toトラベル」公式サイトはコチラ

  • 文・写真Aki Shikama / シカマアキ

    旅行ジャーナリスト&フォトグラファー。飛行機・空港を中心に旅行関連の取材、執筆、撮影などを行う。国内全都道府県、海外約40ヶ国・地域を歴訪。ニコンカレッジ講師。元全国紙記者。

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