日本の漫画に惚れた世界的アーティストが被災地で描き続ける理由 | FRIDAYデジタル

日本の漫画に惚れた世界的アーティストが被災地で描き続ける理由

『AKIRA』『鉄腕アトム』『崖の上のポニョ』を愛するグラフィティアーティスト、チチ・フリーク氏インタビュー

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作業中、保育園児童たちの歓声に気付いて手を振る。「子供は大好き!」だそうだ
作業中、保育園児童たちの歓声に気付いて手を振る。「子供は大好き!」だそうだ

縦8メートル横30メートルの巨大な白壁のキャンバスいっぱいに太陽や草花、人の顔が描かれていく。高所作業車のゴンドラをチチ・フリーク氏自ら操作しながらスプレーを壁に吹き付けていく。

壁画が描かれている建物は神戸市庁舎2号館で建設から60年以上が経ち老朽化が進んでいることや阪神淡路大震災の被災を受けていることから、秋以降に解体が予定されている。華やかなアートイベントに人々を巻き込んで楽しもうと企画された『KOBE  MURAL ART PROJECT』の第一弾として『神戸市役所2号館ありがとうプロジェクト』を立ち上げ、神戸と歴史的に関わりのあるチチ氏が2号館南側の壁画を担当することになった。

2号館の解体についてチチ氏は「この作品はいずれ壊されてしまいますが、たくさんの思い出は人々の心の中にメモリーされています。その時が来てもそれはネクストステージへの第一歩であり、とても素敵なこと」と語る。

手塚治虫との出会い

さて、グラフィティアーティストとして知られるチチ氏だが、ルーツを辿ると初仕事はブラジルの国民的アニメーションのコミックスタジオだった。

チチ氏(以下、チチ)子供のころから絵を描くことが好きでした。ブラジルのサンパウロにあるマウリシオ・デ・ソウザのスタジオに招待されたのがきっかけで、13歳からプロとしての活動が始まりました。『モニカと仲間たち』のコミックスタジオで7年働き、手塚治虫氏ともマウリシオ・デ・ソウザの事務所でお会いました。その後はマリオコミックスやディズニー、マーベルなどいろんなデザインスタジオで国内外のコミックデザインをしました。

子供のころからアニメーションスタジオで働いていたチチ氏だが日本のアニメーションで好きな作品があるそうだ。

チチ手塚治虫さんの『アストロボーイ』(鉄腕アトム)は子供のころから知っていました。宮崎駿さんの『ポニョ』は描写が細やかでストーリーがとても面白いです。大友克洋さんの『AKIRA』はグラフィックが超いいね!『AKIRA』が一番好きかな。

コミックやアニメーションデザインをしてきたチチ氏は、自らの関心に沿ったテーマを創作すべく1995年にグラフィティアートの世界へ飛躍することになる。

チチ今までは誰かの依頼でコミックやアニメーションのデザインを描いてきましたが、独自の作品を生み出したいという強い気持ちが芽生えていました。これまでのデザイン経験を生かしてグラフィティアートの創作をはじめました。ストリートアートはアーティストと人々との距離が近く、直接的に交歓できる感動がありました。私はこれまでのデスクワークからアウトフィールドへ飛び出すことに決めました。

石巻市で育まれた「絆」

世界各国でストリートアートを手掛けていたある日、ブラジルにいたチチ氏は東日本大震災をニュース映像で知ることになった。日系三世であるチチ氏の祖父母は移民船「笠戸丸」で神戸からブラジルに渡った最初の日本人でした。そのこともあり、人一倍湧き上がる使命感を胸に復興支援のアクションを起こした。

チチ駐日ブラジル大使館とジャパンファウンデーション(国際交流基金)から、合同プロジェクトの打診を受けてその年の年末に現地入りをしました。初めて見た石巻の仮設住宅はどれも同じように見えて区別が難しいと感じました。そして冷たく寂しいと…オジちゃんオバちゃん子供たち、誰が住んでいるかわかるようにマップの役割を兼ねて温かい気持ちになれるような花や草、金魚・雲など様々なテーマで仮設住宅の壁にペインディングしました。その他にも地元の人々が再び繋がりを生み出せるように前を向いてもらえるように、幅広い年代の人たちとワークショップをしました。トータルのべ1年間ほど現地で活動しました。

完成ショット。かつて8階建てだった2号館のこの白壁は5階建てに減築されてできた
完成ショット。かつて8階建てだった2号館のこの白壁は5階建てに減築されてできた

このプロジェクトに参加したチチ氏がコロナ禍中でのイベントを実行する意義をこう考える。

チチアーティストとしてはいつもステイ・ホームなので(外出)「自粛」に関してはそれほど苦痛や違和感なく創作活動はできています。今回のような野外アートイベントはソーシャルディスタンスを保ちクラスター対策を徹底すれば、コロナ禍であってもハッピーなイベントを開催できると思います。

壁画に込めた想いをこう残した。

チチ自分を信じて前を向いていこう!きっとチャンスは訪れるから諦めないで夢に向かって歩んでいこう!!私の絵を通して人が日々生きていく上で抱く『感情』や『意見』を受けとってもらえればと思います。

力強く笑顔で壁画に込めたメッセージをくれたチチ氏だが、かつて石巻の仮設住宅でのグラフィティ作成時には、亡くなられた多くの人々のことを思うあまり「人の顔は描かないでほしい」という被災者からの声があがったことがあった。しかし神戸では人の顔を描いている。例えばそれは復興の次の段階に向かっていることを、顔の向きで表現しているのかもしれない。“人の想像力はいつ何時においても激しく駆動する”ことを体感しているチチ氏は、自身の作品を観て人々が好きなように想像を膨らませてくれることを望んでいる。

 

チチ・フリーク
グラフィティアーティスト。1974年生ブラジル・サンパウロ生まれ。祖父が日本人の日系三世。13歳の頃よりコミックアニメの世界に入り7年間ブラジルを代表するコミックスタジオ・マウリシオ・ソーザをはじめ、ディズニー、マーベルなど国内外の様々なコミックデザインに携わる。

1995年イラストレーションを手掛け始め、MTV BRAZILのアニメーションを筆頭に、ブラジル国内はもとより、日本、欧州、アメリカなど世界各国で壁画制作や展覧会を開催。2009年、サンパウロ美術館での展覧会は過去最多の入場数を記録。NIKEをはじめとする世界的スポーツブランドとも商品制作などを展開。東日本大震災があった2011年には駐日ブラジル大使館と日本国際交流基金からの依頼で石巻の仮設住宅にペインティングを行いながら現地住民とのコミュニケーションを図る復興支援プロジェクトに参加。

阪神大震災が発生直後の1995年1月20日、6階が完全に押しつぶされた神戸市庁第2庁舎
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鮮やかでダイナミックなペインティングを展開。エモーショナルな感動を禁じ得ない“光景”
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今回のアートプロジェクトには超即乾性スプレーペイントの有名ブランドメーカーも協賛
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自らの壮大な作品を見上げながら、イメージに近づけるために最後の微調整を行う
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休憩中作品を見上げるチチ・フリーク氏
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“壁画アート”は神戸の街並みに素敵なアクセントを提供してくれる
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作業中のチチ・フリーク氏が米粒ほどの大きさに見える
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新型コロナや悪天候との闘いを乗り越え、完成間近だった7月下旬、ラストスパート中
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気さくにポーズを決めるチチ・フリーク氏
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  • 構成・文椙浦菖子取材・撮影菊地弘一

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