オムツに健康食品…「高齢者万引き」10年で3倍超に急増のワケ
「はぁ? どの品物のことでしょうかね」
巡回中の警備員が話しかけると、高齢男性はとぼけたような声をあげた。場所は、東京近郊のディスカウントストア。男性は周囲を気にしながら、妙にゆっくりした動作で歩いていた。店内をパトロール中に、男性の動作に不審を抱いたという警備員が話す。
「未精算のまま店外に出たところで、声をかけました。『警察を呼びますよ』と言うと、男性は態度を一転させ素直に万引きを認めた。店内の死角でビールを上着ポケットに入れ、つまみセットをジャンパーの裾を折り曲げて隠していたんです。
窃盗の理由を聞くと、『博打で負け少しでも取り返したかったから』だとか。被害額は700円ほどでしたが、男性の所持金は80円しかありませんでした。生活保護を受けながらの一人暮らし。『二度とやらない』と約束し、厳重注意して解放しました」
高齢者による万引き事件が激増している。法務省の「2018年版犯罪白書」によると、65歳以上の受刑者は2278人で10年前の3.3倍に増加。罪名のうち万引きなどの窃盗が、半数以上を占める。目をひくのが再犯率の高さ。刑事施設への再入所割合は、高齢男性で6回以上が約43%、女性で12%にのぼるのだ。「万引きGメン」の伊東ゆう氏が解説する。
「高齢者が万引きに走る理由は、いくつかあります。一つは生活苦。退職し仕事がなくなったため、日々の生活に困り犯行に及ぶんです。次は独り身の寂しさ。パートナーに先立たれ、子どもとも没交渉になったストレスから問題行動を起こすケースも多くあります。中には贅沢品欲しさに、我慢できずに高級品を盗む高齢者もいるんです。
認知症の人も多いため罪悪感が薄く、再犯率は高い。万引きを問い詰めると、とぼけた反応をしたり暴れ出す人もいます。ただ『警察に連絡する』と言うと親族に迷惑がかかるのを恐れるのか、たいがい素直に犯行を認めますね」
景品目的で食パン盗みシール集め

窃盗品も、高齢者の特色が出るようだ。都内のスーパーで補導された80代の男性の例を紹介したい。バッグに詰め、盗み出そうとしていたのは高齢者用のオムツだった。
「『カロリーメイト』や『しじみの力』などの健康食品も、よく盗まれます。日々の食べ物に困っていても、高齢者ですから身体に気をつかっているんです。大雨などの災害で、値段の上がった野菜も人気ですね。中には、食パンばかり万引きする高齢者もいる。購入するともらえるはずのシールを集め、皿などの景品をキャンペーン中に応募するんですよ。
彼らに典型的な手口は『二個どり』です。商品を素早くバッグに入れられるように、手のひらに収まるサイズの板チョコなどを二個盗む。若者の窃盗犯のように、大量の品物を盗むのはマレですね。最近は、高齢者でも万引きできるような状況が増えています。スーパーやコンビニの無人精算化が進んでいる。監視する人がいないことが、犯行増加の要因ではないでしょうか」(伊東氏)
高齢犯罪者の増加で、受け入れる側にも問題が生じている。
「全国の刑務所の高齢入所者のうち、認知症の傾向がみられるのは全体の15%弱。1300人ほどになります。疾患などで何らかの治療を要する入所者は、9割にのぼるんです。高齢犯罪者の急増で、介護専門スタッフの数がまったく足りていません。刑務官が、代わりに介護をするケースも多い。現場の負担は年々増加しています」(全国紙社会部記者)
厚生労働省は、全国に50ヵ所ほどある「地域生活定着支援センター」の活用を推奨している。出所した高齢者が社会復帰できるようにサポート。孤立させずに、再犯を防ごうとしているのだ。高齢者の万引きは、国としても看過できない大きな問題となりつつある。








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