「平成サザン」を生んだ『真夏の果実』大ヒットの時代背景 | FRIDAYデジタル

「平成サザン」を生んだ『真夏の果実』大ヒットの時代背景

スージー鈴木の「ちょうど30年前のヒット曲」、今回は映画『稲村ジェーン』の主題歌となったこの曲!

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デビューから2年後のサザンオールスターズのメンバーたち。つまり今から41年前!
デビューから2年後のサザンオールスターズのメンバーたち。つまり今から41年前!

ちょうど30年前のヒット曲をご紹介しています。今回は1990年の7月。この、ちょうど30年前の7月は、音楽シーン的には「当たり年」ならぬ「当たり月」でした。

7月21日に岡村靖幸『どぉなっちゃってんだよ』ユニコーン『働く男』、その4日後の7月25日にサザンオールスターズ『真夏の果実』ザ・ブルーハーツ『情熱の薔薇』ですから、これはなかなかの「当たり月」です。

今回は、90年7月発売の名曲群の中でも、サザンの『真夏の果実』を選びたいと思います。理由は上に掲げた写真の懐かしさ。この写真は90年7月ではなく、79年夏ごろ撮影のものだそうです。メンバーみんな若い若い。

この『真夏の果実』、まさに90年のあの夏を象徴する曲と言えます。なので、サザンを代表する大ヒットなのかと思いきや、実は、サザンのシングル売上ランキングの中ではまさかの13位(オリコン)にとどまります。

ベスト3は『TSUNAMI』(00年)、『エロティカ・セブン』(98年)、『涙のキッス』(92年)。こう見ると、『真夏の果実』があまり売れなかったというのではなく、平成以降リリースの「平成サザン」のシングルが、途方もなく売れまくったということでしょう。

さて、この『真夏の果実』が、どのようにして「90年のあの夏を象徴する曲」になれたのか。それは映画『稲村ジェーン』の主題歌だったことが大きいと思います。あの映画が描いた65年の夏と90年の夏がオーバーラップする人も多いはずです。

『稲村ジェーン』は、この年の邦画界で、『天と地と』『タスマニア物語』、『ドラえもん』に続く配給収入4位=18億円を叩き出した大ヒット映画となりました(日本映画製作者連盟サイトより)。主演は加勢大周

しかし強く印象に残っているのは、内容よりも宣伝です。バブル景気も背景とした、そのあたりの話については、軍司貞則『ナベプロ帝国の興亡』(文春文庫)が詳しく書いています。

――切り札は桑田佳祐本人であった。(中略)九月一日の土曜日から封切り八日の土曜日までの間に「稲村ジェーン」の特番二本、歌番組一本、情報系トークショー四本の七本をこなした。一日に一本はどこかしらの局で「稲村ジェーン」が話題になっているという計算である。

今の感覚で捉えても大々的と言える宣伝が奏功して、映画は大ヒット。私自身の記憶でも、この『稲村ジェーン』が盛り上がりすぎて、都内では満席が続いているので、出張先の新潟で観たことを憶えています。

では、肝心の内容について、監督・桑田佳祐の自己採点はどうだったのか。

『週刊文春』(6月18日号)の桑田佳祐の連載「ポップス歌手の耐えられない軽さ」によれば、北野武(ビートたけし)に「オモシロクない」と厳しく批評されたらしく、それに対して桑田は「老舗大旅館の価値観で、アタシのような新興ビジネス・ホテルの事を、どうのこうのと語って欲しくない(みたいな事)」と返したというのです。

ただ、その記事の中で「自分の作品の出来に、内心では確固たる自信が持てなかった“後ろめたさ”もあった」とも告白しているので、少なくとも満点の出来では無かったのでしょう。その後の桑田佳祐は、映画を捨て、音楽活動に邁進、「平成サザン」として映画ならぬ栄華を極めます。

それでも、いち音楽ファンとして今思うのは、『真夏の果実』『希望の轍』という、今でも強く・深く愛される名曲を残しただけでも、この映画の意味と価値は大きいということ。

当時聴きすぎて、手垢でくすんでしまった『稲村ジェーン』サウンドトラックCDのパッケージを開き、中のリーフレットに目をやると、この2曲の編曲のクレジットに、ある音楽家の名前を見つけます――「小林武史」

改めて説明する必要もないかもしれません。桑田佳祐のソロアルバム『Keisuke Kuwata』をキッカケに広く知られることとなり、サザンに加えて、小泉今日子やMr.Childrenのプロジェクトで音楽シーンを席巻、90年代には、同じくイニシャル「TK」の小室哲哉と並んで、「時代の寵児(ちょうじ)」となる人です。

特にこの『真夏の果実』は「ザ・小林武史サウンド」になっています。その特徴は、デジタルを使いながらもアナログタッチで、キラキラツルツルしたサウンド、とでも言いましょうか。このサウンドが90年代、「時代の音」になっていくのですが。

しかし、そのサウンドについて、小林武史参画以前、例えばサザンのアルバム『KAMAKURA』(85年)の、あのワチャワチャした八方破れサウンドにハマりまくっていた私としては、正直、少しばかりの違和感を持ったことも憶えています。

90年(平成2年)、あのワチャワチャしていた「昭和サザン」が、バブル景気絶頂の中、メガセールスを叩き出し続ける「平成サザン」に生まれ変わるキッカケとして、北野武と小林武史という、2人の「TK」、2人の「たけし」の存在があったのです。

  • スージー鈴木

    音楽評論家。1966年大阪府東大阪市生まれ。BS12トゥエルビ『ザ・カセットテープ・ミュージック』出演中。主な著書に『80年代音楽解体新書』(彩流社)、『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)、『イントロの法則80's』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)など。東洋経済オンライン、東京スポーツ、週刊ベースボールなどで連載中。

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